第13話男のパラダイスは女の犠牲によって成り立っているの。
「私、剣術をはじめようと思うのだけれど、良い師範がいたら紹介してくれる?」
先程、剣で私を助けたハンスを見て、魅了の力を使わなくても自分の身を守る術を身につけようと思った。
アゼンタイン侯爵家は騎士団を持っていないが、リード公爵家は騎士団を所有している。
そのためリード公爵になると言うことは公爵家の騎士団の団長になると言うことなのでハンスは剣術を磨いていた。
「エレノア、俺が教えるよ。」
軽く言ってきたハンスに私は注意をした。
「あのね、子供の遊びではないの。私は本気で取り組むつもりよ。もし、知っていたら命のやり取りをするような地下闘技場のようなところを紹介して欲しいわ。」
習い事で剣術がしたいわけではない、危機に陥った時に魅了の力を頼らないようにしたいのだ。
「エレノア、俺が正規の騎士の2人を倒したところを扉越しだから見えていなかったのかな?俺はすでに師範を超える腕前を持っているの。それと地下闘技場なんて知らないから。それこそ、エレナ・アーデンご紹介の暗殺ギルドの本部に行った方が良いだろ。」
ハンスが私の髪をまたかき混ぜながら言ってくる。
髪を撫でられるよりも、彼との関係はこんな感じの方が私は安心する。
「暗号を言うのは、居酒屋だから未成年は入れないのよ。ヒゲでもつけたら、成人して見られるかしら?とにかく特訓するにしても私を殺す気でかかってきてくれる相手と訓練したいのよ。そうでなければ、実戦では役に立たないじゃない。」
私が言った言葉にハンスが爆笑する。
「じゃあ、基本は俺が教えるから、後は落ちてくる葉っぱを切ったりしたりして戦ったらいいんじゃないの?または、王太子殿下のお手つきの貴族令嬢にナイフを握らせてバトルするとか。」
彼がまた私を笑わせてくる。
彼は私の絶望顔に惹かれたのではなかったのだろうか、彼の前だと私は笑ってばかりいる気がする。
「とにかく、騎士資格を取れるくらいの腕前にはなっておきたいわ。そうすれば、私に武力があると周りに伝わるでしょ。それから、私、再来年アカデミーに入学することになったから。王太子殿下と婚約破棄になっても侯爵になる道があると私を安心させるためにお母様が入学をすすめてくれたの。」
私はアゼンタイン侯爵夫人の気遣いを思い出し胸が熱くなった。
「まじか、一緒に頑張ろうぜ。そういえば来年フィリップ王子がアカデミーに入学するらしいよ。」
ハンスの言葉に一瞬、時が止まる。
フィリップ王子との接触はできるだけ避けたい、彼を見ると私はおかしな気持ちになるからだ。
でも、彼が国政をどの程度真剣にやる気があるのかを知りたい気もする。
「どうして?王族はアカデミーに入学する必要がないじゃない。もしかして、フィリップ王子にも何かお考えがあるということなのかしら?」
王族は政治を王宮の家庭教師から学ぶのが通例だ。
彼も当然幼い頃から家庭教師をつけて学んでいたはずだ。
アカデミーに求めているものは何だろう、王太子殿下の政治に対する姿勢や行動に疑問を持って貴族と人脈を作り王位を狙っていると期待しても良いのだろうか。
「理由は本人にしか分からないよ。同年代の友達が欲しいだけかもしれないし、世界情勢の変化を見て次世代の党首になる貴族達の意見を直接聞きたいからかもしれない。少なくとも女の尻ばかり追いかけている王太子殿下よりは国王になるのに相応しいよな。王位を長子が継ぐという法律は悪法だよな。確かに兄弟で争うのは良くないけれど、レイモンド王太子殿下のような人間が現れるとどうしようもなくなる。」
帝国では兄弟で皇位を争っていて、敗者となった兄弟を出兵させて戦死させるなど悲しい戦いが続いていた。
王位の長子相続もリスクがあるが、兄弟で争うのも見苦しく悲しい。
国民投票などをして、いずれの王子を国王にするか平和的に決められたら良いがそんな国はどこにもない。
「本当にその通りね。王太子殿下は多分国王になったら、他国のように一夫多妻制を導入するのではないかしら。そうすれば、自分がいくら妻を持とうと誰も非難しなくなるしね。男のパラダイスは女の犠牲によって成り立っているの。そうなるとサム国の魅力はますますなくなるわ。」
サム国は一人の女性を愛し抜くことを美徳としている。
帝国のカルマン公爵邸ではいつも妻達が歪みあっていた。
妊娠したら毒を飲ませたり、赤子に手をかけたりまでしていた。
「俺は生粋のサム国の男だぜ。たった1人の女を愛し抜くことこそに価値がある。」
ハンスが明るく言った言葉に、暗い霧が晴れるような気がした。
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