第13話

優津は石のように固まり、やがてゆっくり時間を掛けて俺を見上げた。

見て取れるくらい、動揺していた。


「うううえい?…たねうま…なんで分かったの…?」


まさかと驚愕し、何故なのかと困惑し、泣きそうなのに口元はやたらにやつている。

読み切れない顔だ、本当に。


「…ごめん、割と最初から気付いてた」


次第に可哀想になっきて、俺はよしよしと頭を撫でてみた。

しかし、大興奮のスイッチを入れてしまったようで。


「なんでぇー!」


今日一番の唸り声的な大声を出させてしまった。

誰か来たら大変だ、きっと来ない。

希望的観測をしている間も優津は、なんでなんでと俺の回りを飛び跳ねまくる。


「この部屋見た時、お前俺でも安心って言ったろ?」


「言った?」


「俺、狭そーだな…ここもって思ってたんだ」


天井同様さもありなんと、心の中で判断しようとしていたとこに。


「でもお前安心って」


お一人様用設計と付け加えていたが、俺が安心ということは天井が高いということ。


「言ったー?」


己の発言を忘れ、小首を傾げる優津をおいて先へ進める。


「俺が安心って、体育館か講堂ぐらいなもんだろ」


それには激しく同意し頷いてくれる。

それが嬉しかった。

そうなんだ。

優津は俺のこと、思っているよりずっと考えてくれてるのだ。

だから、梁が危ないと教えてくれる。

天井が高いかどうか確認してくれる。


「ああ、天井高いのか、ここ。でもなんで知ってるんだ?…ってなって」


それを聞いて優津は初めて、人間らしい程度にあちゃーと顔を歪ませ笑った。

こんな風にもできるのな。


「ちょう俺しくってんじゃん」


「まあ超ヒントだった…」


なんだか俺も可笑しくなって笑って、これで誰かに見つかったとしてもいいかと思った。


その後優津の持っていた正式な鍵でドアを開けてもらい、俺は貴婦人の部屋の中に入ることができた。

正しい鍵で開けると、あの壁とドアの裏にあった鉄の棘がからくりで動き、簡単に開け閉め出来る仕組みになっているらしい。

詳しくは貴婦人機密事項一冊目、真ん中辺りのページと、今代の貴婦人役に言われた。

半地下からさらに2メートルほど掘り下げて作られた部屋は、想像以上に天井が高く爽快で、予想以上に資料の山に囲まれていた。

これ全部見たの?と口を開けながら問うと、


「ちょー読みまくったー」


一切の苦もなかったかのように言いのけられた。


とても想像できない。

俺の前でふざけていた優津が、あの貴婦人だったなんて。

そして気づきもしなかった。

四六時中一緒に居たのに。

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