品質管理が提供するもの

　品質管理の仕事は有形ではない。仕様設計のチェック、製品動作のテスト、不具合報告、不具合修正後のテスト、製品品質向上への意見と提案、チェックリストによる作業状況の可視化、製品発売前後のお客さま対応。すべてが無形だ。形をもたないものを、依頼主へ商品として提供しているのである。

　形をもたないもののクオリティを上げるのは大変だ。製品の見た目がよくなる、高機能になるのとはわけが違う。品質のよしあしが、ひとめではわかりにくい。検査で成果を出すための思考力、製品がどう使われるかをイメージする想像力、少ない情報から不具合の発生原因を特定する推理力、目にした事象を他者へ伝えるための言語力。心身どちらにもかかってくるストレスに耐える力も必要だ。それらは、人間としての品質を向上させる、言っても過言ではない。努力したからといって、すぐによくなるとは限らない。成果報酬は確約されていないため、努力を無理強いもできない。努力するかしないかは、すべて個人の選択にゆだねられている。

　経験を得て、当日のうちに成長を遂げる器用な人がいる。経験や指導を得られれば得たぶんだけ、それに上乗せさえして日々めざましい進歩を見せる人だ。一方で、1週間、1か月、あるいは1年経ってもほとんど成長しない人だっている。両者の間には、人間の機能としての優劣があるのではない。「やる」を選んだか選ばなかったかの差である。やることを放棄しなかった人と放棄した人の差だ。やれるようになるための支援を求めたか求めなかったかの差だ。両者がたどり着く未来は、決定的に異なる。

　自分をよくできるのは自分だけだ。ほかの誰でもない。品質管理が提供する無形の商品をよくするには、無形の能力を向上させる必要がある。能力向上のためにする行動はなんだっていい。苦労して練習するだけが努力ではない。心身の疲労を回復し本来の力を発揮するために「よく寝る」のも立派な努力だ。大切なのは、思考と行動をともなった努力を「自分がやりたいからやる」と選ぶことである。その積み重ねから提供される商品は、たとえ形がなくとも価値を感じてもらえるだろう。