第10話 両親の正体

 目の前には倒れた男が一人。


 な、なんでこうなった…?


 ~遡ること数分前~


「はぁ、信じてもらえないなら仕方ないですね…まぁそうですよね。自分は何年も冒険者とかやっていて、全然ランクは上がってないのにたった10歳の子供はもうBランク。悔しいでしょうねぇ。何ならあなた、僕よりもランクが低かったりして(笑)」


「てめぇこのガキ…!!舐めた口きいてんじゃねぇぞ!!!」


 男が拳を振り上げる。今だ!


身体強化ブースト!」


 俺は即座に拳に身体強化を施し、男の腹を殴った。


 ドォォン!!!


 男はそのまま吹っ飛び、置いてあったテーブルに突っ込んだ。

 1発目は決まった。だがまだ起き上がってくるだろう。ならばもう1発!と臨戦態勢に入ったが……


(あれ、おかしいな。起き上がってこなくないか…?)


 そう思って、男のほうを見ると、目を回して気絶していた。


「へ?」


 すると、ギルド内からわっと歓声が上がった。


(な、なんだ!?)


 俺が目を白黒させていると、一人の剣士らしき男がこちらに寄ってきて、


「おい坊主、お前すげぇな!!あのゴルドを1発殴っただけで倒しちまうなんてよ!」


「あ、ありがとうございます?」


 そこからはもうすごかった。


 ギルド中の冒険者が俺のほうに来て、


「あなたすごいわね!さっきの、身体強化をしていたでしょう?その年で詠唱破棄を使えているなんて!私もまだできないのに!」


「なぁ、さっき言ってた冒険者ランクがBって本当のことか?」


「ま、まぁ一応…これが冒険者カードです」


 そうやって俺のカードを見せると…


「すげぇ、マジだ!!どうやったらその年でBランクになれんだよ!」


「え、えっと、五歳になってすぐ冒険者登録をして、そのあとたくさん依頼受けたり、魔物討伐をしてたらいつの間にか…」


「そんなん『剣聖』とか『魔法姫まほうき』の話でしか聞いたことねぇよ!」


「剣聖?魔法姫?誰ですか、その人たち」


「お、坊主知らねぇのか?なら教えてやるよ。


 今から20年ほど前のある日、突然王都がワイバーンの群れに襲われたんだ。人々は逃げまどい、冒険者に立ち向かう勇気のある者はおらず、もう終わりかと思われたその時、ある男が現れた。そいつはギーゼレイス。剣一本で戦っていたことから、後に『剣聖』と呼ばれるようになった男の名だ」


 ん、んん?なんか知ってる名前が出てきたような気が…


「そして『魔法姫』。本名はリリアナ。この冒険者が現れたのは、剣聖がでかい依頼で大怪我を負ってしまった時だった。王都にはその大怪我を治せるものはおらず、途方に暮れていた。だがそんな時、ある魔法使いが現れたんだ。そいつは剣聖が負った大怪我を一瞬にして治癒した。その魔法使いはその後、剣聖とパーティーを組んで依頼をどんどん達成していった。多くの属性を使いこなし、敵を葬っていく姿から、『魔法姫』と呼ばれている」


 あ、あれぇ?こっちもかぁ?


「ちなみにこの時、剣聖は魔法姫に惚れ込んで、何度も求婚して、何とか結婚までこぎつけたんだ。しかも2人共、実は貴族だったらしくてな、今はこの国の伯爵貴族、レグシェル伯爵家の当主夫妻をやっているんだってよ」


 やっぱ父様と母様じゃん!もう確定じゃん!


