第55話私の初恋はあなたです。

「エレノア、本当に美しいです。やっと今日に辿り着きました。夜が楽しみです。」

レイモンドが私の頬を撫でながらうっとりとした目で見つめてくる。

レイモンドと私は今日結婚する。


サム国の豪華絢爛な王宮はそのまま残されて、私は今日から邸宅を出てそこに住むことになる。

王宮にあるチャペルでこれから結婚式を挙げるのに、彼の気持ちは初夜へと向かっていた。


「レイモンド、今日という日の様子は領民だけでなく、世界中に発信されます。節度を持った行動を心がけてください。一瞬たりとも気を抜いてはなりません。今度、初夜のことを考えたら初夜もなしにします。」

サム国は帝国領になった最後の国だ。

レイモンドの父親である先の国王が王位にこだわったため、帝国の領地化が遅れたと世界では認識された。

民の利益を一番に考え玉座に居座り続ける父親から、王位を奪い取ったレイモンドの行動は世界中から賞賛の的となった。

だから、そんな彼の結婚式は当然、世界から注目されている。


「エレノアはそれで良いのですか?」

彼は相変わらず、自分は初夜が楽しみだから私も初夜が一番楽しみだろうと同意を求めてくる。


「良いに決まってますよね。昼間に行われる結婚式がメインイベントだということが理解できないのであれば、初夜はなしです。」

私の大好きな彼の海色の瞳をみると先ほどまであった情欲のかげが消えていた。

私が厳しく言った言葉に私の本気が伝わったことが分かりホッとする。


「それにしても、新婚旅行で帝国の首都まで行くのはどうなのでしょう。王宮の部屋で2人でゆっくりした方がずっと有意義な時間が過ごせるとは思いませんか?」

帝国の首都までは片道で馬車に乗りっぱなしで1ヶ月はかかる。

私はいまだに12年前、自分がどのように帝国からここまでエレナ・アーデンによって連れて来られたのかわからない。

私にとっては寝ている間に、ここにワープしてきたように感じていたのだ。


「新婚旅行というのは名目です。アラン皇帝陛下とエレナ皇后にご挨拶に伺うのが一番の目的だということが分かりませんか?首都には私が恩義に報いるべきか方々がいらっしゃいます。まずは、その方達に改めてお礼とご挨拶に伺うのが筋というものです。2ヶ月以上もの間、フィリップ様がご厚意で領主代行の仕事をして頂けるというのです。それなのに部屋でゆっくり過ごしたいなどと、あなたの目的が丸分かりですね。領主としての自覚が全く足りておりません。」

彼は初夜の一回という約束も反故にしそうだ。

15キロ太って小太りになるという約束も守らなかった前科がある。


「はっきり言って、エレノアが初恋のエレナ皇后に会うのが嫌です。」

彼が子供のようなことを言いながら、私の頬を撫でてくる。


「私の初恋はレイモンドあなたです。エレナ皇后は私の憧れでヒーローだったと気が付きました。婚約者指名の後、庭園であなたと話した時、私は自分にはない強い自信を持つあなたに惹かれました。」

私は彼と最初にあった日に彼の海色の瞳に映った自分が、今まで見たどの自分よりも可愛く見えたことを思い出した。

私はあの時にすでに恋に落ちて彼にときめいていたのだ。


「それは本当ですか?でも、エレノアは冷たく婚約破棄をするように言ってきましたよね?」

明らかに驚きを隠せいないレイモンドが私に矢継ぎ早に問いかけてくる。

帝国の首都に行くまでに、優雅な話し方と表情管理を叩き込まなければいけなそうだ。

彼にも帝国の首都に来訪する際の顔をつくってもらわなければならない。


「カルマン公爵家には『周囲はみんな詐欺師、人は駒だと思え』と言う家訓があります。明らかに詐欺師の顔で、私を利用しようとしているあなたを見たら、とてもじゃないけれど自分の気持ちを認められませんでした。詐欺を働いても詐欺られるな、人を駒にすることがあっても駒にされるなという教えが私には染み付いていたからです。」

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