第4話想いを返せない大切な人。
「ねえ、ハンス、ビアンカ様の様子はどう?」
私は5歳の時からの幼馴染ハンス公子がいる。
彼の父親とアゼンタイン侯爵が知己の仲であるがために私たちを結婚させたいとまで両家は言い合っていた。
彼の姉であるビアンカ様は王太子殿下にご執心だった。
ビアンカ様はアゼンタイン侯爵家に引き取られてばかりで不安に満ち、周囲に攻撃的になってしまい悩んでいた私に寄り添ってくれた方だ。
優しくて穏やかで私は実の姉のように彼女を恐る恐る慕ったが、彼女は全力で私を受けてくれた。
私が婚約者指名をされた瞬間、彼女の私に対する目が一瞬にして敵意に変わった。
彼女だけではない、あの場にいた貴族令嬢は皆レイモンド王太子のおてつきで自分が婚約者に選ばれると思っていた。
だから、10歳で付き合いで婚約者選定のお茶会に出席した私が選ばれるなり驚くほど敵視した目つきに変わった。
「引きこもっているけど、エレノアが気にすることじゃない。王太子の被害者の1人に過ぎないことを認められないだけだから。エレノア、お前は大丈夫だよな。」
ハンスのピンク色の髪が心なしか荒れている。
リード侯爵夫妻は当然、レイモンド王太子と娘ビアンカが婚約するものだと思っていた。
ハンスの黄金の瞳に映る私はそんなに不安な顔をしているだろうか。
いつも通りのように見えるが、彼は人の心の機微に敏感なのできっと私は不安なのだ。
「私はレイモンド王太子の被害者にはなっていないわよ。ただ、女を人を弄ぶような彼の行いは王族であるのにふさわしくないと思うだけ。」
私が今怒りに満ちた顔をしていたのだろうか、ハンスは私の表情を見ていられなかったのか珍しく私の表情を隠すように私を抱き込んで来た。
今の私は自分を利用しようとする人間への嫌悪感と怒りが私を取り込まれて、ハンスの不器用な優しさによる温もりに抱かれても心が落ち着かない。
「エレノア、婚約を破棄してしまえよ。俺、別にお前のことは何とも思っていないけれど、結婚するならエレノアが気を遣わなくててよいと思っていた。王太子殿下と婚約破棄して非難されても守るからさ。」
ハンスの胸に抱きこまれている中、必死で顔を上げて彼の表情を盗み見た。
彼は悪戯っ子のように笑いたが、少し苦しそうだった。
何とも思っていない相手にする表情ではない。
もう、何年も前から彼が私を思ってくれていることを知っていた。
彼の表情管理はまるでなっていない。
その程度の感情の隠し方で彼は自分の本心が私に漏れないとでも思っているのだろうか。
彼は私がどれだけ人の顔色を伺いながら過ごしてきた子か知っているようで知らないのだ。
ハンスがいくら私に対して興味がないと言っても、彼が私を好きで大切にしようとしていることがわかってしまう。
「私の良き理解者のハンス・リードの言うことに従いところだけれど、、身分社会で私の方から王太子との婚約を破棄することはできないわ。」
私は自分自身に「王太子の婚約者」という新たな足かせがはめられたことを嘆いた。
ハンスもフィリップ王子と同じく明らかに貴族という生まれとは思えないくらい純粋な人だ。
だから彼がいくら私を思ってくれても、優しくして私を姉以上に気遣ってくれても心を許してはいけない。
心を許した瞬間、彼を求める私が安易に想像できるからだ。
彼を求め、彼に期待し、魅了の力で彼を壊す。
そんなところまで、まるで目の前で起こっていることかのように想像できて苦しくなった。
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