第28話 竜にとっての『幸せ』⑤
目を覚ましたら夢だった――。
なんてこともなく、ここにはわたしひとりしかいなかった。どれだけ辺りを見回してもヘラルドはいない。
あのまま竜の住み処にいたら、戻ってきてくれたかもしれない。そんなことを今さら考えても、もうどっちへ行けばいいのか分からない。適当に飛んで竜を見かけたらそこに降り立ってみたら辿り着くだろうか。
でも、その間の食事は? 捕まっている間も、ヘラルドに助けてもらってからも、ずっと人間からもらっていたから、どうすればいいのか分からない。いきなり動物を狩れと言われても、できるわけがない。
結局その場からろくに動けず、お腹の音が虚しく響くだけだった。
(ヘラルド……っ)
ずっと一緒にいたいと思っていたのはわたしだけだったの……?
「……あれ、なんでこんなとこに、いるんだ……?」
(っ!)
ショックで周りを警戒していなかったから、急に聞こえた人の声にびっくりして身体が強張る。
またあの日みたいに捕まったら……。身の危険を感じながら、ゆっくりと声のした方に振り向くと、そこには見知った顔が立っていた。
(オズ、ウェン……?)
「やあ、ヨリ。いきなりだったからびっくりさせちゃったかな、ごめんねぇ」
(う、ううんっ大丈夫!)
「ところで、なんでこんなところに? それに、ヘラルドは?」
(え、っと……)
オズウェンに、何があったか話すべきか少し
「――そっかぁ。そっちを選んだかぁ」
(なんの話?)
「いや、なんでもないよ。群れのところに戻りたいなら案内するけど、どうする?」
(そこにヘラルドがいるなら)
「それは分からないなぁ。……そんなにヘラルドが大事?」
(え!? な、なんで急にそんなこと……)
いつもヘラヘラと笑っているオズウェンが真顔になって、わたしを見つめてくる。
大事、というか、隣にいるのが当たり前、というか。
わたしのことを初めて認めてくれた人はヘラルドだったから。前世はもちろん、今世でもヘラルドと出会うまでは、わたしなんていなくても誰も困らない存在だった。むしろいることで迷惑している人の方が多かった。そんな暗闇の中で暮らしていたわたしの前に現れてくれた小さな、でも強い光。
わたしは、ヘラルドが――。
「……ヨリ?」
(大事、だよ。いないと、いや……っ)
「、――ごめんねぇ、おれが間違ってたみたい。こうなるって分かってたら、あんなこと言わなかったんだけどなぁ」
オズウェンは溢れてくる涙を拭ってくれながら、ヘラルドと街に買い出しに行った時のことを話してくれた。何度も謝りながら。
(オズウェンは、悪くないよ。わたしのことを考えてくれただけでしょ?)
「それはそうだけど、裏目に出ちゃったら悪いことに違いないよ」
(その話がきっかけになっただけで、わたしに飽きた可能性だって、ある、し……)
「ああ、こらこら。自分で傷付けるのは、だめだよ。絶対にそんなことはないからねぇ」
ぽろぽろとまた涙を流し始めたわたしの頭を撫でて慰めてくれる。大きくて少し節くれだった手。ヘラルドとは違うけど、同じくらい優しさは込められているのが分かる。
「戻ってくるかもしれないから、別れた竜の群れに行こうか。おれもついて行くよ。おれのせいだしねぇ」
(いいの?)
「もちろん。ここからは……こっちの方角に飛んでみて。おれは歩いてい――」
(乗っていいよ。そっちの方が早いし!)
オズウェンに背中を向けて、乗りやすいように身体を低くして待つ。なかなか乗る気配がないので、顔だけ後ろに向けるとぽかんとした表情で固まっていた。
(オズウェン?)
「え、あ、ごめんごめん。いいの? だって、そこ、ヘラルド専用じゃないの?」
(そんなことはないけど、言葉が分かるのがヘラルドだけだったからってだけで……)
「おれ、あとでヘラルドに怒られない?」
(? 多分……?)
言っている意味はよく分からなかったけど、乗せる相手がオズウェンなら怒らないと思うからそう返した。もしわたしに危害を加えるような人なら怒ってくれるかもしれない。
オズウェンは遠慮がちにわたしの背中に乗った。いつもより荷物がないというのに、ずっしりと重みを感じた。外見からだと普通体型っぽいのに、結構筋肉があるんだろうか。オズウェンの意外な一面に触れてから、竜の住み処へと向かった。
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「……いないねぇ」
オズウェンの案内で、一度訪れた竜の住み処へと到着したけど、そこに人影はなかった。範囲は広いけど、空から全体を隅々まで見たから、見落としはないはず。道中でも見かけなかった。
やっぱり、ヘラルドはわたしを置いて……。
(っ……もう、いいよ。オズウェン、ありがとう)
「ちょっとちょっと、諦めるには早いよ。この間拠点にしてた場所にも行こう」
(……わかった)
そこに行こうとしていたことも話していたから、提案してくれたのだろう。またオズウェンを背中に乗せて、空へと飛び立った。
そこにいてほしいという
少し薄目になりながら飛んでいたら、乗っていたオズウェンが「あっ!」と大きな声を発した。
「ヨリ! 降りて!」
オズウェンは風の音に負けないように声を張る。言われた通りに、前を見ないままで地面に降り立つ。
ゆっくりと目を開けると、そこには――。
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