「へ、へぇ~。す、すごいですね~(棒)」


「もしかして、坊主は2人の息子だったりしてな!」


 わっはっは!とみんなが笑っている中、俺はどういう反応したらいいのか分からなかった。そんな時…


「はいはい、皆さんそれくらいにしてあげてくださ~い!その子が困ってますよ~。後、誰かゴルドさん片付けてくださいよ」


「お、レイちゃん。わりぃな、今やるよ」


 そしてずるずる引きずられていくゴルド。南無…


「ごめんね、ここの人たち、悪い人じゃないんだけど…えっと、」


「あ、アリオストです。大丈夫ですよ、気にしていないので」


「そう、それならよかった……ていうかアリオスト?今アリオストって言った?」


 何故か食い気味に聞いてくるので、ちょっと引きながら


「そ、そうですけど、何かあるんですか?」


「ちょっとここで待ってて!ギルマス~!!」


 そう叫びながら奥に引っ込んでいった。てかギルマス?また面倒事の予感がするんだけど。

 そんなことを思っていると、さっきのレイさん?と一緒に、男性が1人出てきた。あの人がギルマスなのかな。


「待たせてしまってすみません。あなたがアリオスト・レグシェル君であっていますか?」


「はい、そうですけど…何か御用でしょうか?」


「少しお話が――」


「おい、今レグシェルって言わなかったか?まさかあの坊主、ほんとに剣聖と魔法姫の息子だったのか!?」


 あ、ばれた。思ったよりあっさりばれた。


「あー、ばれちゃいましたか」


「すみません。私がここで言ってしまったばっかりに…」


「いえ、別にいいですよ。いずればれることですしね」


「そうですか?ありがとうございます……ですが一応、奥のほうで話をしてもよろしいですか?」


「はい。分かりました」


 そうして奥の部屋に通され、座るように促された。


「申し遅れました。私王都ディシディアのギルド長をやらせております、シュレイム・ニールスと申します。以後お見知りおきを」


「アリオスト・レグシェルです。苗字があるってことは貴族の方なんですね」


「はい、子爵家の四男というほとんど平民に近い立場ではありますが……と、自己紹介はこれくらいにして、本題に入りましょうか。まず、こちらを」


 一枚の手紙を渡された。


「これは?」


「ギーゼレイス殿…あなたの御父上から送られてきたものです」


 内容としては、今度、俺が王都の学園に入学するために王都に行く時がある。その時にきっとギルドにやってくるだろうからどうか目を向けておいてほしい、というものだった。


「この手紙が突然送られてきた時は驚きましたよ。親バカなのはあなたのお兄様方の話を聞いたりしていたので知っていましたが…」


「父とは知り合いなのですか?」


「ええ。私も学園に在籍していたことがありましてね。その時からの腐れ縁というやつですよ」


「そうだったんですか」


「学生時代、ギーにはよく振り回されて…おっと、これは内緒でしたか」


 父様…


「まぁ、そんなことがあって、お兄様たちも素晴らしい才能をお持ちだったものですので、あなたもそうだと思ったのですが…まさかあれほどとは…きっとすぐSランク冒険者になれるでしょう」


「あはは、買い被りすぎですよ」


「……そんなものではないのですが...まぁいいでしょう。今日はもうお帰りになりますか?」


「そうですね。あまり遅くなると母様も心配しますし…」


「リリアナ様と一緒に来られたのですね。よろしくお伝えください」


「はい、それでは、僕はもう帰りますね」


 では!と立ち上がり、入ってきた扉のほうに向かうと、


「あぁそういえば、そこからでるとまた冒険者に囲まれるかもしれませんね」


 げ、忘れてた。どうしよ。


「どうしましょう…」


「裏口を使いますか?」


 シュレイムさん神!


「そうさせていただきます。ありがとうございます」


「大丈夫ですよ。さ、こちらへ」


 そして裏口から出られた俺は、シュレイムさんにもう一度お礼を言い、帰路についた。


 家に着くとシーナさんが出迎えてくれた。


「坊ちゃま、お帰りなさいませ。奥様は中でお待ちしておりますよ。それと、もうすぐ夕食ですのでそのまま食堂に向かってもらっても構いませんよ」


「ありがとうございます。ではそうしますね」


 その日は夕食を食べながら冒険者ギルドでのことを話して、お腹一杯になった俺は、ベッドに入るとすぐに眠りにつくのだった。


 明日の試験、頑張るぞ~!

 ―――――――――――――――――

 作者です。


 母様と父様についてさらっと…

 まぁ、チートとチートの間にできた子供は、チートですよね!あと、シュレイムさんが少し言ってましたが、兄様たちもこの世界ではチート級です。アリオスト程じゃないけどね☆


 次回:試験でもやらかし…?


 またお会いしましょう。ではでは~

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