第26話 神は大事なことを説明しない

 待て。落ち着け。

 よく見ると、白いオーラを放っている。

 俺が見てきた中で、白いオーラを放っていたのは創造神セレリールのみ。

 普通の生物では見たことがない。

 まさか――


「《強感力》」


 すべて丸裸にするつもりで、謎の物体に対して至近距離で全力のスキルを使う。


 やっぱりだ。

 俺と何かが繋がっている。

 というか、俺のスキルにいつの間にか、《白い箱(ホワイトキューブ)》という文字が増えている。


 箱じゃなくて大福だけど

 しかも魚食べてますけど。


「ナギ、ナギ! この子、目がある!」

「へ?」


 前に回って、大福と高さを合わせるように地面に頭をつけて覗き込む。


「ほ、本当だ」


 ゴマ粒のような黒い瞳が二つ。

 正面には、横に大きく開く口まであるじゃないか。魚の尻尾がその中に消えている。


「なんか、ちょっとカワイイ」

「え? そう? どう見てもキモイ大福にしか……」


 俺の話をよそに、アルメリーが食べてる謎物体の背中?をさっそく指で押している。


「ぷにぷにする!」

「いや、そこ驚くところじゃなくて……危険な生物だったらまずいってところを気にすべきで……俺のスキルだから大丈夫なのか?」


 《強感力》の力をさらに上げる。

 いつもは広範囲に使うものを一点集中させる。

 じっと見つめていると名前が見えてきた。

 新しい発見だ。


 ――見続けると名前が見える!


「《白い箱(ホワイトキューブ)》か……そのままだけど……なんで魚を食べられる? 生きてるのか?」


 二人が見つめる先で――《白い箱》は、げふっ、小さなゲップを吐き出した。

 まるで人間がするものと同じだ。


「カワイイ……」

「え、キモイけど……」


 くりっとした二つの目が俺の方に向いた。

 言葉では無く、何かを語りかけている?


 きょー、んり?

 きょーかんり?

 《強感力》か!


「あっ――」


 その瞬間、背筋が震えた。

 俺は今、《強感力》を切れ目無くずっと使用している。

 しかも、広範囲の薬草を調査するときのような集中力を維持したまま。

 慌てて周囲を見回した。

 目の痛みも頭痛も起こらない。


「まさか、この《白い箱》の効果って……」


 セレリールの言葉が頭に響く。


 ――あなたの力になるわ。


 謎の物体に視線を下ろす。

 それは食べ終えて満足したのか、ころんと横向きに転がり、アルメリーに白い腹をぽすぽすとつつかれていた。



 ◆◆◆



 魚の串焼きも食べたことも、野外で寝たのも初めてだった。

 コテージはあってもテントは未経験。

 異世界なので、てっきり見張りがいると思っていたけど、アルメリーは「いらないよ」とあっさり。


「ここら辺、強いモンスターいないし、ゴーストくらいだもん」


 ゴーストって黒い靄みたいな、前にアルメリーが倒していたやつだ。


「たき火してたら出ないから安心」

「ほんとに?」

「うん。それでゴーストに襲われたことないし」


 アルメリーはさらっと言ってさっさと荷物を枕にして横になった。

 俺が心配しすぎか?


「明日は街まで行けるといいね」

「そうですね」


 何とかしてアルメリーについていけるだけの体力が欲しい。


 ちなみに――

 《白い箱(ホワイトキューブ)》はゴマ粒のような瞳を細い線のようにして、ひっくり返っている。

 呼びにくいので名前も決めた。


 《白雪》――無駄にカッコイイ名前だ。雪見だいふくでは捻りがないのでがんばった。

 ちなみに、白雪は魚を食べてからうんともすんとも言わないので、完全に放置している。


「……これのことは明日考えるか」


 異世界の日没は早い。

 電気がないので、日が落ちると一瞬で真っ暗になってしまう。

 ガダンさんとミコトさんのアンダン亭が早くも懐かしい。

 俺もアルメリーと並んで横になる。

 彼女は寝つきもすごい。

 可愛らしい寝顔とともに、もう寝息をたてている。


「ほんとすごいよな……」


 アルメリーは小さな頃から旅をしてたのだろうか。

 これくらいタフじゃないと一人旅なんてできないだろう。

 見つめているうちに、妙な安心感が広がってきて、俺は眠りに落ちた。

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