第20話 竜の声①
テンベルクに着いてからおよそ1か月。滞在するのにちょうどいい気候になってきたが、そろそろ次の国に行くことになった。
「次は、ヒベルタウってところで、ここからはだいぶ離れたところにあるんだ。また野営しながら行こう」
(うん!)
「それと、ヒベルタウはテンベルクとは真逆の気候をしていてね」
(真逆? 暑いってこと?)
「そう。国の周辺はほとんど砂漠で森林がないんだ。だから、いつも以上に街から離れた場所に停留することになる」
人目につかない場所として森の奥深く、かつ木をなぎ倒さないように開けたところを探していたけど、次に行く国の周辺にはそれがない。つまり、丸見えの状態になる。
だから、できる限り街から遠い場所にしないといけない。そうなると、今まではかかっても2日くらいだった買い出しに、より多くの日数を要することになる。
少し寂しいなぁと思いながら、ヘラルドを背に乗せて次の国へと飛び立った。
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目的の国からも、周辺国からも、離れた場所に降り立つ。見渡す限りの砂の大地。皮膚にジリジリと陽射しが照りつける。本当に砂漠だ。
背中からヘラルドが降りて、拠点の設営を始める。この陽射しに耐えるために日陰を増やすのかと思ったけど、いつもと変わらないテントを設置しただけだった。
(ヘラルドは暑くないの?)
「暑いのは暑いよ。少し前までテンベルクにいたから余計にね」
(じゃあ、ここで寝泊りするより、街にいた方がいいんじゃ……)
「ああ、大丈夫。ほら――」
そう言ってヘラルドは小さく唱えると、手のひらから顔くらいの大きさの氷を出現させた。
「魔法で冷やせるからね。俺がここにいる間は、ヨリのことも冷やすよ」
(そ、そっか。魔法ってすごいね……!)
てっきり使えるのは火属性の魔法だけだと思っていたけど、氷も出せるなんてびっくりした。どうやったのかは分からないけど、シュクーカの乳を分離したのも魔法だと言っていたし、この世界の魔法は思っていた以上に便利なのかもしれない。
拠点を設営し終わって、明日買い出しに出発するための準備をしていたら、何かを思い出したかのように地図を広げた。
「竜は寒いのとは違って暑いのは平気だけど、もし俺がいない間に暑くて無理ってなったら、海か湖に行ってね」
こことか、と地図に指を差しながらヘラルドは言った。
海や湖は飛んでいれば辿り着くかもしれないけど、ここに戻ってくるのは正直大変そうなので、きっと行くことはないだろうけど、とりあえず頷きはした。飲み水は見える範囲に小さなオアシスがあったから、そこに行けば大丈夫だろうし。
(そういえば、えっと、ひべる……にはなにがあるの?)
「ヒベルタウには、エルートっていう……固めの食べられるお皿みたいなのの上に、果物が盛られてるもの、かな」
(えるーと……食べられるお皿……)
固い食べられるお皿がどういうものか想像できないけど、果物がメインで使われているスイーツは初めてだ。今まで食べてきた果物は、どれも前世にあった何かに近いものが多くて美味しかったし、きっとえるーともわたしの知っているものに違いない。食べるのが楽しみだ。
「ここは暑いから、エルートもそうだけど、他の食べ物も冷えてるものが多いんだ。さっきの魔法の応用で、冷気を当て続けて冷やしてたりね」
(たしかに暑いと冷えてるもの食べたくなる!)
前世でかき氷が夏にたくさん売れていたのを思い出した。……さっき、ヘラルドが出していた氷をかき氷にしてもいいかもしれない。この暑さだとすぐに溶けてしまうかもしれないから、もう少し涼しいところに行った時に提案してみよう。
それから大汗をかきながら夜ごはんを作っていたヘラルドを見て心配した後、明日の買い出しに備えて早めに就寝した彼にできるだけ近付いて、わたしも朝見送れるように一緒に眠りについた。
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