第4話


そして今日、マスクウェルとの顔合わせをサラリと印象が残らないように終わらせるつもりだったのだが、初っ端からあまりにも予想外の出来事が起こったというわけだ。


(マスクウェル殿下……かっっっっっこかわいっ○+*ッッッ)


マスクウェル、顔が良すぎてどうしよう問題である。

語彙力すら失う可愛さである。

そして婚約する流れをできたら阻止しようと思っていたファビオラだったが、父であるブラック伯爵の「マスクウェル殿下の婚約者になるか?」の問いかけに本能のままブンブンと首を縦に振って頷いてしまった自分がいた。


(断罪されるまで、マスクウェルの婚約者でいられる幸せを堪能しようそうしよう)


恋は人を変えるというが、心の中はすっかり春爛漫である。

どうせ学園に入らなければアリスとの恋愛感情は育たない。

ならば学園に在学期間を含めて四年間だけは夢を見させてもらおうではないかと決めたファビオラの行動は早かった。


(時間は有限よ……!身を引くことになっても後悔しないように頑張らないと)


それにマスクウェルがファビオラに興味がないということは、心ゆくまで観察し放題である。

間違った選択肢を選んでいることもわかっていた。

けれど、たとえ裁かれようともマスクウェルがアリスを好きになるまで側にいれた方が後悔しないと思ったのだ。

それ程までにビビッと感じるものがあった。


(マスクウェルが幸せなるためだったら、悪役令嬢だって何だって演じてみせるわ!我儘放題は無理かもだけど……目指せ、女王様ッ!)


ファビオラはグッと拳を握った。



「エマ、わたくしはマスクウェル様のために今日から〝悪女〟になるわ!」


「旦那様、奥様ー!お嬢様がまた訳のわからないことを言ってます」


「ちょっとっ、人の必死の決意を勝手に告げ口しないで!」



しかし両親はエマの言葉を聞いて、すぐにこちらにやってくる。



「ビオラ……!いい加減に変なことを言うのはやめなさいっ!誰だっ、ワシの可愛いビオラに悪影響を及ぼした奴は」


「旦那様ッ、今すぐ医者を呼びましょう!ビオラちゃんが心配よ……!」


「ほらっ!エマのせいでややこしくなったじゃない」


「ファビオラお嬢様がおかしくなってから早一年……私は自分の職務を全うしているだけです」


「クールすぎる!でも、そんなエマもやっぱり可愛い!」


「うるさいです」


「一体どうしたんだろうか。ビオラがよくわからない方向に……」


「エマ、ビオラちゃんがまた変なことをしそうになったら教えて頂戴!」


「かしこまりました」


「!?」



両親と侍女のエマとの関係も少しずつ変わっていた。

ファビオラとして、これからどうなっていくかは不安もあれど心の中は薔薇色であった。

そして今日はマスクウェルとの二回目の顔合わせである。

最初の時は自己紹介しかできなかったし、心臓を撃ち抜かれ過ぎてまともに顔も見れなかった。


両親を追い出してからド派手なドレスに着替える。



「ねぇ、エマ!変じゃない?変じゃないわよね!?ちゃんと我儘そうに見える?女王様になりそうな感じする?」


「我儘で高飛車に見えます。大丈夫ではないでしょうか。ファビオラお嬢様」


「棒読みすぎるッ!クール!でも可愛い」


「…………うるさいです」



今日もエマは無表情でロボットのようである。

人形のような可愛らしい顔と無駄のない動き。今日もエマはクールだ。

以前は犬猿の仲であったエマとファビオラだったが、今は大分一方的ではあるが仲良しである……と、ファビオラは思っていた。


(エマには幸せになってもらいたい。わたくしが断罪されたとしてもブラック伯爵家……両親とエマ達には影響ないように振る舞わないと!)

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