…………1-(9)

「なんか、放心している」

「だろうな…」

 両手に一杯の花束を抱えたまま、ステージから影へと入ると、深沢を見上げた。スタッフからタオルをもらうと、汗を拭きながら呟いている。満足感を噛み締めたまま、なつめの肩を叩く。

「まだまだ、これからだぞ」

「なにが?」

「見送りに行くぞ」

 近くのテーブルの上に花束を置くと、なつめも大切そうにその花束をテーブルの上に置き、深沢の後ろをついて走る。ドアを開けると、教室の生徒とスタッフの悲鳴が上がった。また、花束を渡される。それに驚いたのは、やはりなつめだった。いつもの冷たい視線ではなく、皆の顔に笑みが浮かんでいる。

「とても素敵だったわ」

「さすが、深沢先生が選んだだけの事はあるわね」

「生徒として鼻が高いわ」

「もう痺れるくらい綺麗だったわ」

 それぞれがなつめに向かって捲し立てていく。いつもなら無視して全く相手にもしないなつめだが、言葉もなく引き攣った笑みを浮かべるだけだった。きっと何かを喋ってしまったら、強がることも出来ず、涙が溢れそうだった。

「………」

「何も言わなくても、みんな分かっているわ」

 そっと夏川が側に歩み寄り、肩を叩いてくれた。この教室に受け入れてもらえた事が、なつめをより感動させている。そんな不器用ななつめの気持ちは、みんなに伝わっている。鷹東の言っていた必要な場所を、今確かに感じた。

「可愛げなくて、悪いな」

「今日は可愛く見えるから不思議です」

 深沢と夏川の言葉に、なつめは吹き出すように笑った。

 その後、深沢となつめは、来て下さったお客ひとりひとりに感謝の言葉をかけていった。そこへ二人の女性が、なつめの目の前に立ち止まった。顔を見てあのお客様だと思い、笑顔で答える。

「有難うございました」

 見てもらえた事に、本当に心の底から出た感謝の言葉だった。

「私たち、帰らなくて良かったって、今思っています。深沢先生は素敵だし、あなたの素晴らしい演技にファンになりました」

「私たちにも出来ますか?」

「勿論」

 瞬時に答えたのは深沢の方だった。なつめと二人の女性は微笑み合い、楽しそうに立ち去っていった。姿が見えなくなり、なつめは深沢を見ることもなく呟いた。

「そうやって、手懐けていくのか?」

「これも、商売なんでね」

「ハッ!いい性格している」

 睨み合ってもどうしても笑ってしまう。それほど今日の演技は、自分のなかで最高のものを見せられたという自信があった。触れ合う指先までも激しく求め、深沢の腕のなかで、強く抱き締められてホッとした。思わず思い出してしまって、慌てて視線を逸らす。

「お前、忘れていないだろうな」

「なにが…」

「今日は逃がさないからな。覚悟しておけ」

 知らない振りで逃げる。

 そっと盗むように、深沢の横顔を見つめた。こんなに好きになってしまっている。逃げはしないが、恥ずかしくて死にそうだった。自分でも往生際が悪いなと苦笑いを浮かべる。

 深沢は、最後の方のお客の相手でも笑顔が崩れない。深沢自身から呼んだ招待客であるから、話も長くなる。だが──、

「久し振りだな」

「平賀…、おまえを招いた覚えはないぞ」

 険悪な雰囲気の二人の間に、椎葉がすまなそうに分け入ってくる。

「悪い。油断して口を滑らせた」

 元々、椎葉の友人である平賀は、深沢とは同業者であり、学生の頃はライバルでもあった。何処からか噂を聞きつけて、特権とばかりに友人を利用したらしい。苦笑いを浮かべていた椎葉は、急に興奮したように深沢に詰め寄った。

「俺は、お前の演技のなかで今日が一番気に入った。最高だった!」

 絶対に、嘘は言わない友人に、深沢は笑みを浮かべる。

「おまえなら、きっとそういうだろうと思った。俺も今、最高の気分だ」

「だろうな。あんなふうに、あの深沢宗司が表現するなんて誰も予想してないさ」

 演技が終わった後の会場の騒めきと興奮を、見せてやりたいくらいだった。それ程の衝撃があった。何処か落ち着いた感じの深沢を見て安心する。椎葉は、そっとなつめに視線を向けた。

