出会いの形は最悪だ 第5話、第6話

 僕も同じ行動を取っているけど、他の生徒のような不純な理由ではなく、記憶を思い出すために仕方なくやっているのだ。同じ行動だけど同じにされたくはないね。

 さてさてそんなんことより、彼女との面識を僕はようやく思い出した。きっかけは、彼女が席につく前に僕の方を見て不思議そうな顔を浮かべた時だ。あの顔を見るのは、今日は二回目だ。直近の記憶ではあるけど、思い出したくない記憶。

 それは、今朝の女の子を蹴りかけた時にチラッと一瞬見えた顔そのものだった。それに気付いた瞬間から僕の背中は寒くなり、自分でも気が付くほど放心状態だった。まあ、そんなわけだから対面式がどんな感じだったのか僕の記憶は少ない。

 対面式がわけもわからず終わり、僕ら新入生は一度体育館から退き教室へ戻った。

 

「大智、顔色悪いけど大丈夫か?」

 

「あ、ああ。大丈夫、大丈夫」

 

 樹のこういう時の勘は本当に鋭い。だけど、もちろん欠点もある。

 

「なんだ。じゃあ、昨日夜通しでしたゲームの話でもしようか?」

 

 勘は鋭いのだが、気は利かないのである。

 聞く前からくだらないのが想像できるし、顔色悪い人間に話す話でもないだろう。第一、夜通しでゲームしたなんて全く持って興味がない。勝手にしてろよ! って感情しか湧かない。まあ、バカな話をして笑わせてくれようとしているところは認める。だけどそれは今じゃない。

 

「樹、またゲーム夜更かししてたんだ。それでよくそんな元気でいられるよね」

 

 ああ、やっぱり、綾人は救世主だ。樹との会話をこれ以上続けるのは困難だったから本当に助かった。

 

「本当に。どうしたら毎日そんな元気でいられるんだよ」

 

 楽しい休み時間はあっという間に過ぎていき、チャイムが鳴り響いた教室は、あっという間に静けさを取り戻していた。

 

「これからもう一度体育館に行って、今度は部活の紹介があるからな。座っているとこ悪いが、また廊下に並んでくれ」

 

 教師の合図で、ガチャガチャと音を立てながら僕らは廊下に二列で並んだ。今回はさっきと違って少し自由だった。ちらほらと会話が聞こえてくるが、教師たちは誰も注意しない。注意されないとわかれば、会話をする人は次第に増えていった。あちこちで話し声が聞こえているけど、僕は近くに樹も綾人もいないからそもそも話し相手がいない。そして今回も、並んでからの出発が遅い。結局、列が進んだのは並び終えてから五分後くらいだった。

 僕らは対面式の時と何ら変わらない席に誘導されその場に座った。この時にふと思ったことがある。僕はてっきり座る場所が変わるから教室に帰されてのだと思っていた。だけど実際は何も変わっていない。なぜ僕らは一度教室に帰らされたのだ?

 この疑問は、部活動紹介それが始まって解決した。

 部活動紹介第一弾は、どの学校でも人気の野球部。普通の部活動紹介なのかと思えば、キャプテンと副キャプテンが野球あるあるの漫才を一通り披露した。つまりは、僕らが教室に一度返されたのは、小道具を搬入するのと最終リハーサルのためだというのか。でも、今は悪い気はしない。だって普通に面白いこの二人のやりとり。この後部活紹介するところは気まずいだろうな。これ以上のクオリティを求められるけどハードルが高すぎだ。

 野球部の部活紹介が終われば、そこから先は中学の時のような普通の部活紹介だった。それは、サッカー部から始まり、陸上部、バスケットボール部、バレーボール部、卓球部、ライフル射撃部、ソフトボール部、弓道部、体操・新体操部、バドミントン部とスポーツ系の部活が続いた。その後、十分間の小休憩を挟んで、演劇部から始まり、囲碁将棋部、合唱・アカペラ部、軽音楽部、茶道部、写真部、美術部、書道部、吹奏楽部、化学部、地学部、園芸部、手芸部、新聞部、クイズ研究会、マンガ研究会、料理研究会、映画研究会、恋愛科学研究会、ラヂオ研究会と文化系の部活動が名を連ねた。さすが高校。中学の時とは桁違いに部活の数が多い。まあ、悩まず帰宅部一択の僕にはそれほど関係ないけど。

 この時はまだ何も知らずに安堵していた。だが、事件はいつも突然起きるのだった。

 それは、無事に部活紹介を終えて教室で樹と話している時だった。

 

「そいえば大智、あれ聞いた?」

 

「あれって何?」

 

「一年生は、必ずどこかの部活に入らないといけないって噂」

 

 その時点で僕の脳内には衝撃が走ったが、樹の言うことは全て真に受けてはいけないのだ。と言うことで、真意を綾人に訊いてみた。

 

「綾人〜。樹が、一年はみんな部活に入らないといけないって言っているけどマジの話なの?」

 

 綾人は考えることなく首を縦に振った。

 

「僕も先輩に聞いただけだから詳しくは知らないけど、なんかそうらしいよ」

 

 綾人はこんなくだらない嘘をつくやつではない。と言うことは、樹の言っていることは本当だと言うのか。くそ、こんななことになるなら部活紹介ちゃんと聞いておくべきだった。帰宅部に入るつもりでまともに聞いていたの野球部だけだ。でももうスポーツは懲り懲りだ。こうなったら仕方ない。部活見学の名目で部活偵察を行おうか。あ、その前に、簡単で幽霊部員になれそうな名前の部活を探しておこう。第一候補があれば勧誘を断るのも楽だしね。

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