第五話 綺麗な透明の瓶

今、僕がいる場所は、ちょっとした観光地にある茶屋。


わびさびがあって、いい感じの茶屋なんだけど、なにせ所詮、ちょっとした観光地だ。


お客は僕だけだ。

お客と言っても、ここでバイトを始めた転校生の少女に、呼び止められただけだけど。


うん・・・・でも、


茶屋の看板娘用の着物を着た少女が、やたら可愛かった。


だから・・・


部活でやたら走らされ、どんなに疲れていようとも、つい呼び止められてしまった。


「有機と無機の違いも、原子番号の違いも、本当は大した事じゃないんだよ。

宇宙創生の瞬間は、みんな1つだった訳だし。いーい見てて・・・」


少女は唐突にそう言うと、綺麗な透明の瓶に変身してしまった。

茶屋のテーブルの上には、ピッカピカに輝く透明な瓶。

瓶の中には乳白色の液体が入っている。

一見すると甘酒っぽい。


瓶はビール瓶の様に蓋がしてあった。

そして、瓶の横には彼女が出してくれた、

みたらし団子。


「僕にどうしろと?」


とりあえず僕は、透明な瓶をじっと見つめた。

彼女が変身した瓶だと思うと・・・ちょっとドキドキ。


だって透けてるんだよ。


じっと見つめる事、数時間・・・日も暮れてきた。

そして、とうとう閉店時間の7時を過ぎてしまった。

この時間になるとまだ肌寒い。


僕は再び、

「僕にどうしろと?」

と呟いてみた。


みたらし団子と甘酒ぽいの・・・・・やはり食べて飲むべきだろう。


僕はそう決断した。

瓶は無事な訳だし。

彼女は魔法が使える。

なんとかなるだろう。


栓抜きで瓶の蓋を抜くと、瓶の蓋は彼女が付けていた髪飾りの簪(かんざし)へと変わった。


簪(かんざし)の先は、鋭利だった。


「勝手にこんな事をしたら、これで殺されるかも知れない・・・」

と思うと、身体が震えた。


「でも・・・今更!」

僕はみたらし団子を口に入れた後、彼女が変身した瓶を掴んだ。

瓶は冷たく無機質だったけど、瓶のその緩やかなラインは、色気を放っていた。


瓶の口は、彼女の何に当たるんだろうか?


そして、瓶の中身の液体は?

僕は、みたらし団子と供に、その液体を喉に流し込んだ。

身体の中に、彼女の優しい感触が沁みわたった。


「幸せ・・・・」


それ以降の記憶は定かじゃない。多分僕は酔ったんだ。

気がついた僕の目の前には、転校生の魔法を使う少女の口が、

そして、僕はみたらし団子に変身させられていた!


そしてみたらし団子は、彼女の口の中に。


閉店した後の帰り道で少女は説明してくれた。


瓶の中の甘酒は、彼女の情念の具現化。

みたらし団子は、僕の情念の具現化だと。


情念・・・意味は解らなかった。



つづく

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