第4話 新たな旅

青い。

何も聞こえない。

海の中だ。

リリーの逞しい腕、バンザの日焼けした顔。

島の青く大きな空。いつも涼しい風が吹き抜ける我が家。

全てが走馬灯のように瞼に浮かんだ。


体が波に揺られている感覚だけがある。


瞼の走馬灯はだんだんと赤みを帯びてきた。

思わず目を開こうとしたが、あまりに辺りが眩しくて腕で顔を覆ってしまった。


しばらく同じ体制でじっとしていると、耳や鼻、体中の皮膚の感覚が戻ってきた。

海水が熱い砂に染み込み、蒸発するじゅわじゅわという音。打ち上げられた海藻の何とも言えない香り。

どうやら運良く浜に打ち上げれたようだった。


そこは小島が多く浮かぶ海域だった。

ただの砂しかない島や、気が密生した島の列が遠くまでぽつぽつと続いている。島から島には、泳いで渡れそうだ。

「あなた、そこのあなた」

突然高い声が聞こえた。僕が驚いて振り返ると、茶色いスーツに見を包まれ、魚を模した仮面をかぶった巨漢が砂浜と海の境目に立っていた。仮面の穴からきらきら輝く臆病そうな眼球がこちらを覗き込んでいる。

「ここに来たからには、私のものになってくださいな。ここは私の島なのですから」

魚男は背筋を伸ばし、僕を睨みつけながら言った。

「私のもの以外が私の島に居ることは許されない。ここのものはすべて私の支配の下にあるのですよ」

「支配?あんたはこの島の王なのか?」

「私は王ではない。だがご覧になってください。私の魅力的な容姿。そして何より、混ぜに混ぜすぎたために真っ黒と化した外界から拒絶されたというあまりにも清潔すぎた白い私の精神。そんな私を瞳に映して、支配されたくないと思う方がおかしいのです」

魚男の目に反射した日光が眩しい。僕は目を細めながら言った。

「僕は支配などされたくないね。それに世界は真っ黒なんかじゃない。美しい色に満ちている」

魚男の僕を睨む目はだんだんと、死んだ魚に群がる足の多い虫か何かを見る目になった。お前とは話す意味がないからはやく私の視界から消えていなくなれとでも言いたげだ。

「ではすぐにこの清潔な、簡素で純粋なこの島から出ていきなさい!あなたのような人間には混沌や血汗涙がお似合いなのでしょう!」

そう叫んだ魚男の異様なまでの気迫に気圧され、僕は仕方なく海に入っていった。




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