取材テープ

仁城 琳

とある村にて

「ええ、ええ、いいですよ。面白いかどうかは分かりませんが。どこにでもあるような言い伝えというか、噂話みたいなものでしょうかねぇ。記者さんのお気に召すかしら。そうねぇ、私が子供の頃は悪いことをするとあの方が来るぞ、なんて祖母に言われたものです。あの方?なぜ名前を言わないのかと?それがよく分からないんですよ。祖父母も両親も、大人たちは皆、名前を口にしてはいけないと、そう言うのでみんな自然と名前を口にしてはいけないと思っているんですねぇ。ふふ。今ではこんな話信じる子供はいないですから躾に使われることは減ったようですがやはり怖がる子は怖がるようですね。それで今でもこの話が残ってるんでしょうねぇ。…それだけでは無いんでしょうけど…。え?いいえ、なんでも。へぇ、はい。それで何故私が取材に応じたか、と。はい、はい、そうねぇ…。いやいや言いにくいとかではなくてね…そうねぇ、はい、話しましょうか。この噂話ね。この村に長く伝わっているのはあの方が原因としか言えないような不思議なことが起こるんですアア。お医者様は昔からこの村特有の流行病ではないかと言うんですがねぇ…どうもねぇ。村の人間は病気なんかでは無いとア思っております。え、不思議なこと?えぇ、アアアおかしくなってしまうんです。おかしくなってしまうって言うのは急に笑い声をあげて返答もできなくアアなってしまうんです。笑い声をあげているのに顔は苦しそうでねぇ。おかしくなったとしか言い様がないアアアアでしょう。ねぇ。え、おかしくなった人を見た事あるのか、ですか。ええ、アええ、そうねぇ。実はね、私の友達がアアアそうなってしまってね。あれは中学の頃かしら。アアアア学校の帰りにねア、突然あの子が、なんとか様アア、アって言ったのよ。アア『なんとか』の部分は聞き取れなかったのね。なんと言うか…、アアア確かにあの子はなにか口にアアしたのに聞き取れなかった。そうねぇ、なんだかあの子の声に被せるように「あー」アアアって声が聞こえてね。とにかくその後急にあの子はアアアア急に笑い出してね、私はあの子のアアア家に連れ帰ってね。アアそうしたらあの子のご家族は顔色をアアアア変えてね。病院にア連れていったけどどうにもならなかった。…私がアアアアアアアアアアア取材に応じたのは友達がアアアあの方のせいでアアおかしくなったから。いえ、あのアアアア方のせいかどうかは分からないけれどアアア私はアアアそのせいだと思っているのアアアア。『なんとか』アアアアアアア様はあの方のアアア名前なんじゃないかって。え?アアア声が聞こえる?アアアアアアアあら、ごめんなさいね。最近アアアアアアアアアアア耳が遠くてねぇ。アアアアアアアアアアアアアアえ。アアアアアアアアアアアアアア人の声?アアアアアアアアアアアアアアうぅん、アアア分からないわ。聞こえないアアア。え、あら…?アアアアアアアアアアアアアアアアアアあ…アアアアアアアアアア様…?アアアアアアアあは、アアアあはあははアアアアアアアアアアあはははははははははははははははははははははははははははははアアアアはははははははははははははははははははははははははははアアアアアアアアアア様あはははははははははははははははははははははははははははははアアアアアアアアアアアアアア」


取材テープはここで切れている。俺は心霊雑誌の記者をしている。同僚のあいつは聞いたことのない都市伝説の情報を入手したと張り切って取材へ行き、そのまま病院へ運ばれたと聞いたものだから村で何かあったのかと病院へ行くと、あいつは大きな笑い声をあげていた。医者にもどうすることも出来ないらしく、様々な検査を行ったがどこにも異常はない。復帰の目処も立たない。しかしながらあいつはプロだと感心したのはこの取材テープだ。このような状態になっているにもかかわらずあいつはこの取材テープをしっかりと持ち帰っていたのだ。そしてこのテープを聞いてみた訳だが。

「…なんだこれ。」

最初は少し気になる程度のノイズが段々と大きくなっていき、アアア取材相手の婆さんは最後に発狂したように笑いだした。まるで、

「あいつと同じ…。」

俺はアアアア背中に嫌な汗が流れるのを感じた。アアこれは、この話は聞いてはいけなかったのでは。アアアアアアアしかし『なんとか』様アアアアアアアとはなんなのか。あいつはそのアアアアアアアアアアアアアア『なんとか』アアアアアアアアアアアアアア様のせいでアアアアアアアおかしくなったのでは。アアアアアアアアアアアアアアアアアア。ふと背後アアアアアアアアアアアアアアに気配を感じアアアアアアアアアアアアアアた。

「アアアアアアアアアア様…アアア?ははアアア。」

おかしくも無いアアアアアアアアアアアのに笑いが込上げる。これはアアアアアアアアアアアアアアアアア聞いてはいけなかったアアアアアアア。

「あはは。アアアあはははははははははははははははははははははははははははははアアアアアアアアアアアアアアあははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははアアアアアアアあははははは。」

アアア、アアアアアアアアアア、アアアアアアア

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