第43話「魔王城に行こう」
「魔王軍の主要戦力が全員服従したのだから、いままでより大きなことができるぞ!」
何やらクワトロが張り切っている。
たしかにゲームで魔王軍の幹部は戦力を引き連れて、一国を荒らしまわる力があるという設定だった。
「わたしたちはこれからどうなるのですか……?」
アレクサンドリアが捨てられた子犬のような目をソルティアに向ける。
「このルークを頂点とした組織で、あたし直属の部下としてやっていけばいいわよ」
彼女は何でもないという顔で言う。
「かまわないわよね?」
ソルティアが若干上目遣いで質問してくる。
「ちゃんと俺に従ってくれるならな」
「従わないならあたしが粛清するわ」
と彼女が言い切ると、彼女の部下たちの表情がすこし引きつった。
「し、従いますよ」
「逆らったりしません」
『五哭将』たちも訴える。
「力と恐怖で従えた感じだねー」
トーレはニコニコしている。
「魔王軍相手じゃ仕方ないよね」
とドゥーエも納得していた。
彼女も魔に分類される鬼族だから、力が絶対に近いルールという考えには理解がある。
「ところで序列はどうなりますか? ほかの者にも従うのですか?」
アレクサンドリアが案外懲りてなさそうな問いを放つ。
根性あるなぁ……。
智謀以外はすごそうな【鬼謀アレクサンドリア】なんて、言ってるゲーマーたちの評価は的外れじゃなかったのかも。
「俺、ウーノ、ソルティア、クワトロ以外はお前たちへの命令権がないとしよう。そのほうがややこしくならないと思うからな」
トーレやドゥーレの指示は聞きたくないって暴れられても面倒だ。
クワトロなら武力で黙らせられるからかまわないだろう。
アレクサンドリアと『五哭将』は明らかにホッとしていた。
「戦力が集まってきたところで、どこかに拠点を持ちたいな」
俺は以前からぼんやりと考えていたアイデアを言葉にする。
「賛成だ。いつまでもこの庭を拠点ではな」
とウーノが真っ先に言って、新入りのアレクサンドリアと五哭将以外がすぐに同意した。
「どこかに生産拠点をつくれて、攻められにくい、あるいは外敵に発見されにくい場所がないものかな?」
と言うと、みんながきょとんとする。
「あの、ボス。それって『魔王城』ではダメかしら?」
おそるおそるソルティアが手をあげて発言した。
「魔王城なら生産拠点を持てるし、魔物の群れを配置するスペースがいくらでもあるし、簡単には攻め落とされないとわらわも思う」
とウーノが言うと、
「それにこちらから動かないなら、ヒューマンどもがそう簡単には発見できないだろう僻地にあるぞ」
クワトロが付け足す。
「そういう狙いであたしや部下を支配したんじゃなかったの?」
ソルティアがおそるおそる聞いてくる。
「うん、べつに」
恥ずかしいことでもないので否定しておいた。
魔王城を拠点にすると、主人公に狙われるフラグが立ちそうだったから、なんとなく避けてたんだよな。
「魔王城みたいに都合のいい拠点が、ほかに簡単に見つけられるかというと怪しいし、一から築くと時間がもったいない気はするな」
と俺は決断する。
そんな時間と手間をほかのことに使えるなら、そっちのほうがいい。
「じゃあここの面子で一回魔王城に行ってみようか」
と俺はウーノを見る。
「全員を一度に連れて行くのは可能か?」
「できるが、ソルティアにも自分の配下くらい面倒を見させればいいだろう」
彼女は答えるとソルティアをじろっと見た。
「わ、わかってるわよ」
ソルティアはビクッと震えて承知する。
あのときの一戦で完全に上下関係ができあがったみたいだ。
運ぶ者が二手に分かれたと言っても魔法なので、すぐに合流する。
「着いたぞ」
当然という顔でウーノが言って、前方を指さす。
魔王城は黒一色で外装が統一されていて、ダノター城もモチーフにしてるらしい、と誰かが言ってたっけ。
「あれが魔王城なんだ」
ドゥーエは畏敬を込めて、トーレは興味津々で、オルロとニクスは周囲を警戒しながら言う。
魔王城の周辺は【暗黒樹海】と呼ばれる天然型のダンジョンになっているから、そう簡単には外敵はやってこないはずだ。
ゲームだと軍勢が移動するスペースも、兵站の確保も不可能に近いという理由で、主人公たち少人数にゆだねるという設定だったと思う。
「止まれ! 何者だ!?」
と大声とともに白いひげを地面につきそうなまでに延ばした老人が現れる。
魔王軍の幹部にしてソルティアの後見人、そして留守居役という設定があるヴァルダルノだ。
小柄な老人という外見だからとバカにすると痛い目に遭う強敵である。
「あたしよ、ヴァルじい」
ソルティアが前に出ると、老人のけわしい表情が一気にやわらかくなった。
「おお、ソルティア様! ついにいまいましい封印から解放されましたか! じいはみなにかわってお喜び申し上げます!」
魔王も幹部たちもいない城を忠実に守って来た男だけあって、本当にソルティアの帰還を喜んでいる。
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