「久し振りだねって、言葉は変かな」

「……えっ」

 まさか声をかけられるとは思ってもみなかった。どう返事をしていいのか焦っていると、椎葉は手を振って笑った。

「まぁ、互いにバレエを離れてからだから、何年になるかな」

 同じバレエ教室だったというだけで、会った回数は数えるくらいだ。それも話をしているのを、遠くから見ているだけだった。椎葉が交通事故で、バレエを離れてからは、会う可能性だってないと思っていた。

「覚えていて下さって、光栄です」

 遠くから見ていただけの目標だった人が、自分の事を知っていることが嬉しかった。

「どういう形でも、俺は良かったって思っているよ」

 穏やかな表情でそう囁かれた。バレエを諦めたなつめが、ダンスを選んだ事だろうか。それとも、深沢を選んだ事なのか。問いかけの視線は、笑みで交わされた。

 深沢に睨まれても、別に気にしたふうでもない平賀が、今度はなつめに微笑みかける。

「…君、ナツメ君?半年であの出来だって?…それは凄いね。最高の演技だったな。その柔軟な体と奇麗についている筋肉はバレエか。うーん、触ってもいいかな」

 伸ばした手を深沢が叩き落す。

「気安く触るな!」

 なつめは、呆然と二人を見つめていた。平賀は、ちょっと見遊び人のような軽さが伺えられる。話し方もストレートで、楽しそうな目は、相手を馬鹿にしたような感じがする。とっつきにくそうなイメージがあるが、顔の整ったいい男だ。まるっきり深沢と違うタイプではある。

「深沢、少し心が狭いな」

「うるさい」

「…君の、元々の体のラインが綺麗なんだな。回転は恐ろしく安定している。深沢の回転速度が上がったのは、君の影響だね。開脚を活かした決めは、惚れ惚れするほど奇麗なラインだった。動きの優雅さに溜息が出たな…」

 興奮したように捲し立てられる。

「あ、ありがと」

「…深沢の独り善がりなダンスを見ていた僕としては、君の演技は、大変素晴らしいと思ったね。あの深沢が、君の美しさを最大限に活かす為に、アシスト的存在を選ぶことは、これも本当に珍しい」

 なつめは深沢の世界をより理解し大切にしている。求められるものを形として、完成させたいと願ったからこそ、素晴らしいものになった。

 平賀は二人の完成度が高いからこそ、舌打ちしながらも素直にその素晴らしさを認めた。深沢にとって、彼の存在はとてつもなく大きい。

「…君、だから、僕のところに来ないか?」

「はあ?」

 彼の言葉を理解出来なかったなつめは、間の抜けた返事をした。平賀は、まったく気にもしないで、手を引っ張って連れて行こうとする。

 椎葉と話していた深沢は、驚いてなつめの肩を捕まえた。平賀の手を振り払い、二人は睨みあう。深沢はなつめの背後から抱き締め、平賀へとシッシッと手を振る。

「俺のパートナーに、手を出さないで頂きたい」

「…ほぉ、独占欲丸出しじゃないか。君が、そんな態度を取るのもまた珍しい」

 睨み付ける平賀の目は嫌がらせとは違う、なにか嫉妬のようなものを含んでいた。舌打ちすると、なつめの顔を見つめた。

「深沢の過去が知りたかったら、僕のところへおいで…」

 平賀は、椎葉に引かれるようにして帰って行った。

 深沢は、なつめの肩から腕を離すと、

「まったく、油断もスキもない」

 呆れたように呟いている。そこへ、なつめの前に立ち止まった女の子に、なつめは思わず、目を見開いた。

「…来ちゃった」

「………っ!」

 笑っている彼女に、無表情のまま睨み付ける。彼女の顔からも表情が無くなり、なつめを睨みつける。二人の睨み合っている様子に、深沢は何も言えず、様子を見守る。

「来るなって言っただろう」

「………」

 なつめのどこか拒絶している様子に、深沢は二人を交互に見る。彼女は、見てすぐに分かるバレエをしている体、なつめよりも丸みを帯びた体のライン。顔も何処か似ていて、体格もほぼ変わらない。その顔が悔しそうに歯軋りすると、打って変わって、嬉しそうに深沢を見上げた。

