第三章 二つの摩天楼

御神一行は金山駅に到着した。




今日の名古屋は快晴に恵まれ、街を照らす幻想的なイルミネーションが良く映える。




手を握り合って歩いてるカップル、腕時計を気にしながら大きな木の前で恐らく恋人が来るのを待っている若い男、ガーデンテラスでイタリア料理を食べている家族と金山の夜模様は様々である。




「金山って綺麗な街だね」




笑顔を取り戻した妙子がそう呟いた。




「そうだね。人は東京の街よりも少ないけど、その地特有の雰囲気があるよね。・・・・・あっ、妙子、あっちに面白いモノがあるよ、行ってみよ」




亜理紗が妙子の手を引っ張り、長方形の板みたいなモノが沢山グルグル回っている方へ連れ出した。




「女ってどうしてああ、自分勝手なのかね」




「まぁ半籐、佳純との待ち合わせ時間までまだ十分位あるからそれまで好きにさせておこう」


 


佳純とは二十時に北口で会う予定だ。




それから二十分が経過し、二十時を十分程回った。




しかし、まだ佳純の姿は現れない。




「遅いな、佳純さん」




半籐が少し不機嫌そう呟く。




「たかが十分じゃないか。向こうにも都合があるのだろう。こっちはお世話になる身だ。少し位我慢したらどうだ」




ずっと黙っていた宮内が叱咤した。




「分かっているよ、そんな事。いちいち俺に突っ掛かるなよ」




「別に突っ掛かっている訳ではない。ただ君の態度があまりにも横柄だったから一方的に注意しただけだ」




「ねぇっ、ねぇっ、喧嘩は止めようよ」




僕が勇気を振り絞って両腕を広げ、小声で二人を止めに入るが、半籐君がそれを無視する。




この二人の仲はこんなにも軋轢だったのか?




「なんだよ、まるで松井みたいなその上から物を言う態度は!」




「あんな奴と一緒にしないでくれ」




「いいや、お前もあいつと同類の人間だ」




「まあまあ二人共、こんな所で言い争いするのは止めなよ」




御神君が本日二回目の半籐君VS宮内君を今度は直接止めに入る。




争っている二人も悪いが、もっと早く止めてくれ。




口には絶対に出せないが内心そう思った。




「分かったよ、御神」




「まぁ、確かに公共の場での揉め事は御法度だな。悪かったね、御神」




そんな半籐と宮内の熾烈なバトルなど露知らず、女達はまだ呑気に金山探検をしていた。




それから更に五分が経過した。




「なぁ御神、一回連絡入れてみれば?」




叱咤が堪えていた半籐だが流行のツーブロックショートヘアーを掻きながら、そう切り出した。






「ああ、そうしてみよう」




そう言って御神君が自分のポケットの中から携帯電話を取り出そうとした。




しかしその瞬間、突然御神君の背後から彼の両目を両手で覆っている謎の人物が現れた。




手の形、大きさからしてその謎の人物が女だという事は推測出来たが、御神君の背が大きいせいでその女の顔が見えない。




「だーれだ」




その女は手を離さないまま息を大きく吸ってそう問う。




「相変わらずだな、佳純」




御神が微笑みながらそう言うとその女は漸く手を離した。




どうやらその女の正体は山鍋佳純のようだ。




この場にいる男四人が一斉に佳純の方を見た。




そして、そこには二十歳位と思われる妙子や亜理紗にも負けずとも劣らない美女が立っていた。




身長は百六十五センチメートル程。




明瞭な二重瞼、大きな目、高い鼻、小さな顔、厚い唇を持つ彼女の端麗なその容姿はまるで女優を思わせる。




「ハァーハァー、御免ね、遅れちゃって。でも蓮司君、相変わらず背が大きいから直ぐに蓮司君って判っちゃった」




「いや全然謝らなくて結構ですよ、佳純さん。何たって僕達はお世話になる身ですからね」




半籐がそう言ってアクトレスを庇った。




「あら、寛大な方なのですね」




佳純が半籐を安直に礼讃してしまった。




「全く君という人は・・・・・」




宮内君がそう呟く。




僕も流石に擁護しきれない。




この180度転換は。




しかし、御神君は表情を変えずに笑顔のままだ。




「佳純は俺より六歳上だけど、見ての通り明朗で無垢な性格でね。まあ、悪い女じゃないから、皆宜しく頼むよ」




「何、まるで私が全然成長していないみたいじゃない。こう見えても私、もう直ぐ結婚するのよ」




「ああ、そうだった。・・・・・あっ、そうだ」




半籐がその発言に肩を落とすが、直ぐに何か思い出したようだ。




「おーい、亜理紗、秋山さん、佳純さんがお迎えに見えたよ」


 


