第6話 S級クエスト
ギルドハウスの前でフランとローズは火花を散らしていた。
今にも戦いが始まりそうな雰囲気である。
「フラン。そろそろ離してくれ。暑い」
「ご、ごめん」
フランの顔はまるで熟れた果実状態だ。
「ふ〜ん。なるほどなるほど」
ローズはイタズラな笑みを浮かべる。
「な、何よその顔は!」
「何でもありませんわ。こんなひよっこでは好敵手としては張り合いがないと思っただけですわ♪」
「いい度胸ね。ここで焼き尽くしてあげるわ」
「ふふっ。わたくしに勝てるとでも思って?」
「だからやめろって」
急いで二人の間に割って入る。
「そういえば、あなた方はこんな所で何をしていましたの?」
「これから城へ行ってノーランド王に謁見しようと思っていたんだ。長期滞在するには許可がいるだろ?」
「あら! シルフィードに移住なさるおつもり? それならわたくしが取り繋いでもよろしくてよ」
「本当か?!」
「ええ。ヴィンセント様のためですもの♪」
「ありがとう! 助かるよ!」
フランの視線が痛い。
本気の殺気が混じっているように感じるのは気のせい・・・ だよな?
「ちょっと〜。滞在するのはいいけどギルドを作るのが先だよ?」
「承諾した覚えはないぞ」
「いい加減諦めなさい。あなたは私のギルドに入るの」
「どうしてそこまでギルドにこだわるんだ? 所属するだけならわざわざ作らなくてもその辺のギルドに入ればいいだろ」
「自分のギルドじゃないと意味がないのよ」
「なぜ?」
「それは内緒〜」
イラッ。
「心配しなくても大した理由じゃないから大丈夫だよ」
「なら尚更作る必要はないな」
「ごほっ! ごほっ!!」
演技がバレバレでツッコむ気も起きない。
まったく・・・
「あなた方はギルドを作りたいのですか? でしたら少し手伝っていただけません?」
ローズは俺の手をそっと包み込んだ。
ほのかに香る薔薇の香りに思わずリラックスする。
ああ、癒しとはこのことだ。
「どういう意味よ?」
フランはローズの手を振り解いた。
「クエストですわ。シルフィードの東にゲイル山脈という山脈があるのですが、その山頂にある飛煌石を取りに行くための準備を進めていたところでしたの」
「クエスト?」
「見せた方が早いですわね。どうぞこちらへ」
ローズに言われるままギルドハウスの中へ入ると、武装した冒険者や魔導士で溢れており、至る所で大きな笑い声が響いていた。
豪快に一気飲み勝負をしている冒険者もいる。
いかにも城下町の飲み屋って感じだ。
大きな木板にたくさんの貼り紙が乱雑に貼ってある。
「これが依頼クエストか。結構種類があるんだな」
「よーし! ギルド結成したらバシバシ稼ぐわよ!」
「何でそんなにやる気なんだよ」
「どうせなら有名になりたいじゃん。やるからには頂点を目指さないとつまらないでしょ?」
「いや全然。むしろ俺は目立ちたくな・・・ ごふっ!?」
フランの肘打ちが横っ腹に突き刺さる。
少しは加減しろよ・・・
「何を遊んでいますの?」
あまりの苦痛に悶絶していると、ローズに一枚の紙を渡された。
「今回わたくし達が受けるクエストですわ」
紙の上部に仰々しく赤い文字で『S』と書かれている。
「S級?」
「はい。このクエストは既に何人もの犠牲者を出している高難易度クエスト。わたくしたちには人手が必要ですの」
「俺たちに手伝って欲しいと。そういう事か?」
「さすがヴィンセント様! 話が早くて助かりますわ♪」
フランは駆け寄ろうとするローズをせき止めるように俺たちの間に割って入った。
「で? それと私のギルド結成にどう関係があるのよ?」
「今回のクエストはわたくしのギルド『金色の薔薇』としての受注であって、わたくし個人として受けるクエストではありません。ヴィンセント様はギルド結成を躊躇っているのでしょう? 実際にギルドのサポートをしていただければどのような活動か参考になるのではと」
「なるほど。一理あるね」
ないから。
こいつはまた勝手なことを。
ローズも気付いてくれ。
俺は一ミリも躊躇っていないということに。
「え、えーとだな」
ローズの人差し指が唇にそっと触れた。
「それに、『金色の薔薇』のサポートとしてS級クエストを達成した暁には、その武功を王が見過ごすはずはありませんわ。謁見だけでなく長期滞在の申請もスムーズになるかと♪」