「初めまして、深沢先生、新藤優美しんどうまさみといいます。なつめとはいとこになります。良く似ているでしょ?」

 なつめの隣に立ち、その容姿や顔の似ているのを強調する。笑っている顔は喜んでいるみたいだが、目が笑っていない。なつめを何処か見下したような感じに、

「似てない…」

 なつめが低く呟くと、優美の腕を容赦なく振り払った。

「似ているじゃない?なつめと私のパパが、双子なんです」

「あぁ、何となく…」

 納得してしまった深沢は、どこか怒ったようにソッポを向いているなつめを気にしながら、彼女の声にも耳を傾けた。

「なつめには来るな!って、前日まで釘を刺されていたんだけど、どうしても見てみたくて…。ごめんね」

 少しも悪ぶっていないところが、あっさりきっぱりしている。なつめは、もう口さえも聞かなかった。深沢は優美に軽く頭を下げ、なつめの肩を抱いて離れていく。彼女の睨みつける視線から立ち去った。普段通りにしているが、何処か殻に閉じこもってしまったなつめに、心配げな視線を送る。初めて話した時、こんな警戒心の強い感じがした。口数は互いに少なくなり、気持ちの持っていき所のなさに、幸せな瞬間は夢のように終わった───。


 深沢のマンションに帰り、お風呂をすませたなつめは、リビングにいた。小さな電気だけを付け、一人掛けのソファに体を投げ出していた。足の踏み場もない程、沢山の花束が置いてある。花の香りに酔い痴れるように、珍しくビールを飲んでいた。体は疲れたように、脱力感があるが、それよりも気持ちの達成感が気持ちよかった。

「………」

 ベージュのラフなズボンだけを履いた深沢が、濡れた髪を拭きながら、リビングの入り口に立っていた。キッチンに入り、ミネラルウォーターを飲むと、何処か上の空ななつめの目の前に座る。

「なつめ…」

 白のタンクトップに短パンだけの姿で、膝を抱えるようにして、ビールを飲む。その姿が、何処か孤独を感じさせる。

 原因はあの子か。

 内心呟きながら、その頬に手を添えた。優しい温もりに、上半身裸の深沢の体を見つめる。思わず目を見開き、急に赤くなったなつめの手からビールを奪って、一気に飲み干した。

「何すんだよ!」

「強くもないのに、酒なんて飲んでどうするんだ」

「俺だって、飲みたい時もある」

 缶を握り潰すと、ごみ箱にほおり投げ入れる。

「何から逃げたいんだ」

「うるさい!」

「なつめ…」

 静かに見つめると、苦しそうに視線を逸らした。何も言わないなつめに、大きな溜息を吐き出すと、悲しそうに呟いた。

「俺から逃げたいのか」

「…それは違う」

「お前は、今日最高の演技を見せた。あいつらの悔しそうな顔を見ただろう」

 深沢の元彼女たちは、歯ぎしりしたまま、何も言わずに帰って行った。潤子だけがたくさんの賛辞をくれた。その姿を思い出し、笑みを浮かべる。

「深沢宗司の最高のパートナーだと認めさせたんだ」

「深沢…」

「お前は、もう今までのお前じゃない。俺たちは試練を一つ乗り越えた。そのお前が何もせずに、また昔のように逃げるのか?」

「……!」

 真剣な眼差しにゆっくりと起き上がる。なつめの揺れ動く気持ちを感じながら、

「なつめが好きだ。お前は、俺の最高のパートナーだ」

「…深沢っ、…」

 なつめの腕を掴むと、抵抗しない体をそのままソファに押し倒した。強く抱き締められる腕の温かさに、唇を噛み締めた。気持ちがどんどん溢れていって、堪えられなくなる。目頭が熱くなり、大きな溜め息を吐き出すと、深沢の肩に顔を埋める。

「体だけが目的のくせに…」

 いつものなつめの憎まれ口に、思わず吹き出す。

「体だけじゃない…、全てが欲しい」

「…あっ、…」

 目の前の思いからは逃げない。抱き締められるだけで、こんなにも熱い思いが湧き上がる。触れ合う肌が火傷しそうなくらい熱い。これだけは自分で勝ち取ったものだ。

「…深沢、あんたが好きだよ」

「その言葉を待っていた」

 体を軽く抱き上げると、深沢は自分の部屋のドアを開けた。暗闇のなか、背中でドアを閉める。なつめの体を下ろし向きを変え、ドアに凭れたままで、柔らかな唇をゆっくりと味合う。深く重なった唇に堪らず、細くて長い足を掬い、ベッドに深く沈んだ。

