第12話ライバルを潰しても愛される順番は回ってこない。
私はハンスにどのようにエレナ・アーデンが私を誘拐してサム国に逃してくれたかを話した。
彼女の話を誰かに聞いてもらいたかったのだと思った。
私に初めて親切にしてくれて、リスクを負いながらクールに私を助けてくれた恩人の話だ。
「それでね、困った時は連絡するように渡された紙を見たら、裏道の居酒屋で暗号を言うように書いてあったの。きっと暗殺ギルドの本部とかよね。そもそも4歳の私が居酒屋なんて入れるわけないのにエレナ・アーデンて本当に不思議な方なのよ。」
夢中になって話している私を見て、ハンスがなぜだか頭を抱え出した。
「エレノアってもしかして、女が好きなのか?明らかにお前エレナ・アーデンに恋しているだろう。今まで見たことないキラキラした顔をしているぞ。いつもの絶望顔はどこにいった?」
ハンスの言葉に思わず私は自分のエレナ・アーデンに対する感情が恋なのか考えた。
確かに人に好かれたいと思ったのは彼女が初めてだ。
でも私が恋をするとしたら彼女ではない、私が未だ関わるのを恐れているフィリップ王子な気がする。
「エレナ・アーデンは会ってみれば、分かると思うけれど性別関係なく惹かれる美貌と魅力の持ち主なのよ。それにしても、絶望顔って酷いこと言うのね。」
私は彼女が何を考えて私を助けてくれたか分からない。
でも、彼女のおかげで私は幸せを感じる瞬間が世界に存在することを知った。
「俺の恋のライバルは帝国の絶世の美女とサム国ってわけね。俺がどうしてエレノアを好きになったのかという話をさせてもらうよ。5歳の時アゼンタイン侯爵邸で同じ年の子がいるといわれて紹介されたエレノアが、見たこともないくらいの絶望顔をしていたんだ。俺はなんとかエレノアを笑わせたくて過ごしていたら、いつの間にかお前のことばかり考えるようになっていて好きになっていた。」
突然、自分が私を好きになった理由について語りだすハンスに思わず笑ってしまう。
こんなに暖かい彼と一緒にいたら、私も彼に恋をし出しそうで怖くなる。
「ハンス、あなたは恋のライバルを潰せば自分が愛されると思っているわね。おそらく、その考え方はビアンカ様も持っている考え方だわ。だから王太子殿下の婚約者に選ばれた私を消そうとしたの。でも、実際はそういうものではないわ。王太子殿下の女はビアンカ様だけではないし、彼は女たちに自分は彼の特別だと思わせるのが上手いだけで彼にとって特別な相手は存在しないの。だからライバルを潰しても自分だけが愛される順番は回ってこないわ。私はビアンカ様とは友好的な関係でいたいし、彼女には恋で自分を見失ってほしくないの。恋の相手が素敵な方なら別だけど、相手は色狂いの王太子殿下よ。あなたはビアンカ様と同じ家に暮らして信頼されている弟よ。今、王太子殿下の批判をしても彼に恋している彼女の耳には届かないと思う。王太子殿下の批判をすることなく、客観的に現状を把握させるように努めてくれる?」
私はビアンカ様には元の優しいお姉さまに戻って欲しかった。
リード公爵は特に私を差別しなかったが、リード公爵夫人は私のような野良猫と自分の子が仲良くするのをよく思っていなかった。
それを察して、公爵夫人の軽蔑の視線から私を守り実の妹のように接してくれたのがビアンカ様だ。
「え、ライバルを潰しても順番は回ってこないってどういうこと?俺とエレノアが両思いになることはないってこと?王太子殿下と姉上が両思いは考えられない気がする。姉上は夢見がちだけれど、王太子殿下は人を愛するような方ではないよな。エレノアはそんな奴じゃないよな?」
ハンスの言いたいことはわかった。
父親から虐待されてきたから、男に対して冷めた目で見てしまうのだろうか。
そんな私でもフィリップ王子に会った時は関わるのが怖いくらい恋したような気持ちにさせられた。
「ハンス、大事な姉君ビアンカ様に今は集中しましょう。彼女がライバルの貴族令嬢を次々と消そうとしたらどうするの?」
「そうだな。姉上が可愛がっていたエレノアを消すことを考える程、追い詰められているんだもんな。」
ハンスに言われて私は改めてレイモンド王太子殿下を怖いと思った。
女遊びに費やす労力を国を守ることに使ってくれたらどれだけ良かったか。
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