どうやら亜理紗と妙子の存在のようだ。




半籐が亜理紗達に向かって手を振りながら、聞こえるように大声で呼び掛ける。




その野太い声の振動を耳でキャッチした亜理紗達が、佳純の姿を確認すると直ぐに御神達の元へ駆け足で戻って来た。




「なーにあんた、そのいつもと違う性格は?」




「全く何を言っているのだい、亜理紗」




「あんた、露骨に態度変え過ぎよ」




「ふふ、お二人は仲が宜しいのですね。皆さん、改めましてご挨拶します。初めまして、蓮司君の友人の山鍋佳純と申します」




「あっ、はい。私、御神君のクラスメイトの大谷亜理紗と申します。本日から二日間宜しくお願い致します。でもまさか佳純さんがこんなにお美しい方だなんて・・・・・」




「まぁ、お上手な方なのですね」




妙子も亜理紗も佳純の好色に驚いている。




「亜理紗以外の皆を簡単に紹介していくよ。ああ、ちなみに皆、クラスメイトだからね」




御神がそう仕切り、自分から時計回りに同級生達を紹介していく。




「まず、このお調子者が半籐貴新君」




「どうも、半藤でっす」




「元気で明朗な方なのですね」




「次にこのインテリが宮内守君」




「お初にお目に掛ります」




「まぁ、ご丁寧に、聡明な方なのですね」




「次にこの寡黙な男が三堂賢悟君」




「よっ、宜しくお願いします」




「誠実そうな方ですね」




「最後に、あの美少女が秋山妙子さん」




「本当に可愛らしい方ですね。まるで女優さんみたいだわ」




「いっ、いえ、そんなの事ないです。佳純さんの方が女優さんみたいです」




「まぁ、貴女もお上手な方なのですね。・・・・・まぁ、それは扨置き皆さん、早速ホテルへ向かいましょう。歩いて十分程で着きますから」 




佳純がそう言うと佳純を先頭にし、七人が歩き出した。




「佳純さんは正に俺が理想とする気品溢れるお嬢様タイプだ」




半籐が夜の光輝く歩道を歩きながらが語る。




「ふーん。貴新はああいうタイプが好みな訳ね」




亜理紗が半籐の独り言に反応する。




「前に亜理紗にそう言ったじゃん」




「そう言えばそうだったわね」




亜理紗が不機嫌そうだ。語尾がいつもよりも強い。




「やっぱり蓮司君、カッコイイから直ぐにあんな可愛いガールフレンドが二人も出来ちゃう訳だ」




先頭を行く佳純が小声でそう御神に話し掛けた。




「そんな事ないよ」




列の真ん中にいる僕は四人の会話を聞いていた。




今は何も言えない。




御神君には嫉妬、半藤君には憧れを抱いている。




僕は前と後ろとの距離を詰めないように計算しつくされた絶妙のスピードで歩く事を止めないと決めた。






七人が歩き始めてから十分程経過し、先頭を歩く二人が立ち止まった。




「皆さん、着きましたよ。今月末からオープンするこのツインホテルはご覧の通り二棟からなっていまして、両塔、地上四十階、高さ百五十二メートルを誇ります。名称は右手側に見えますのがスカイタワー、左手側に見えますのがグランドタワーになります」




僕達の目の前に高大な二つの摩天楼が聳え立っていた。




その二つの塔から放たれる光や威圧感に圧倒される。




二つの塔は遠くから区別出来るように外観の色は、スカイタワーは群青色とグランドタワー木賊色になっているのらしいが、夜なのでそれが良く判らないが恐らく美しい事には間違いないだろう。




「・・・・・凄い」




僕はその独創的な雰囲気に思わずそう呟いてしまった。




「ああ、確かに」




御神君に聞こえてしまった。




一瞬にして体温が上がった。




「佳純さん、あの両ホテルに掛かっている渡り廊下みたいな物から、片方のホテルに行き来が出来るのですか?」




亜理紗が気になる様子だ。




「はい、ホテル内から両ホテルを行き来が出来るのは、あの渡り廊下が御座います三十階だけなのです」




ここから百十メートル辺り上を見上げてみると、確かに二つのホテル同士を結ぶガラス張りの渡り廊下が悠然と掛かっている。




「少し肌寒くなって来ましたので、早速フロントの方へ参りましょうか。皆さんを含む山光興業側のオープンパーティーに参加される方はスカイタワーでの宿泊となります」




「側?」




物問い度げに半籐が疑問を投げ掛けた。




「はい、新聞やテレビで報道されたので皆さんの中には既にご存知の方もいらっしゃるかと思いますが、このツインホテルは積王商事という商社と共同出資で建てられたホテルなのです。そして、スカイタワー側は山光興業が、グランドタワー側は積王商事がそれぞれのホテルの経営権を握っているのです。そして、明日は両ホテルで同時刻にそれぞれオープンパーティーが開かれるのです」