「…っ……」

 深沢の匂いのするベッドに緊張が高まる。既に、上半身裸の深沢は、なつめを跨いだままで見下ろす。暗闇のなか、ズレた白のタンクトップから見える乳首に唇を落とした。

「あっ、んんぅ…っ」

 跳ねる体を組み敷き、踊っていた時に感じていた筋肉の動き、心臓の音を直に肌の上から感じる。

「あっ、…あぁっ…」

 タンクトップを脱がし、何度も何度も乳首から首筋を舐め上げる。震える唇を優しく奪うと、なつめの指先が遠慮がちに胸板に触れた。鍛え上げられた筋肉が動くのを見つめる。

「今日は抱いて寝てやれるけど?」

「………」

 笑っている深沢を睨みながら、そっと起き上がった。胸板に頬を寄せ、大きな背中を引き寄せる。胸に顔を埋めているなつめの満足そうな顔に、髪を撫で、その体をゆっくりとベッドに沈める。顔中にキスをし、硬くなった乳首を吸い上げると、反応するように胸を突き出した。

「あっ、あっ、うん…っ」

 何度も舌で絡め吸われると、我慢できないように柔らかく撓る。

 こんな乱らなダンスでは、どんなふうに花開くのか。

 既に熱くなっているなつめ自身に触れる。短パンの上から指で撫で上げ、その形を辿る。全てを脱がし直接見つめた。綺麗な形に目を細めると、恥かしそう隠そうとする。両手を掴み、逃げる体を抑え込む。宙を舞う長い足を掴み、足の指先から舐めていく。バネのような無駄のない筋肉、ひと目で惚れたこの体を視覚で堪能した。

「見るな!」

 振り上げられた足を掴んだ。今日は蹴られる訳にはいかない。赤く染まった両足を抱え込むと、熱くなっているなつめ自身を見つめ、唇を寄せていく。

「…待って。あぁ、イヤだっ」

 口に含むと、そのまま両足を拘束した。より硬くなったなつめ自身に舌を絡める。逃げることも出来ず、熱い口でしつこく弄ばれ、一気に高みに持ち上げられ落とされる。

「あっ、ああぅ、んんぅ!」

 激しい呼吸を繰り返しているなつめに、何度も優しいキスを繰り返す。初めてだろう若い体に、快楽だけを植え付けていく。

「もう限界…」

「嘘だろう?まだまだ…」

 近くの引き出しからオイルを取り出すと、それを見て顔を顰める。

「遊び人!変なものを出したな」

 力の入らない体で暴れるなつめの体を、笑いながら簡単に組み敷いていく。

「痛いのは嫌だろう?」

「どっちもイヤだ!」

 逃げるように背中を向けた。密かに気に入っている、背中のラインを楽しみながら唇を寄せる。時々、舌で舐め上げては甘く吸った。そのまま前に回した手は、硬くなった乳首を弄ぶ。思わず仰け反って足を開くと、その隙を狙って、オイルで濡れた指が最奥へと入ってくる。

「ああっ、あぁ…、あっ…」

 閉じようとしたが、いつの間にか体がすり込ませてある。流石に慣れたものである。背後にいるので、深沢の行動が見えない。足を閉じられず、最奥を解かれている感覚に、羞恥心で赤くなり、唇を噛んだ。

「あぁっ、うんっ、くぅ…」

 更に二本の指が押し開いてくる。中を蹂躙されることに、柔軟な体はその指の動きに合わせて、少しずつ力なく開いていく。思わず腰を浮かせると、もう一方の手が、なつめ自身を優しく握り込む。

「あっ、だめ…、んっ…」

 前と後ろを同じリズムで動かされると、同じように腰が動いてしまう。シーツを握り締め、最奥はゆっくりと指を締め付ける。ピンク色に染まった肌を眺め、もっとオイルを足していく。息を吐いた瞬間を狙って、三本の指が含まれた時、なつめの腰が跳ね上がった。

