第3話 16時13分


「すげーなぁ」

 山道を車で飛ばすこと1時間、俺はようやく目的地にたどり着き一人呟く。

 辺りを木々で囲まれたその建物は、3階建ての西洋館で、古いながらも立派な外観をしている。

 西洋館越しに見える空は、少し陽が落ちてきているが、雲1つない晴天だった。


「ほんと、蛇九じゃくの家はイヤミなくらい金持ちだよな」

 蛇九じゃく、とは大学の友達で、そいつの家は超がつくほどの金持ちなのだ。

 確か、昔は財閥だったとか言っていたが詳しくは知らない。

 とりあえずこの別荘は蛇九家所有のもので、どうやらここらの山林一帯も全て彼ら一族のものらしい。


 そして、ド庶民の俺が、どうして金持ちの友人の別荘に来ているかと言うと…。


「あ、晴岩はれいわくーん!遅いよ!」

「やっと来たか、晴岩はれいわ!」

 俺が車から下りて別荘を眺めていると、正面の扉が開いて二人の男女が出てきた。


宇治治うじはる六角ろっかく!…てか宇治治うじはるその格好…」


 六角はパーカーにジーパンとシンプルな恰好だが、宇治治の方は、胸元を強調させた黒いドレスにマントを羽織っている。


 …うん、…なんだろう。めっちゃ可愛い魔女だな。


 二人とも大学から仲が良くなった友達だ。

 宇治治は長い黒髪が印象的な童顔巨乳の女の子で、誰にでも優しく素直というのもあり、大学内で結構モテてている。

 六角は金髪をツンツンさせていて見た目はコワモテだが面倒見がよく後輩からも慕われているやつだ。


「分かってると思うけど魔女だよー!似合ってる?」

「うん、まぁ良いんじゃない?」


 ついつい悲しい男の性で胸元に目が行ってしまった自分が恥ずかしくなり、顔をそらす。

 宇治治が「テキトーに言ってない!?」と怒るなか、六角は俺が照れている理由に気づいているらしく、笑いをこらえていた。


「じゃ、蛇九と因崎いんざきはもう来てるのか?」

 俺がごまかすように話題を変えると宇治治がコクりと頷く。


「おいおい、当たり前だろ?14時の約束だぜ?寝坊しやがって」

 六角が俺を肘で小突きながら意地悪そうに言う。


「そうだよな。いや、マジでごめん」


 俺は申し訳なさそうに二人に向かって謝る。

 寝坊ということにはなっているが本当は違う。

 車で山道を走るのが初めてだったから、早めに出てきたのだ。

 けれど慣れない道でカーナビの指示を何回か間違えてしまった結果、集合時間から2時間も過ぎるという大遅刻をやらかしてしまった。

 絶対馬鹿にされるから本当のことなんて言えるわけがなかった。


「ねぇねぇ、そろそろ中に入ろうよ?蛇九くんの別荘、内装もすごいんだよ!」

 宇治治がマントをひるがえし、扉の前で親指を立てながらカモン☆とノリノリで合図を送ってくる。

 宇治治は見た目は清楚で大人しそうな女子だが、実はとってもノリが良いのだ。

 そのギャップが可愛いくて、ついつい顔が似やついてしまった。


「そうだな、早く中に入ろう…蛇九と因崎に謝らないとだしな!」

「いやいやお前、もう一回全員に謝れや!」


 俺は六角に小突かれながら別荘に入っていった。



 ハロハロハロウィン♪


 扉が閉まるその瞬間、生ぬるい風とともにささやくような声が屋敷から聞こえたが、俺がその声に気づくことはなかった。

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