「へぇー、そうだったのか」




「そうだったのかって、蓮司、知らなかったの?」




亜理紗が少し呆れている。




「ああ、俺はただ佳純から「山光興業のオープンパーティーに参加してみないか?」と誘われていただけだし、普段からあまり新聞やテレビを観ない方だから知らなかったよ」




「へぇー、何か意外な一面」




「そうか?」






水無月の夜風にそぞろ寒さを感じる御神一行はスカイタワーへ歩き出した。




自動回転扉を通ると、そこには壮麗な光景が待っていた。




天井につり下がれている燦然と輝くシャンデリアはまるで西洋中世の屋敷を思わせ、青を基調とした置物が多くある。




ガラス張りの水槽の中には熱帯魚が泳いでおり、古代からの幾何学的美しさを持つ建造物と現代建造物とが上手くマッチングしている。




そして、ロビーではスーツに身を包んだ主に男三十人程が寛ぎ、それぞれ談笑や会話している。




「素敵なロビーですね」


 


亜理紗がこの可憐な空間に目を奪われる。




「そうですね。このロビーはこのホテルの特徴の一つだそうです」


 


佳純さんがそう言い終わるとこっちに気付いたサラリーマンと思われる男が四人集団から抜け出し、僕達の元へ歩み寄って来た。




徐々に距離が縮まる。




所々にある皺から三十代後半に見える。




「やぁ、君が御神君で君達が御神君の友達かい?」




そのスーツ姿の男が笑顔で御神に目を合し、周りを見渡した。




「ええ、そうです。もしかして佳純の婚約者の誠さんですか?」




「そうでーす。この人が私のフィアンセです」




「皆さん、初めまして。佳純の婚約者で山鍋興業というホテル経営業をやっている会社の社員の笹野誠と言います」




「山鍋興業?」




亜理紗がそう突っ込む。




「はい、皆さん既に知っていると思いますが、私の兄の透はこの業界最大手の山光興業の社員なのです。そして、私は山光興業に次ぐ大手の山鍋興業の社員なのです。近年業界№1の座を山光に明け渡していますけど、山光と山鍋はお互い切磋琢磨し、良い意味で長年競い合っているのです。そして、今回のオープンパーティーに私はライバル企業の社員として、実弟として参加する予定なのです」




「そうだったのですね」




御神がそう相槌を打つ。




「はい、そして実は山光興業の喜田社長は予てからの持病の悪化により入院しておりまして、今回のオープンパーティーには参加していないのです。その代わりに山光興業の部長であり、今回のプロジェクトリーダーでもある兄が明日のオープンパーティーの主催者となり、その身内であり、同じ業界の人間でもある私や佳純が参加する事になったのです」




何気なく僕が宮内君を見てしまったら、何やら疑問を抱えているように見えた。




「佳純さん、先程から気になっている事があるのですがお訊きしても宜しいでしょうか?」




「何かしら?宮内君」




「佳純さんの珍しい苗字と山鍋興業の山鍋という名前が同じなのは偶然ですか?それとも何か関係があるのですか?」




「・・・・・それは私の父が山鍋興業の社長だからです」




「やはりそうでしたか」




「そうだったんですか、佳純さん。・・・・・って言うか御神、教えろよ」




半籐が事前に佳純情報を教えてくれなかった御神を叱咤した。




「済まなかったな、半藤」




「あまり御神君を責めないで下さい。佳純はこの事を人に話されるのがあまり好きじゃないのです。多分御神君はそれを知っていて敢えて皆さんに話さなかったのだと思います」




「・・・・・そうでしたか。野暮な事を伺って申し訳ありませんでした、佳純さん」




「そんなに謝らないで下さい、宮内君」




「じゃあ、佳純さんは本物のご令嬢なんですね。俺だったら絶対にその事、人に言い触らして自慢するのにな。・・・・・何でそれを話されるのが嫌なんですか?」




「おい半籐、野暮な事を訊くのは止せ」




「お前もさっき野暮な事を訊いただろ」




半籐君VS宮内君第三ラウンド幕開けか?




「・・・・・そうですね。何時か、お話します」


 


佳純さんがこの場を抑える。




どうやらこのバトルは持ち越しのようだ。




そして、気が付けばもう二十時四十分だった。そう言えば夕飯はまだだ。




幾ら新幹線の中でスナック菓子を食べたからって、流石にもう腹の虫を制御するのは限界だ。




「誠さん、一つ伺っても宜しいのですか?」




「なんだい?御神君」




「はい、地上三十階にあるスカイタワーとグランドタワーを結ぶ渡り廊下はもう誰でも行き来が出来るのですか?」




「いいえ、まだ出来ません」




「と言いますと?」




「はい、実はあの渡り廊下の入口と出口には分厚い扉が塞がっており、その二


枚の扉を開けるにはシステム登録されたIDカードでロックを解除する事が必要で、現在そのシステムの試験期間中なのです。そして、もし何かトラブルや不備が生じた場合、システムの修復等に関する大きなリスクを避ける為に現時点でそのIDカードを持っているのは私の兄だけなのです。よって、現時点で三十階の渡り廊下からスカイタワーとグランドタワーを行き来が出来るのは、今回のプロジェクトリーダーである兄だけで今はその利用履歴も出ないのです。ちなみに全部屋の開錠、施錠の利用履歴も出ません。そして、勿論シムテムに不具合がなく正式に両ホテルが開業されたら、今回のプロジェクトの山光興業と積王商事の関係者や両ホテルの管理者はそのIDカードを手にする事が出来ますが」