「あっ、ああぁ、そこは嫌だ」

「ここか?」

「あぁ、あぁ!ダメ…っ!」

 なつめの感じる所を見つけた。指の出し入れを深く速くすると、グッと奥を締め付け、

「あぁ、あぁ、あああぁっ!」

 前から熱い高まりを放ってしまう。熱い息を吐き出したなつめは放心状態だ。

 なつめの頭を抱き寄せ、体の向きを変える。甘い唇を深く合わせながら、汗で引っ付いた髪を優しくとかす。縋りつく体を抱き留め、シーツに沈める。キスに夢中になっているなつめの足を抱え、熱くなっている下半身を割り込ませる。

「…んっ、熱い」

 再び硬くなり始めたなつめ自身の先を親指で弄る。強烈な快楽に、腕を掴む指が食い込む。深沢の指がまた最奥を割り開いた。抵抗することも出来ず、三本の指がもっと奥へと入り込んできた。

「あっ、待って。まだ無理…やあぁ…」

 なつめは近くの枕を引き寄せた。苦痛は感じられない。十分に柔らかくなった最奥は、与える快楽に従順だ。綺麗な体のラインを堪能しながら、深沢はズボンを脱いだ。オイルまみれの手で、熱くなっている自身を強く擦り、準備を整える。

「なつめ、…好きだ」

「ぅん。深沢…、なに?あぁぁ!」

 最奥に押し付けられた熱いモノに、目を見開く。オイルで濡れた熱棒がゆっくりと押し込められてくる。広げられる感覚と、物凄い圧迫感に咄嗟に逃げようとした。その柔軟な体を知り尽くしている深沢は、更に足を開き、腰を持ち上げた。

「あぁ、苦しいっ…」

「なつめ、名前で呼べ」

「それ以上は無理だって…、あぁ、ああぁ!」

 時間をかけて、熱棒を深く埋め込む。深沢は大きな息を吐き出した。その反動が伝わるのか、熱く硬くなったなつめ自身から蜜が溢れる。圧迫感だけで痛みはないようだ。優しくキスをしながら、腰の下に枕を差し込む。

「大きすぎる」

「それは悪いな。でも、どうしてもなつめが欲しいんだ」

 体中が熱くて、中からも深沢の熱で息をするのも苦しい程だ。だが、ダンスで踊っていた時、こんなふうに深く交わったら、どんな感じだろうかって思っていた。心の交わりだけでなく、体の奥から深沢を感じる。火傷しそうなほど眩暈がする。

「…あぁ、…宗司…」

「…なつめ」

 そう耳元で囁かれると、深沢の息遣いしか聞こえない。

 深沢は瞳を閉じ、腰が痺れる程の締まりに、熱い吐息を吐き出した。なつめの立ち上がった乳首を見つめ、惹かれるように唇を寄せ、音を立てて強く吸う。

「あっ、そんなにしたら…」

 赤く腫れた乳首が過敏になって、痛い程感じてしまう。もっと感じ易い所を探していると、最奥の締まりがゆっくりと溶けていくのを感じる。勃ち上がったなつめ自身をこすると、甘い声が上がり、熱棒をねっとりと締め上げられる。

「あっ、あっ、…あぁ…」

 乳首を優しく舐め上げ、タイミングに合わせて、ゆっくりと腰を引き抜いていく。力が抜けた瞬間、奥深くまで腰を進め、ゆっくりと焦らすように動かす。なつめが苦痛を感じないように、強い快楽だけを覚えさせていく。緩やかになつめに合わせて動かしていた腰を、ある一点に向けて突く。

「…っ!そこは…イヤだ」

 なつめ自身から蜜がどんどん溢れる。逃げる体を抱き込み、もっと深く交わるように、弱い所を何度も攻める。

「あぁ、あっ、あぅ…」

「なつめ、俺のことだけを考えろ」

 激しくなる深沢の腰付きに翻弄される。蜜を溢れさせているなつめ自身の入り口を弄ぶと、その強烈な刺激に、深沢の背中に爪を立てる。

「そこはイヤだって、…あっ、あぁっ、んん…」

 強い快楽を追い掛け始めたのを確認すると、深い所で腰を回しながら、何度も奥へとオイルを足して押し込めていく。溢れるほどオイルが流れると、激しい腰付きだけで、なつめを高みへと連れて行く。

