消えない恨みの形

羊丸

消えない恨みの形

 高校の外では部活で活動をしている生徒の中、夕陽の光が教室の窓に差し込んでいる。


 そんな中、学校の一番左端にある、人があまり通ることがない相談室では教師の女性と生徒の女の子が左右にある椅子に座っていた。


 教師の池田由美は長い髪を一つ結びをさせながら「さて」と目の前にいる生徒の吉田智子に声をかけた。


「それで、何か相談をしたいのかな?」


 由美の言葉に智子は少しだけ怯えながら「実は」と話し出した。


「最近、変な視線を感じるんです」

「変な視線?」

「はい」


 智子は返事をすると、説明し始めた。


「帰りとか、自分の家なのに知らない視線とか感じて」


 説明していく智子は徐々に体を震わせている。


「両親とかには相談はしなかったの?」

「流石に、視線だけじゃあ信じてもらえないと思って、それで」

「そう、それは怖いわね」


 由美は優しく声を掛けた。智子はその声を聞いて涙を浮かべた。


「先生! 私、私これからどうしたらいいのでしょうか」


 智子は助けを求めるかのように由美に縋り付いた。


「まぁ、一旦落ち着いて座りなさい」


 由美は智子を椅子に座らせると、気を取り直した。


「所で智子さん」


 由美は智子の名を呼ぶと真剣な顔を智子に見せた。


「貴方、過去にいじめた人がいるでしょ」

「えっ」


 由美の言葉に智子は体を凍らせた。


「なっ、なんでそれを」

「そして、その人は自殺をしてしまった」


 由美は微笑みながら優しく話しかけた。智子はその発言に体をブルブルと振るわせ続けた。


 そう、由美の言う通り智子は1年前にある女子生徒を虐めていた。酷い虐めを繰り返した結果、その子は死んでしまった。遺書に智子の名前とそのほかの仲間も書かれていたためすぐにバレて親と一緒に自殺をしてしまった子へ謝罪をした。


 その時の自殺した子の両親の顔は今でも忘れていない。憎しみと恨みがこもった表情。自殺をしたことは智子やその他の仲間が殺したのと同じだからだ。


 その後は、誰も見ていなかったおかげなのかネットには好評とかされず、そのまま両親と加害者、その学校の先生内だけで終え、穏便に済まされた。


 智子は安堵というよりも、最悪な人生がスタートしたと感じられた。何せ、罰を受けるぐらいならまだしも何も罰を受けずにそのまま穏便に済ませ、おまけに高校を転校するだけで済ませられたのだからだ。


 両親もそうだった。働く先の移動願いだけを出してその場をただ同じように逃げただけだからだ。


 智子はそれをずっと胸の中に秘めていた。誰にも知られないようにと、それなのになぜ今目の前にいる由美はそのことを知っているのだ。


「なん、で」

「貴方、許されたと思ってる?」

「えっ?」


 由美はそのまま手を頬に置いて言った。


「だから、許されたと思ってるのって聞いてるの。さぁ、答えて」

「ゆっ、許されて、いるとは、思ってはいません」


 智子は言われた通りに答えるしかなかった。


 返事をすると、由美は「そう」と口にした。


「なんで私が、貴方が心の中で秘めていることを知っているのか、教えてあげる」


 由美は姿勢を整えると、微笑んで言った。


「自殺したあの子、私の大事な姪っ子なの」

「えっ」

「本当よ。証拠にほら、これ見て」


 由美はポケット中から一枚の写真を見せた。見ると、そこには笑顔で写っている自殺した子とその隣でも同じく笑っている由美の姿だった。


「本当に自殺した時と貴方がいじめをしていたことを知って、殺すというより、生きたまま殺してやろうと考えていたのよ。住所を調べて、閉じ込めて、色んな拷問とかさせようとさえ考えたわ」


 由美は笑顔で淡々と話していく。智子はその話を聞いて震えが止まらないでいた。


「でもね、それは別にしなくてもいいと思ったのよ。あることを見てね」

「ある、こと?」

「えぇ、知らないの? 貴方のお仲間さんが精神病院とか入院したり、おまけに部屋にこもることになったこと。 あっ、知らないか。何せ加害者仲間とは電話なんてできなくなるからね」


 由美の話に智子はどうしてだと思った。


「ふふ、どうしてだって思っているでしょ……後ろ見てごらん」


 由美の言葉に智子はゆっくりと振り返った。そこには頭から大量に血を流しているがいた。


 智子の顔を見るとスッとすぐに消えた。


 智子は死んだはずのあの子を見て更なる震えが上がった。


(まさか今までの視線って、あの子なの?)


 そう震えていると、由美は「さて」と声を出した。


「言っとくけど、私これでも結構我慢しているのよ。今まさにこの場には誰も人はいない。だから、いつでも殺せる状況」


 由美の言葉に智子は我をかえり、再び震えと恐怖を感じた。


「ごっ、ごめ、んな、」

「謝罪はやめてちょうだい。反吐が出る」


 由美はゆっくりと立ち上がり、智子の頬を触った。


「言っとくけど、逃げても私は貴方の後を追うわ。私、元から教師だったんだけど貴方のことを知った時にすぐにここに来たのよ。もちろん、殺すなんてことはしないわ」


 真剣な眼差しをしながら由美は智子に語り続ける。智子は涙を流しながらガタガタと震えているだけだった。


「貴方、自分が今普通に暮らしている中、あの子の両親はずっとずっと憎しみと恨みを抱えたまま暮らしているのよ。それ、意味わかるわよね。平然と暮らしていきながら、高校生活を送っているあんた。あの子も高校生活を送るはずだった」


 由美は立ち上がり、首を鳴らしながら髪に巻いているゴムを取った。


「なのに貴方とその仲間は壊した。違う? いや、違わないわね。貴方、今平然に高校に通っているんだもの」


 由美は顔を智子に向けた。背後にある夕陽のせいで顔が影で覆われ、憎悪塗れになった目だけが光っているように感じられた。


「わ、私、本当、本当は」

「言い訳はいいのよ。言い訳は。わかるかな? それほど恨んでいるのよあんたのこと。心が優しいあの子をいじめ抜いて、なんでアンタがのうのうと高校生活送っているのよ!!! ふざけないでよ!」


 由美は机を拳に叩き、怒り叫んだ。


「でももぉいいわ。送ってても。でも」


 由美はそういうと、智子の顔に近づいた。 


「逃げても、逃げても逃げても逃げても逃げても逃げても逃げても逃げても逃げても、貴方のことを追い続ける」


 見開いた目の奥からは憎悪と憎しみが混ざった感情が見れた。


 智子は震えて見つめることしかできなかった。


「これから、死ぬまでよろしくね。言っとくけど、本気よ。私。貴方が死ぬまで永遠に追い続けてやるから」


 由美の言葉に智子はただ永遠に逃げることが出来ないと悟ったのだった。そして、も永遠に。



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