「積王商事側はそれで納得したのですか?」




御神君、そんな事より早く御飯が食べたい。




今、僕の頭の中はそれしか考えていない。




「はい、この提案をしたのは兄なのです。そして、実は山光興業と積王商事は今回のプロジェクトに共同出資しましたが、今回のプロジェクトは山光興業側が積王商事に話を持ち掛けて、山光興業側が七割出資したのです。つまりプロジェクトリーダーである兄が主導で今回のオープンパーティーや開業までの計画が成り立っているのです。しかも、積王商事は今回のプロジェクトで初めてこの業界に参入したので、この業界について大きなノウハウはありません。つまり、積王商事側は山光興業側に対してこのような小事には首を横に振れないのです」




「自分の会社の事ではないのに随分詳しいですね」




「ライバル企業の内情を知る事も仕事の内という事ですよ。・・・・・ああ、私はこれから少し打ち合わせがあるのでこれで失礼します。では皆さん、ごゆっくりお楽しみ下さい。佳純、また後で」




佳純が「ええ」と答えると誠は七人の元から去って行った。




「誠実そうな方ですね」


 


亜理紗が高評価する。




「はい、正直、顔はイマイチですがそこに惹かれたのです」




「結婚かー、二十八歳位にしたいと思っていたけど、佳純さんを見て、もっと早くしたくなって来ちゃったな」




「ふふ、そうですか?」




惚気話はもういいから早く御飯にして欲しいな。








しかし、僕の願いはまだ叶いそうにもなさそうだった。




また、誰かこっちに気付き、五人集団から抜け出しやって来そうだからだ。




そう言えば前にもこんなような事があったけな。




・・・・・えっ、誠さんとそっくりな男じゃないか。もしかして・・・・・。




「いやー、君が佳純さんの友人の御神君か。思っていたよりずっと大きいな」




「紹介します。誠さんのお兄さんで、今回のスカイタワーのオープンパーティーの主催者の透さんです」




「初めまして御神です」




「大谷亜理紗です」




「秋山妙子です」




「お初にお目に掛ります。宮内と申します」




「半籐です」




「みっ、三堂です」




「皆さん、遠路遥々ようこそお出でなさったね」




「こんなに大人数をお招き頂き有難う御座います。短い間ですがお世話になります」




御神を皮切りに六人が一礼した。




「宴は大人数の方が楽しいですからね。それに一人でも多くの観光客を呼んで、名古屋をもっと知って頂こうという目的もあるんです。名古屋は発展途上な都市でしてね。近年レジャーランドが開業されたり、高層ビルが開発されていますけど、まだまだ東京や大阪には遙かに及ばない。我が社は東京にありますが、経営戦略としてまだ大きな発展する前の名古屋に投資しておき、我が社と新規参入の積王商事がこの地区の観光ホテル業を独占しようという腹なんです」




「それを俺達に話して大丈夫なんですか?もしかしたら、ここから他社に情報が漏れるかもしれないですよ」




半籐が山光興業の情報の漏洩を懸念するが、透はそれは大きなお世話、杞憂に過ぎないといった様子だ。




「ホテル建設には多額の資金が要りますからね。そんなに直ぐに他社が我が社の真似事をする事は出来ません。それに同種の他社もこれしきの事は読めている筈です。それに実際弟にはもう戦略が読まれていると思いますしね」




「そっ、そうですよね」




「透さん、一つ疑問があるのでお訊きしても宜しいでしょうか?」




「良いですよ、御神君。でその疑問はなんだい?」




「はい、何故別々のホテルでそれも同じ日の同じ時刻にオープンパーティーが開かれるのですか?差し支えなければで構いませんので教えて頂けませんか?」




「それは折角違う企業で二つのホテルを作ったので、どちらがよりお客様を多く呼ぶかを競う為ですよ。どのみちこの先スカイタワーとグランドタワーでは集客率を争う事になります。つまり、今回のオープンパーティーはその第一ラウンドなのです」




「では競争というからには両ホテルでは何か付加価値や違い等があるのですか?」




「ええ、両ホテルはそれぞれ違った特徴を持っています。スカイタワーはその名の通り天空をイメージした空間を著名な建築家に設計を依頼して、専用プールが付いている部屋もあるんですよ。また、グランドタワーの方も別の著名な建築家に設計を依頼し、壮大な高原をイメージしており、専用の人口温泉が付いている部屋もあるんです」




「そうですか。貴重なお話を聞かせて貰い有難う御座います」




「ああ、そうだわ。皆さんにご確認したい事がありました。予め宿泊するお部屋はツインタイプで三部屋用意させて頂いたのですが、もしそれが御不満でしたら、一応シングルタイプ六部屋にも変更出来ますけど如何なさいますか?」