「あぁ、…激し、んっ、あっ、宗司…!」

「俺を見ろ!」

 朦朧とした目で見つめる。優しく口付けを繰り返される。深沢の流れる汗と、体の奥で交わる熱に、熱棒を強く締め付けた。

「もっともっと俺を感じろ」

「宗司…、あぁ、あああぁ…!」

 ベッドの上で限界まで撓った体を強く抱き締めた。最奥が熱棒を絞り取るように締まり、深沢はそのまま突き上げた深みに、溜まった熱を吐き出した。

「くぅ…うっ!」

「んんっ…、はあ…あっ!」

 何度か吐き出されるそれを受け止め、体内が一気に熱くなり、奥から溢れ出ていく。その感覚に感じたように、またなつめ自身から蜜が溢れた。頭のなかが真っ白になり、そのまま気を失った。 

 深沢は、その体を強く抱き締めた。


 少しずつ覚醒してくる。出来れば、目覚めたくないなつめは足掻いてみるが、気だるい体に、節々が痛みを訴えている。最悪なことに、下半身の違和感が呻き声を上げさせた。

「うっ…!」

 やはり目覚めしまった。

 そっと視線を横に向けると、カーテン越しに陽が僅かに入っていて、満足そうな深沢の横顔が見える。好き放題された体は、綺麗に始末してあるが、下半身の異物感はまだ残っている。

 だが、深沢の胸板の上に、頬を乗せて眠っていたらしく、規則正しい呼吸を静かに聞いていた。深沢の腕のなかで、目覚めるのは悪くないと思ったが、

「あんなにエロイって知らなかった」

 場数が違うのだから仕方がないが。何となく、いいようにされた感が否めない。

 しかし、とても優しく大切に抱かれた記憶しかない。多分、全てが初めてだろう事もばれているはずだ。悔しいことに、抱かれた後のほうがもっと好きになっている。胸の切なさと、腫れあがった乳首の疼きに、深沢の唇に触れた。

「…どうした?」

 ゆっくりと目覚めた深沢は寝惚けていても、その横顔と仕草はいい男だった。こっちは指を動かすのも億劫だというのに。眉間に皺を寄せ、深沢を睨みつける。

「なんか腹が立つ」

「腹が減った?」

 分かっていて恍けている深沢にムッとする。笑いながら、全裸でなつめの体を抱き締めた。燃えるように熱い体に思わず逃げる。

「…っ…!」

 そっと意味深な笑みを浮かべ、ゆっくりとなつめの背中を撫で上げる。ピクっと敏感に反応する体に目を細めた。

「最高に幸せだよ、俺は…」

 悪戯な手を塞ぐと、今度は顔中にキスをされる。このまま誘惑に負けないように、魔の手を必死に抑え込む。

「それは俺がいるからだろう?」

「…言うなぁ」

「幸せにしてやっているんだから、もっともっと好きになれ」

 その言い方の可愛さに、思わず笑みを浮かべる。そっとキスをしながら、なつめの体をベッドに抑え込んでいく。気が付いた時には既に組み敷かれていた。

「待て…。今日は無理だ」

「そうだな、キスだけ…」

 チュッチュッとキスされていたが、足がいやらしく絡められる。股深くに深沢の膝が入り、股間と奥を同時に持ち上げられるように刺激された。

「あっ、んんぅっ…!」

 驚いて目を見開いたなつめは、髪を掻き上げながら、セクシーに見ている深沢を凝視した。既にスイッチが入っているではないか。

「そうだな。三日はこのベッドから出さない」

「……っ!」

 笑いながらなつめの唇にキスをした。

 明日から一週間、教室は休みになる。久しぶりにのんびりしようと思っていたなつめは、隙を見て蹴りをいれてみるが失敗。あの手この手で抵抗するも、最後には誘惑に負けた。

「………」

 疲れて眠っているなつめの頭を撫でながら、深沢は愛おしげに見つめていた。そっと隣に滑り込むと、甘えるように胸に頬を擦り寄せてくる。

 この意地っ張りで素直じゃないところが可愛くて仕方がない。

 もっともっと愛してやろう。




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