第20話あなたを暗殺して頂きます。

「レイモンド、あなたに話さなければいけないことがあります。私について来てください。」

私は自分の部屋に彼を招き入れた。


「エレノアが部屋に入れてくれるなんて初めてですね。」

彼はそう言って微笑むと私のベットに座った。

「一体どんな教育を受けたら、外を出歩いた服装で他人のベットに座るなどという不躾な行動ができるのですか?お陰で寝具を全て取り替えなければいけなくなりましてよ。私が2歳の時でもそんなことをしたら、窓から放り出されましたわ。」

私の聞いたことのない強い口調にレイモンドが目を丸くしている。

フィリップ王子と同じ海色の瞳なのに、どうしてこんなに彼の視線は不快なのか私はその原因についてまずは彼に話すことにした。


「エレノアが私に惹かれていないことは分かっていましたが、私は将来のあなたの夫ですよ。そのような口調で子供を注意するように叱ってくるのはいかがなものでしょうか?」

レイモンドは首を傾げながら言ってくる。

不敬なことを言われても怒り出さないところは彼の良いところかもしれない。

でも、生まれた時から未来の国王の椅子を約束された彼には全く危機感がない。


「私はレイモンドに触れられると不快で鳥肌がたちます。あなたに従順で媚びた演技をする度に、幼い頃、皇帝専属の娼婦として育てられた屈辱を思い出して吐き気がします。私は客観的に自分の価値を見られず、未来の国王として育てられただけで誰よりも自分に価値があると勘違いしているあなたを見るたびに、私を虐待してきた実の父親を思い出すのです。」

私の発言がそれほどショックだったのだろうか、彼はいつも微笑みをたえた表情をしていたが一気に真顔になった。

レイモンドを見ると、紫色の瞳に生まれたというだけで自分は誰より価値があると思っていた実父を思い出した。

自分の娘でもおかしくないエレナ・アーデンに取るに足らないものとして相手にされず、苛立てば私に手をあげていた最低な父親だ。


「先程もレイモンドはダンテ補佐官の横で人形のように座っているだけで何もおっしゃりませんでしたね。自分は王族だからと挨拶をされるのを待っていたのですか?ダンテ補佐官は数年後には平民になっているあなたに挨拶をする必要がないと暗に仄めかしていましたよ。こちらを見てください、隣国のアツ国の過去の新聞です。アツ国は帝国の侵略に対し危機感を持っていました。帝国が国を侵略した時、国を帝国の領地にします。国王や王太子をそのまま領主にするケースは3割です。おそらく、アラン皇帝陛下が領主として不適格と判断した場合は帝国から貴族を派遣して領主にしています。サム国の場合、国王陛下が高齢なので王太子であるレイモンドを領主にするかの判断になります。おそらく、あなたの今までの行いは観察されていて、帝国の領地の領主としては不適格だと判断されているのでしょう。王族としてサム国の国民の幸せを望むなら、今すぐに王太子を降りて頂けませんでしょうか?帝国から派遣された貴族が領主となった場合はどうしても領民よりも中央政府に利益をもたらす領地運営がなされてしまいます。本日、フィリップ王子とお話しをして彼の聡明さに感銘を受けました。彼ならばサム国が帝国領になった際も、皇帝陛下がサム領を任せ領民にとって良い領地運営をしてくれると思うのです。」

サム国の新聞は自分の国が最高だという主観が強すぎて、全く参考にならなかった。

私は客観的視点を持ち、帝国の侵略に危機感を持っていたアツ国の新聞を取り寄せスクラップしていた。

レイモンドは私の手を引き自分の隣に座らせてきた。


「待ってください。私に王太子の地位をフィリップに譲れと言っているのですか?あなたは王妃になれなくなりますよ。」

レイモンドは女はみんな王妃に憧れていると思っているのだろう。

だから王太子という立場とルックスを武器に遊べるだけ遊んできたのだ。


「私に触れないで欲しいと言いましたよね。サム国を国として守りたいなら、あなたは全く別人に変わらないといけません。ちなみに私の実家カルマン公爵家は皇帝を唆す皇后を送り続けることで成り上がって来ました。レイモンドもご存知の魅了の力を使って、皇帝を操るのが公爵家の女の仕事です。しかし、そんなことを繰り返しているので皇家もカルマン公爵家の女には警戒しています。魅了の力を万能のように勘違いしているようですが、知能が高かったり女をモノのように思っている相手には効きづらいです。警戒している皇族を確実に落とすために、私は2歳の頃から完璧な品格と男を夢中にさせる手練手管を身につけさせられました。自分の運命に絶望し、魅了の力が使えないと思われれば皇帝の元に嫁がないで済むかもしれないと期待して力を隠しました。アラン皇帝陛下が6歳の時に、私は彼と会っています。彼の周りは老齢な貴族までみんな彼に跪き彼の言葉を金言のように聞いてました。私は彼には魅了の力は絶対効かないと思いました。それどころか、明らかに周りの人間の感情を全てコントロールしているかのような彼を見て恐ろしくなりました。彼の妻になるなど、父親から虐待を受けるより恐ろしいことだと思いました。そんな私が王妃になりたいがために、レイモンドのような愚かな男の妻になるという罰ゲームを受けるとお思いですか?私はこの婚約を解消するつもりです。あなたが婚約を解消してくれないならば、エレナ・アーデン御用達の暗殺ギルドに頼んであなたを暗殺して頂きます。」



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