 唐突に佳純が会話を遮り六人に問う。




「いえ、ツイン部屋で結構です。丁度人数も六人と偶数ですしね。ねぇ、皆」




亜理紗がそう断り、五人に問う。




「こちらがお世話になる身ですし当然ですよ」




宮内も賛成する。




「私も勿論です」




「はっ、はい」




「だそうだ、佳純」




「じゃあ、俺は秋山さんと同じ部屋がいい」




「馬鹿、貴新!妙子は私とに決まっているじゃない」




「冗談だよ」




「では、皆さんのお部屋のカードキーを取ってきますね」


 


そう言うと佳純さんはフロントの方へ歩き出した。さっきから僕の様子を見ていたのはもしかして・・・・・。




「そうそう悪かったね、君達」




「ええ?何か俺達に悪い事でもしたんですか?」




半籐を始め一同心当たりがないかを探る。




「いや、佳純さん、君達を迎えに行く時間に遅れたでしょ。実はその時間帯に私と積王商事の福田社長が談笑していてね。その間、佳純さんもその社長に付き合わされていたんだよ。そして、それがまた社長の話が長くてね。それでなかなか佳純さんが抜け出せなくて、君達を迎えに行く時間に遅れてしまったんだ。多分、佳純さん君達にこの事を言っていないと思ってさ」




「そうでしたか。疲れているのにわざわざ向かいに来て貰い、佳純に悪い事をしましたね」




「佳純さんなんていい人なんだ」




半籐が佳純を賞賛した。








そして、その直後佳純が三つのカードキーを持って戻って来た。




僕はさっき思った事と今聞いた話によって佳純さんは凄く気が利き良い人だと確信した。




「お待たせ致しました。秋山さんと大谷さんのペアは既に決まっていると思いますが、男性陣のペアは如何なさいます?」




「グッパーしよう」


 


半藤が男三人にそう提案する。




「分かった。宮内も三堂もそれで良いな」




「うん」、「ああ」と僕と宮内君が同時にそう返事した。




「じゃ、いくぞ。グーとパーで分かれましょ」




決まった。


御神君と僕ペアと半藤君と宮内君ペアに。




「なんだよ、宮内と一緒かよ」




「こっちだって願い下げだ」




「まぁ、こればっかりは公平に決めた事だからしょうがないか」


 


ここは半藤が引き下がった。




「では蓮司君と三堂君は2404号室、半藤君と宮内君は2405号室、秋山さんと大谷さんは2406号室で宜しいでしょうか?また、全部屋オートロックなので注意して下さい」


 


そう言って佳純はそれぞれの部屋の代表者三人にカードキーを渡した。




「じゃあ、皆さん、ごゆっくり」




そう言うと透は御神達の元を去って行った。




「皆さんお疲れのようなのでお部屋にお荷物を置いて頂き、その後、最上階のレストランでお食事して下さい。そして、今日は明日に備え、早くゆっくりお休みになって下さい」




「俺もう腹ペコ」


 


フロントの時計の針は既に二十一時を回っていた。




やっと待ちに待った食事にありつける。心が落ち着き、佳純さんに感謝した。




「では早速お部屋にご案内致します」




佳純がそう言うと御神達はエレベーターに向かった。




「佳純さん、廊下は全てこのような人工大理石で出来ているんでしょうか?」




亜理紗が歩きながら話し掛けた。




「はい、そうです。ちなみに全ての部屋もグランドタワーの方もそうなっています」




「流石」








暫くし、僕達は各宿泊部屋の前に付いた。




「では皆さん、準備が出来次第、最上階の展望レストランの入口の前に集合して下さい。勿論、今回のオープンパーティーの参加者は無料でお食事が出来ます」




そう告げられると、僕達は2404号室に向かった。




扉を開け電気をつけると、そこには青い空間が待っていた。




窓からは名古屋駅のビルの明かりが一望出来る。




床はやはり大理石で出来ており、広さは二十畳程あり、二人にしては広い。




「すっ、凄い、広い」




都会育ちで親戚も東京に住んでいる僕は今まで広い部屋に入った事があまりなかった。




「そうだな。さぁ、あんまり皆を待たせるとただでさえ空腹で不機嫌な半籐が更にそうなるから荷物を置いて直ぐに行こう」




「うっ、うん」




二十一時十分。




僕達は遅めの夕食を摂っている。




内容はバゲットとスモークサーモンのサラダとブイヤベースと仔牛のローストとフォルダンショコラだった。




「うっめ、こんな料理食べた事がないよ。腹減っていたから余計うめー」


 


半藤が勢い良く仔牛のローストを口に運ぶ。




「ちょっとそんなに卑猥に食べないでよ。みっともない」




亜理紗が賎陋な半藤に注意する。




「でも、本当においしい。私もこんな料理食べた事ないよ」


 


妙子も高級フランス料理に舌を巻く。


 


僕は他人から品良く見えるようにこの恵みに喰らいついた。


 


二十二時。僕達は食後に運ばれたコーヒーを啜りながら、明日の予定について話し合っている。




「明日のオープンパーティーは十九時からです。ですからそれまで時間がありますから皆さん、名古屋観光して来て下さい」


 