恐れ入った。
この子、こちらの思惑にもちゃんと気付いている。
「分かった。そういう事なら手伝おう。フランもそれでいいよな?」
「な〜んか乗せられてる気がするけど、まあいいわ。ギルドはちゃんと結成するからね?」
「もう好きにしてくれ・・・」
やれやれ。
本当にテコでも動かないな。
「それで? 肝心のクエストの内容を聞いてないんだけど?」
ローズの眼差しから真剣さが伝わってくる。
「飛行艇はシルフィードのシンボル。今やその利便性以上にシルフィードの経済を支える重要な役割を担っています。ですが、ここ数年、飛煌石の収集が急激に減少し滞っているのです」
「一体どうして?」
「ゲイル山脈に住まうゼファリオンというドラゴンが原因ですわ」
「ゼファリオン・・・」
「生還者の証言によると、家一軒丸ごと飲み込むほど巨大で体を覆う鱗もかなり頑強のようですわ」
「ふむ。なるほどな。デカくて固いというのは大抵タフで強いと相場が決まってる。一筋縄ではいかないだろうな」
フランはともかく『G』ランクの俺なんかじゃ戦力にならないかもしれないな。
魔法が使えたのはたったの一回。
あの時はマグレだった可能性もあるし、なにしろ実践経験が無さすぎる。
となると、やはり俺にできるのはせいぜい剣術と体術なわけだが相手はドラゴン。
苦戦は免れない、か。
ん? どうして二人とも顔が真っ赤なんだ?
ローズに至っては俺というより俺の下半身を気にしているような・・・
「なんだよ二人とも。ソワソワして」
「あ、あなたが変なコト言うからだよ!」
「何も言ってないだろ」
「言ったわよ!」
「はぁ? 何て」
「だ、だから、その・・・ デ、デカくて固いって・・・」
何かと思えばそんな事か。
「経験上そうなんだから仕方ないだろ。固い相手には無理にでもねじ込まなきゃダメなんだ」
「ほんっっと最っ低!!!」
「お、おい何で怒ってるんだ?」
「不潔! 変態! 触らないで!!」
り、理不尽だ。
「ロ、ローズ・・・?」
「その・・・ あ、あなた様がお望みでしたら、わたくしはいつでも捧げる覚悟がありましてよ」
「へ・・・?」
待て待て。
一体何のことだ? 話が見えない。
ーーー幼い頃。
王家の魔導士たるもの魔法だけではいけないという事で、ユリウスとの剣術稽古が俺とヴィゴーの日課になっていた。
これがまた本当に子供を相手にしているのかってくらいキツイ内容で容赦がなかった。
できれば稽古の時のユリウスの顔は思い出したくない。
それくらい恐ろしかった。
幅も長さも身長の倍はありそうな木刀を軽々と振り、長刀から放たれる鋭く重い斬撃の嵐に全く身動きが取れなかった。
どうしようもない中、決死の覚悟で懐に飛び込みユリウスの防具の隙間に狙いを定め、ねじ込むように放った捨て身の一撃。
大怪我を覚悟して飛び込んだ結果、ついに俺の木刀がユリウスの鳩尾を完全に捉えその巨体を地につけた。
ユリウスから初めて取った一本だった。
過去にユリウスから一本取れた者は一人もいないかったらしく、言葉にできない達成感で満たされたのを覚えてる。
今思えば、ユリウスは本気で俺を殺そうとしていたんじゃないかと思うくらい鬼気迫るものだった。
そんな地獄のような稽古。
ゼファリオンの話を聞いた時、ふとその事を思い出したんだ。
「ご、誤解だって! そんなつもりじゃなかったんだ! 決して卑猥な意味ではっ」
「知らない! ヴィンセントのばか! 変態!」
そんなド直球投げないでくれ。
さすがに傷つく。
「こ、こほん! 出発は明日の朝。ギルド前に集合としましょう」
「わ、分かった」
何とも言えない空気が流れる。
「それでは私はまだ準備がありますのでこれで」
頬を赤らめたローズのウインクにドキッとする。
「また鼻の下伸ばして」
「う、うるさいぞ!」
はぁ・・・
なんか一気に疲れた。
S級クエスト。本当に大丈夫だろうか。
「なにしけた面してるの」
「誰のせいだよ・・・」
「S級クエストなんて余裕だって! この私がいるんだから!」
不安でしかない。
一体どこからその自信が出てくるんだ。
「はぁ・・・」
見上げる空はすっかり夕焼けに染まっていた。
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