節約するのも仕事のうち

 品質管理の仕事は、製品が完成してから始まるのではない。ごく一部分しかできていない、完成まではほど遠い状態から始まる (始める) のがほとんどだ。当然、不具合だらけである。仕様設計とは異なる動きをする、ちょっとさわれば動かなくなる、堂々と「仮」と表示されている、とにかくできていない。そんな状態からでも、不具合をさがし、修正しておかないと、無事に発売日を迎えられない。品質管理計画を立てる前に、製品の発売日が発表されることだってある。

 ひとつ、またひとつと不具合のないパーツが増えていき、いよいよ製品として組み上げる。しかし、組み上げたからといって完成ではない。パーツ自体に問題はなくとも、製品のかたちをしてはじめて見つかる不具合がある。パーツ同士がかみ合わない、組み合わせたとたん、あるパーツが機能しなくなる、パーツの相互作用で想定しなかった動作をする。せっかく組み上げたかたちをバラバラに戻すことだってある。設計しなおし、再び組み上げ、不具合が起こらないかテストする。

 製品のかたちをなし、基本動作が正常であるのを確認したら、今度はお客さまが使うシーンを想定したテストへうつる。ここからがもっと大変だ。どのような場面で、どのような使われかたをしても、製品動作に不具合が起こらず、安定させなければならない。

 途方もない時間と労力、資金が必要だ。それらには限りがある。無頓着ではいられない。特に注意を払うのは資金だ。自分の働きにより、プロジェクトが確保した予算が日々減っている実感は持ちづらい。働き手はお金を出していないのだから無理もないだろう。プロジェクトから出ていく資金は、プロジェクトにかかわるすべての人の労働報酬にもなっているのだ。プロジェクトの懐が厳しくなろうと自分は潤うとしたら、資金への注意力を失う者が現れても不思議はない。

 しかし、忘れてはいけないことがある。お金に誠実な者だけが得る、無形の大きな報酬。それは信頼だ。あきらかに製品ができあがっていないとき、それでもクライアントから仕事を依頼される場面がある。現場目線で見れば、どう考えてもかけた時間とお金が成果に釣り合わない。乱暴な言いかたをするならムダ金だ。だが、報酬が支払われるとしたらどうだろう。仕事を請け負う自社にとって利益になるとしたら。あなたは『人数を減らしましょう』『作業を止めましょう』と、はたして言えるだろうか。自社に入ってくる利益が減っても構わない、プロジェクトの利益を優先させるべきだと言えるだろうか。

 どうか言えるようになってほしい。時間もお金も有限だ。だからこそ、誰もが大切にしたいと思うのだ。その大切なものを、あなたの誠実な態度と行動で守ってあげてほしい。その先にある得がたい報酬を受け取ろう。

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