佳純が六人にそう薦める。




「私、栄と大須に行きたい」




亜理紗がそう訴える。




「いや名古屋城や熱田神宮や徳川園でしょ」




半籐も提案し、亜理紗の案を却下する。




「いや、栄と大須がいい」




「買い物だったら東京でも出来るじゃん。ここでしか出来ない事といえば城や神社といったこの地にだけにしか存在しない文化巡りでしょ」




「目的はショッピングだけじゃないわよ。他の場所とは違うその独自の街並みとか景色を見て歩きたいのよ」




「それなら、尚更文化巡りだろ」




「分かった。これ以上言い争っても不毛だわ。別行動にしましょう」




「ああ、そうしよう」


 


半籐もそれに乗り気だ。




「じゃあ、蓮司と三堂君と妙子は私と同じグループね」




「なっ、何勝手に決めているんだよ!秋山さんは俺と一緒に・・・・・ってそれより何で俺が宮内と男二人きりで観光しなくちゃならないんだよ!」




「それはこっちのセリフだ」




「公平にグッパーで決めるぞ」




「嫌よ」




「なんでだよ!」




「あのー、明日は私も朝からオープンパーティーが始まるまで時間が空いていますので私も半籐君達と一緒に行きます。これなら男二人きりではありませんよね」




笑顔で佳純が二人のバトルを遮る。




「そっ、そうですか。そうしてくれると嬉しいです」


 


結局、半籐君、宮内君、佳純さんが名古屋城、熱田神宮、徳川園観光グループ、御神君、僕、大谷さん、秋山さんが栄、大須観光グループとなった。




僕は正直こっちのグループで嬉しかった。




それは秋山さんと一緒に行動出来るからという嬉しさよりも単純に僕を厭っている半籐君と一緒にいる苦痛からの解放の嬉しさの方が勝っている筈だ。




向こうも僕と別グループになった事を喜んでいるに違いない。




コーヒーも飲み終わり、僕達は各宿泊部屋へ戻った。




「明日は早いし、今日は疲れただろうから風呂に入って早く寝よう」


 


僕達は風呂に入り直ぐに横臥した。




今日は憂鬱と愉悦が混在した妙で稀有な一日だった。




夕食が終わり私達は部屋へ戻った。




私は亜理紗に訊きたい事があった。




「亜理紗、もしかして私の為にわざと二手に分かれさせ行動する人数を減らしてくれたの?」




「・・・・・ばれていたか。でも栄や大須で買い物がしたかったのは本音だけどね。明日私、タイミングを見計らって三堂君と一緒になるから妙子は蓮司と行動しなさいよ」




「亜理紗・・・・・本当に有難う」


 


明日に備え私はお風呂に入り、寝床に就いたが、高揚感が高まりなかなか寝付けなかった。








六月八日九時。




スカイタワーのロビーに朝食を済まし、出掛ける準備が出来た僕達秀明館高校組と佳純さんが集合した。




「ではオープンパーティーは昨日も言いました通り十九時からです。着替える時間やメイクするお時間が必要なので、特に女性陣はお時間が掛かりますから十七時にはここに集合しましょう。今日は現在は快晴ですが、夕方から雷雨と強風の予報なので様子を見て早めに帰って来た方が良いかもしれませんね」




