出会いの形は最悪だ 第9話、第10話

 誰かとのアイコンタクトだと思い目を逸らした際に僕も斜め後ろを見たが、誰一人こちらを向いていなかった。僕より前の人間にアイコンタクトした可能性も低い。僕と如月さんの席の直線上には男子しかいない。それに一人は、同じ中学のやつ。もう一人はずっと前を向いていて怪しい動きはなかった。つまり、あの微笑みは僕に向けられたものだけど、どんな意図があるのか。僕が想像できるのは一つしかなかった。それは……朝のことだろう。あの微笑み方は、いいものを見てしまった。そんな顔だった。僕の人生本気で終わったかもしれない。如月さんとはできるだけ絡まないようにしよう。

 絡まれないように意図的に避けていたけど、そもそも今日初めて会ったのだから話す機会さえもまずなかった。休み時間に気を張っていたが完全な無駄骨だった。

 昼休みの昼食を終えて、最後のホームルームが始まった。今日の午後は部活見学の時間だからじっくりと選ぶように田村先生からお達しがありホームルームも終えた。入る部活には悩んでいるけど、最初めに行く場所は決めていた。

 

「君、一番好きな映画は何?」

 

「えーっと……パイレーツとか?」

 

「ふっ。君まだまだだね。まあよろしいこれからとくと知っていくが良い。その映画も名作だが、本当の名作というものは影に埋もれて……。ちょっと、君! どこに行くのだ? もう少し待ってくれー!」

 

 映画研究会はやめよう。こんな感じなら幽霊部員になるのも時間がかかりそうだ。となれば次に行こうか。

 

「ねえ、君はこの中でどの子が可愛いと思う? 綺麗なオレンジ色のポピー? それとも薄紫が綺麗なアネモネ? それとも春の風物詩の桜かな?」

 

 女の先輩は少し美人で、話しかけられたのは嬉しかったけど、話についていけそうになかった。園芸部雰囲気は良かったけど、庭いじりなどしてこなかった僕がいられる場所ではなさそうだった。

 というわけで外から中へ戻り、地学部が部室として使用している特別教室二を目指した。そう遠い距離ではないけど、三階にあるのなら最初に行くべきだったと後悔をしながら階段を登った。大抵の人はどこかで部活の説明を受けているのか、同じ学年の人とはほとんどすれ違わなかった。だからと言ってはなんだが、単純に道に迷ってしまった。

 だが、おかしいのだ。僕は栞に示された通りに道を歩いたのに、どうして目の前の教室は真っ暗になっているのだ? 教室の名前も部活名も何も書かれていない。単純に階を間違えたのか? いや、踊り場はしっかり二回通過した。ということは、ま、まさか、学校の七不思議というやつに巻き込まれたのか?

 現実にそんなことが起こるわけもなく、階段を挟んだ隣の教室は同じ階にある物理実験室としっかり書かれていた。それを根拠にここは間違いなく三階だった。

 この真っ暗な教室が地学部の部室のようだけど、こんな真っ暗な教室入れない。扉を開けた瞬間全員の視線が僕一点に集まる。そんな恥じらいを受けるくらいなら今日は帰ろうか。また明日来ればいい。

 決意して振り返ると、そこに一人の少女がいた。そして彼女はこう言った。

 

「入らないの?」

 

 突然話しかけられたのと、見覚えのあるその顔に僕はフリーズしてしまった。だって、その話しかけてきた少女はあの山河内碧だったのだから。

 

「興味本位で来ただけだから、こんなに入りにくそうな雰囲気ならまた明日でもいいかなって」

 

 そう言い残してこの場をさるつもりだったけど、彼女は僕を逃すまいと右腕を掴んで勢いよく地学部の部室の扉を開いた。

 

「遅くなりました。一年三組山河内碧です。よろしくお願いします!」

 

 張り切った元気な挨拶はその場にいた全員の視線を集めていた。そして、彼女がこう言ってしまったから流れは完全に僕の元まで辿りついていた。

 とにかく視線が痛い。お前も言えよ。みたいに放たれるその視線が痛い。だけど、ここで何も言わなければ先輩方に失礼極まりない。本当はこんな中で言いたくないけど、こうなったら仕方ない。重たく閉ざした口を渋々ではあるが、小さく開いた。

 

「一年四組、な中田大智です。よろしくお願いします」

 

 彼女の声とは対照的に小さく呟いた僕の声に周りは静まり返っていた。耐え難い空気だったけど、それよりも僕は初めて女子とがっつり手を繋いだことに今更ながら動揺していた。

 

「あの、手、離してもらってもいい?」

 

「あ、ごめん」

 

 相変わらず重たい空気だったが、さすが先輩といえよう、見事のこの空気を改変したのだ。

 

「よ、ようこそいらっしゃい、一年生ちゃんたち! さあさあ、お好きな席にお座りになってね!」

 

 テンションが高く、ついて行くのには困難で、どことなく樹に似ている元気な挨拶で歓迎を受けた。僕は言われた通りに適当に空いている廊下側二列目一番後ろの周りに誰もいない席に座った。

 山河内さんもこの中に一人か二人は友達がいるだろうから僕がその隣を奪ってしまっては寂しい思いをするだろうから、そのことを考慮してわざわざこの席を選んだのに何故だ? 何故、山河内さんは僕の右隣の席に座ったんだ? こんなにも席は空いているのに。友達が誰もいなかったのか? だとしても、わざわざ僕に合わせずに、他の子に倣って四番目のとこに座ればいい。何故、僕の隣の六番目なんだ。

 頭をフル回転させても答えは想像もつかなかった。答えが気になるところだけど、本人に訊くわけにもいかず、真相は迷宮入りとなるだろう。今回だけはそれで構わない。

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