第14話 アルメリーはそわそわしている

【アルメリーの視点】


 初めてのアンダン亭。初めてのパーティ。初めてのお酒。

 そして初めての――仲間になりましょう。


 何度も頭の中で繰り返して、にへらと口元を緩めた。

 嘘じゃないんだ。


「うぅぅっ――」


 柔らかいベッドの上で体を起こし、膝を抱いて、ごろごろ転がった。

 何度繰り返しただろう。

 とにかく、「仲間」と言ってもらえたことが嬉しくて嬉しくて、寝られるような気分じゃなかった。

 お酒のせいなのか、少しだけ頭がほわっとしている。


 でも、全然嫌な感じはしない。

 落ち着かなくて立ち上がって窓の外を見る。

 綺麗な月明かりが今日の自分を祝福してくれているようだ。


 ――アルメリーはうちのパーティには合わないと思うんだ。


 ――前衛いるし。


 ――どこの誰が厄介者のお前をわざわざパーティに入れるんだ?


 そんな言葉を順に思い出す。

 私は彼らを恨んだことは一度もない。

 私を仲間に入れるということは面倒ごとと隣り合わせになるからだ。

 だから、無理強いはできないと思っているし、期待してはいけないと理解している。


 けど、

 けど、

 私だって誰かとパーティを組みたい。

 『自分が知らない』理不尽な理由で避けられて、何もしていないのに嫌われるのは嫌だ。


 私の世界は今日、ナギの一言で色づいた。

 ほんの十数年の人生で、今日ほど心が震えた日はない。

 嘘でも良かった。

 正直に言えば、からかわれているかもって思った。

 でもナギは真剣だった。

 本当に仲間でいてほしいって気持ちが伝わってきた。

 もしかしたら、同情かもしれない。

 

「仲間になりましょう」


 それでも、その一言で私は心の底から救われた。

 これから先、ナギが離れていかない限りは、私は『本当の』仲間として彼に尽くしたい。

 私ができるお礼はそれくらいだ。


「ナギ……起きてるかな」


 ふと、彼の顔が頭に浮かんだ。

 きゅっと胸が締め付けられるような感覚。

 なぜかそわそわして、いてもたってもいられなくなった。

 仲間の眠りを邪魔するなんて――不安はあったけど、体は止まらなかった。

 気配を消して、隣の部屋に。

 鍵はかかっていない。

 そっと中をうかがう。


「ナギ? 起きてる?」


 小声で呼びかけると、返事の代わりに寝息が聞こえた。

 薄暗い部屋の中でも、私には彼の顔がはっきり見えた。

 自然と顔に触れようとして慌てて手を引っ込めた。

 こんなことで仲間を起こしてしまうのは良くないに決まってる。

 けど我慢できなくて、吸い寄せられるようにベッドに腰を下ろした。


 ――ちなみに一番目の仲間とは手をつなぐのが本当のルールです。


 ふと、ナギに教えてもらったルールを思い出した。

 寝る時も同じだろうか?


「昼間だけって言ってなかったよね……」


 私は恐る恐る手を握った。温かい。

 ちらっと寝顔を盗み見る。起きた様子は無い。

 音を立てないように体を寝かせ、腕を胸に抱きかかえるようにして横になった。

 規則的な寝息を聞いているうちに私も眠くなってきた。

 タルの中よりずっと安心する――

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