「分かりました。佳純さん」




大谷さんがそう言うと僕達七人は金山駅に向かい名城線に乗る。




乗車中、制服姿の女を見付けた。




部活か補習に行く女子高生か。




どの地域でもそういう風景は一緒なんだなと思った。




電車に乗り始めてから五分程で上前津駅に着いた。




ここで文化巡り組とは暫しのお別れとなる。




駅を出て僕達はまずは大須観音にお参りしに行く事になった。




「しかし、休日だけに人通り多いわね」




亜理紗が東仁王門通を歩きながらそう口にする。




暫くして、観光者達は大須観音に着いた。




階段を登り、賽銭箱に一斉に小銭を投げ入れた。




「何願ったのよ?」




「・・・・・秘密」




十時。僕達は適当に歩き回り、気になった店を発見したら入店していた。




服や雑貨の店が殆どだった。




僕は今までした事のない経験を謳歌している。




今日はこのまま時間が過ぎれば良い。




しかし、大谷さんが突然ある提案をし、僕の望みが断たれる事になった。




「ねぇ、ここからは二手に分かれましょう」




「良いよ。・・・・・でどういうペアにする?」




「私と三堂君、蓮司と妙子でいいんじゃない?」




「分かった。俺はそれで構わないが三堂と妙子はそれで大丈夫かい?」




「・・・・・うん」




三堂と妙子がそう返事をした。




しかし、二人の返事のトーンは違った。




「じゃあ、十二時にふれあい広場に集合ね。昼食は一緒に食べましょう」




亜理紗がそう言うと、四人は二人ずつに分かれて反対方向の道を歩いて行った。








私は昨日から待ち望んでいた展開になったが、いざ御神君と二人きりになると予想以上に緊張してしまう。一体どうしたら・・・・・。




「妙子、何処か行きたい店はある?それともこのまま適当に歩きたい?」




「じゃっ、じゃあ、適当に歩きたいかな」




緊張して上手く話せない。




恥ずかしい。




いや、気まずい。




「しかし、今日は休日だけあって人通りが多いな」




「・・・・・うん」




会話が続かない。




このままでは折角のチャンスが駄目になってしまう。




「ねぇ見た?今すれ違った二人組」




「ええ、正に理想の美男美女カップルだったよね。本当にいるんだね。ああいうの」




暫く二人は無言になっていたが御神が切り出した。




「妙子、もっと気軽に話さないか?俺は妙子と二人っきりになったら気まずくなるような関係にはなりたくないしね」




「・・・・・うん」




少し、緊張が解れた。




それから十分が経過した。




私達は買ったばかりのタピオカドリンクを片手に持ちながら散歩している。




しかし、会話はまだ何処かぎこちない。




このままではこの先もずっと駄目になる。




よし、勇気を出して御神君のしたい事を訊いてみよう。




「みっ、御神君は何処か行きたい場所とかあるの?」




「うーん、高性能な自作パソコンとか作らなければならないからそういう店に


行って部品とか見たいけど・・・・・嫌だよね」




「えっ、うんうん、全然良いよ。行こうよ」




私達はパソコン専門店に向かった。そこは私にとって未知なる世界だった。




「こういう店に来るのは初めて?」




「うん」




「そうか。オタクと思われなければいいんだけど」




「そんな事思わないよ」




早速、御神君が棚にある良く分からない部品を物色する。




「このCPUソケットがLGA1150のATXマザーボードは、チップセットはインテルのZ87 ExpressでSATA3端子二つが付いていてこの値段か。お買い得だな。漸く押入れに閉まってあるCore i7 4770Kが使えそうだ」




「・・・・・」




「御免な。つまらないよな。直ぐに店を出よう」




御神君が私の戸惑いの表情を見て、その部品を手に取りレジに持って行く。




私は御神君に対して少し申し訳なくなった。




「・・・・・やっぱり女の子はブランド品店や洋服店とか雑貨店とか行きたいよな」




「えっ、まぁ、そうだね」




「じゃあ、行こう」




御神君が笑顔で私の手を繋ぎ、雑貨店に引っ張って行った。




私は赤面しながら嬉しくなった。




リードしてくれる理想の展開だ。




手の温もりも温かい。




暫く歩き、さっき通り過ぎた雑貨店に入った。




「入ろうか」




「うっ、うん」




私達は無言で適当に棚に並んである商品を手に取って見ている。




今なら、自然とこちらから新たな話題を切り出せる。今なら、あれが聞けるかもしれない。




「みっ、御神君」




「何?」




「・・・・・ごっ、御免、やっぱり何でもない」




「・・・・・そうか」




勇気が足りなかった。




また、次のチャンスで。


 


それから一時間経過した。




私達はお土産を買う為、お土産屋さんにいる。




ふと目に入った菓子折りを手に取った。




「このクッキー、お土産に買っていこっかな」




「いいんじゃなか」




「そう言えば、さっきの雑貨店で俺に言おうとしていた事、結局何だったんだ?」




「・・・・・秘密」




「えー、ケチだな」




私達の会話はまるで本当のカップルみたいだった。








秋山さんを御神君に取られた僕は何故だろう?




今は御神君に対して嫉妬していない。




大谷さんが僕の欲求を満たすその代わりの捌け口になってくれているのだろうか?




秋山さんに対する気持ちはこの程度だったのか?




昨日の気持ちは虚偽の芳しさだったのか?




「三堂君は何処か行きたい店とかあるの?」




「とっ、特にはないです」




「そう、じゃあ私が行きたい所に付き合ってくれない?」




「はっ、はい」




必死にそう答えると大谷さんは歩き出し、その横に並びに付いて行った。




考えてみたら大谷さんも僕からしてみれば手が届かない高嶺の花だ。




そんな人が僕なんかと一緒に歩いている事自体奇跡に近い。




そう考えると極度に緊張してきた。




しかし、大谷さんはいつもと変わらない表情だ。




モテる女の余裕か?




僕達はアイスクリーム屋でカプチーノアイスクリームとストロベリーアイスクリームを買い、それを食べながら暫くフラフラと歩き、古着の店に入った。




「このドルマンニット可愛いと思わない?」




「はっ、はい」




作り笑いをしてそう答えるだけで精一杯だった。




「ちょっと試着してみようかな」




「どっ、どうぞ」




そう答えると大谷さんはそのブラウンの服を持って行って試着室に入って行った。




こういう展開も悪くはない。




いや、寧ろこっちの方が良かったかもしれない。




自然と陳列している服に目がいった。




こんな機会がなければこんな店に来る事は一生なかっただろう。




僕は今何処に立ったら良い?




男が今一人でここにいても良いのだろうか?




