第9話 長い1日の終わり

 着替え終わった俺は更衣室から外へ出る。

 流石に阿瀬はまだ居なかったため、ふぅ...ため息をつく。

 今日はなんだか濃い1日だったな。なんて思っていた。

 阿瀬の強烈な兄を見たり、何故か俺がホモにも阿瀬にもナンパされたり...。

 あ、そういえば阿瀬の態度変だったなと思い出す。


 今までは振り回されるだけだったけど、今日の阿瀬は何かがおかしかった。

 いつもは大袈裟に反応見せるような感じだったが、今回は上の空みたいで何か掴めないような...? そんな感じだった。

 

 阿瀬は俺をナンパしてきた際は布瀬という偽名でお姉さんの演技をしているのかと思ったが、海の家に入ったかと思ったらいつの間にか阿瀬に戻っていてどうやら海の家に来る前の記憶が残っていないらしい。


 二重人格なのだろうか? いや、演技という可能性も捨て切れない。

 もし阿瀬が二重人格だとして、いつもの天真爛漫な阿瀬では無く、今回現れた人格がもし今後出てきたら俺はどう反応すればいいんだろうか。

 いつも通りがベストっていうのは正直分かりきってはいるが、今日の状態を見てそれが出来るのか...。 無理だな。

 俺は阿瀬に寄り添うのがベストだったりするのだろうか。


「あぁもう分からん!!!」


 俺は声をあげる。 

 周りに居た人は俺へと白い目を向けてきたが、そんなのは気にしない。

 声に出すだけでなんか心がスッキリした。

 

 ちょんちょんと左肩を叩かれる。

 俺は左の方へと顔を向ける。

 阿瀬がなんか心配そうな顔でこちらを見ていた。


「着替えている時に先輩が叫んでいるのが聞こえたので急いで来ましたけど何かありました...?」

 

 阿瀬は如何にも急いできた、という感じでカバンのチャックが空いていて、そこから物が少し飛び出ている。

 

「ごめん阿瀬、なんでもないよ。 わざわざ急かしたみたいでごめん。」

「いえいえ、先輩たまにそういう所あるので慣れてますから大丈夫です!」

「俺いつも阿瀬の事急かしてたっけ?」

「さぁ?」


 やれやれと首を振る阿瀬にちょっとムカついたので軽く足を蹴る。

 阿瀬はイタッという声を出し、俯いてしまった。

 それから暫く反応が返ってこない。

 俺はやりすぎたなと反省をし、阿瀬の顔を上げさせる。

 

「ッ!」


 そこには目にハイライトが入っていなく、阿瀬の姿が目に映った。

 気の所為だと思うがごめんなさいを小声で連呼している。そんな声が聞こえた気がした。


 内心ビビっていると阿瀬はいつもの表情へと戻し、


「愛のムチですね先輩♡」


 なんて冗談を言ってくる。

 鳥肌が立つ。 

 何故あの状況から冗談を言えるのだろうか。


「本当にごめん阿瀬! 俺はそんなつもりは無くて...。」

 

 俺は精一杯に頭を下げる。

 すると阿瀬は少し大きな声で


「そんな事無い!!!」


 と言う。

 何がそんな事無いのだろうか。


「いや、そんな事無いわけが無い! 阿瀬を悲しめたのは俺の責任だ! だから俺に出来ることがあったら何でも言ってくれ! 罪滅ぼしになるなら喜んでやるから!」


 俺も負けじと言い返す。

 

「なんでもしてくれます...?」


 おそるおそる阿瀬は聞いてきた。


「あぁ!勿論! 金よこせ以外なら!」

「それじゃあ先輩。」

 

 何を要求されるのかと身構える。


「今の事気にしないでください。 それだけでいいです。」

「...は?」

「気にしないでください! 本当に!」

「阿瀬がそれでいいならいいけど...。 じゃあ今度放課後とか土日になんか飯奢るわ!」

「デートですか!? 行きましょう!!!」

「おう、好きなタイミングで誘ってくれ。」

「分かりました!」

「それじゃあ帰ろっか。」

「はい!」

 

 俺と阿瀬は歩きだす。

 このまま先輩後輩の良い関係を築けるように。

 なんて思いつつ...。


 だがこの時の俺は知らなかった。

 阿瀬との関係が良好になればなるほど、苦しめられることになるなんて...。



 ー 一章完 ー

 

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後輩の様子が日に日におかしくなっていく... ディスペル @SHIMAMIZU

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