そう思っていると服が変わった大谷さんが試着室から出て来た。




やっぱり、何を着ても似合う。




「どう?」




「にっ、似合います」




「有難う。じゃあ、これ買おっかな」




そう言うと大谷さんは試着室に戻った。




僕は暫くもう二度と来ないかもしれない時間を愉悦した。








十二時。僕達は約束通りにふれあい広場に集合した。




「ねぇ、栄まで歩いて行かない?」




 


亜理紗がそう提案した。




「そうだな。割とここから近いしな」




「どうだった妙子?」


 


暫くし、前を行く御神と三堂と少し距離を取って歩く亜理紗が妙子に短いデートの感想を求めた。




「うっ、・・・・・うん、取り敢えず距離は縮まったって感じかな」




「良かったじゃない」 


 


栄に着いた僕達は昼食を摂る為にピザの店に入った。




何を食べようか迷ったが結局、ソーセージとエビをトッピングしたマルゲリータとボスカイオラとクアトロフォルマッジとエスプレッソ四つを注文し四人で分けた。




四十分程で僕達は店を出た。




僕達は暫く広い地下街を歩きながら、周りの店を見渡し、気になった店を見付けたら入店し買い物した。




次にオアシス21に行った。




水の宇宙船は僕達に爽快感を与え、人だかりは家族連れ、カップル、男集団、女集団と様々だった。




最後に百貨店に行く事にした。




店に入ると男組と女組とで分かれ、秋山さんと大谷さんは服や化粧品などの店に行った。




僕は今日の高揚感や余韻に浸りながら、御神君と一緒におしゃれな服屋に入った。




こういう店で服を買った事がなかった。




出来るだけ御神君と離れないで店員に話し掛けられても大丈夫にしないと。 




結局、松坂屋、三越、丸栄、パルコ全て制覇した。




四人の両手はお土産や服や化粧品などの紙袋で塞がっている。




「少し雲行きが怪しくなってきたな。そろそろ帰ろう」


 


御神君が薄暗くなってきた空を見て、僕達にそう促した。




「そうだね」




大谷さんがそう言うと、沢山の紙袋を抱えた僕達は栄駅に向かった。




僕は電車の中で再び今日の余韻に浸った。








十七時。僕達がスカイタワーのロビーに向かうと、もう既に半藤君達が待っていた。




「あー、楽しかった」




「こっちだって」


 


亜理紗と半籐が小学生みたいに自分達の観光の満足度を張り合う。




「一応もう一度言っておきますが、オープンパーティーの会場は二十八階の大広間です。エレベーターで二十八階まで上がって左に行って頂き、突き当りで右に曲がって頂くとそこから二十メートル程行った先に御座います。十八時から入場出来、食事もオープンパーティーが始まる前に自由に出来ます。私はこれから少し用があるので直接会場でお会いましょう」




佳純が御神達にそう告げたら去って行き、御神達も泊っている各部屋に向かった。




「人が多いから各自直接会場には行かず、その前に全員何処かに集合してから行かないかい?」




御神が歩きながら五人にそう提案した。




「そうだね。で何処に集合するの?」




亜理紗が集合場所の案を求めた。




「そうだな。俺達の2404号室はどうかな?」




「分かったわ。ああそれと皆、携帯持って行く?」




「いらないじゃないかな」




宮内がそう答えた。




「そうだな。じゃあ、準備出来次第宜しく」


 


十八時半。




既に僕達男性陣四人は着替え終え、四十分以上女性陣の登場を待っていた。




「遅せーな」


 


半藤君がそう不満を口にした。




一昨日押入れから引っ張り出してきた白を基調とし青色のストライプが入ったワイシャツに黒のジャケットとベージュのチノパンツを合わせた僕の格好は特別浮いていなかった。


 


暫くし、部屋のチャイムが鳴った。




恐らく大谷さんと秋山さんだろう。




御神君が扉を開けた。




入って来たのはネイビーとピンクのパーティードレスにそれぞれ違った形や色をしたネックレスとイアリングと花柄のコサージュを合わせた妖艶な二人だった。




二人共いつもよりも化粧が濃い。




「なんかいつもと違う感じだな」




半藤が素直になれない。




「素直に綺麗と言いなさいよ」




綺麗になった亜理紗だが性格は変わらない。




「別にそう思っていないよ」




半藤がまだ素直になれない。




「なっ・・・・・」




「よし、皆行くよ」




御神君が二人のバトルにそう割り込むと僕達は部屋を出て、会場に向かった。




僕はオープンパーティーでの初対面の人達への振る舞い方や秋山さんと大谷さんの今まで見た事のない美しい姿を考えていた。




急に緊張して来た。




ふと気付くと御神君達は十メートル程先を歩いていて、直ぐに角を曲がってもう姿が見えなくなっていた。




大谷さんと半藤君はまだそれぞれ今日の観光の自慢話をしながら僕の後ろを歩いている。




後ろを振り返って急がなくちゃと、二人に催促しようと思った瞬間、半藤君が突然立ち止まり僕と大谷さんを呼び止めた。




「ちょっと待った」

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