小説サイトのサイトウさん

米太郎

小説サイトのサイトウさん

私は毎日、小説サイトっていうのを見ている。


そこには小説だけではなくて、エッセイなんかもあったりして、日記みたいな事が書いてあったりもする。

かくいう私も、ちょこちょこと日記のようなエッセイを小説書いたりして。

今日は何がありましたよーっていうのを書いてる。



自分も書いているからなのか、そういう日記みたいなエッセイを見て回るのが好きだったりする。

そのエッセイを見たら、その人の思ったこと感じたことが分かるっていうのが好き。

自分と趣味があっていたり、楽しいことがいっぱい書いてあったり。


今日も小説サイトをサーフィンして、次々読んでいく。

いつも更新されているようなエッセイを見る途中でふと見たことないエッセイが目に入った。


この人は、初めて見る。


『サイトウさんの日々の記録』


自分の名前をエッセイのタイトルに入れてるのかな?


中身はのどんな感じかな? ‌どれどれ。

えーっと……。冒頭から、暴言……。

その後もなかなか文句が多かったり……。


……このサイトウさんって人、とっても過激なこと書いてる。

自分の書いた小説に低評価を付けた人のことを淡々と。

恨み節っていうのかな。

すごいなー。

私には、こういうことはできないな。

ここまで言うくらい、小説頑張って書いてたんだろうな。


うん。サイトウさん、頑張ってって思う。

そう思っていると、自然といいねボタンを押していた。

頑張ってね。



さてさて。

そしたらサイトウさんは、どんな小説書いてるのかな?


サイトウさんの小説ページを開いてみる。


うーん。

タイトルからしてホラーなのかな?

ちょっと怖そうだから遠慮しちゃうな……。


けど、きっと一生懸命書いてるんだろうなー。

一ページ目だけアクセスしてみようかな。



――私は低評価が嫌い。

(……この書き出しの一文、なんだか怖いな……)



――低評価をした人は許さない。特定して報復する。

(……冒頭からこんなこと書いてあったら、読む気も失せちゃうかもな……)



――私は、誰が読んだのかがわかる。

――読むだけ読んで、感想も書かない人も特定して報復する。

(……いや、怖い怖い。何この人。関わり合いにならない方が良いよね。



――関わり合いにならない方が良いと思った方。もうあなたの事は特定しています。

――私からの報復されたくなければ、感想を残していってください。

(……やだやだ。なにこれ。わかる訳ないよね、こっちの事なんてわからないはず。何も残してないし……。……あ、エッセイの方に良いねボタン押しちゃった。取り消しておこう)



私は、その小説ページを閉じて、エッセイの方のいいねボタンを取り消しておいた。


ある意味、とってもホラーだったよ、サイトウさん。

とても怖かったです。ありがとうございます。

特定されたくないから、コメントは特に送らないでおこう。


違う人の小説よもうっと。




何作か小説を読み終えたら、メッセージが来ていることに気がついた。

小説に感想を書くと、作者さんからお返事来たりするんだよね。


私、こういうのも好きなんだよね。

今日は誰から来てるのかなー?


あれ? ‌これ誰だっけな?

メッセージを開いてみたら一言だけ書いてあった。



「何で、『いいね』を消したの?」



ゾッとした感覚が背中を走った。


えーっと。

これ、なんだっけ……。


この感覚を今日一回感じていた。

何となく思い当たることはあるけれど、もしかしてこれって……

メッセージ送信元のユーザーページへとアクセスすると、あの不気味な小説を書いているサイトウさんが開いた。


いいね消したのは、まずかったか……。

どうしよう私この存在バレちゃってる。

困ったな……。


そうか、エッセイをフォローしちゃってたのか。

フォロー外し忘れちゃってたから、ここから来たのかな……。

エッセイのフォローを外そうとアクセスすると、エッセイの最新話のタイトルが目に飛び込んできた。



『特定した』



これって、今日のエッセイのタイトルだよね……。

サイトウさん毎日投稿してるし……。


不安がよぎる。

これって、まさか私の事じゃないよね。

私が特定されたとしたら、サイトウから何をされるかわからない。


今日のエッセイに、アクセスするべきか……。

わざわざ証拠が残るようなことはすべきじゃないか……。


けれど、サイトウさんからわかるのって、私のユーザー名くらいのはず。

大丈夫だよね。



やっぱり今日のエッセイが気になるので、クリックをしてみる。



――特定しました。

――コメントを書いてくれないなら、直接あなたのところへ行きます。



そんなエッセイであった。

怖い気持ちもあったが、それと同時になんだな腹立たしくなってきた。

なにこれ脅しじゃない?

強制されて書かれたコメントや評価に何の意味があるの?


一生懸命に書いてると思ったから応援しようと思ったのに。


直接、そうやってコメント書いてやろう。



コメントを書き込むと、すぐに返信コメントが来た。



――私は、ただコメントが欲しくて。

(そうだよね。どうせそんなことだろうと思った)


――けどマイナス評価をする人は許せなくて。

(私も気持ちはわかるな)


――だから、そういう人が私の作品を好きになってくれまるまで、聞かせることにしているの。

(ん? ‌途中から共感出来ないな……その気持ちはよくわからない)


――大丈夫。今まで私の家に連れて帰った人はみんな、私の作品を好きになったの。

――私の家で、ずっと笑ったままだよ。

――今からお迎えに行くね。

(……やだやだ、なにこの人。何か変だよ。異常だよ)


――東京都。

――あなたの家は近いから良かったよ。

(私の家がわかる訳がないよ。なんでそんなコメントなのよ。なんか怖いよ……)



――ピンポーン。



家のチャイムが鳴った。


……このタイミング、まさかね。

……本当に来るわけないよね。



――ガチャ。


いや、家の鍵って、締まってたよね……。


携帯の画面を切ろうとしたら、サイトウさんからのコメントの最後の一文が目に入った。


――私は、どこでも行けるから安心して。

――めんどくさいことは無いから、大丈夫。

――体はそこに置いていっていいよ。

――首から上だけあれば読めるからさ。



携帯画面を切って玄関の方を向くと、鈍く光る鉈を持った女が立っていた。

着ている白いワンピースは、血に染まっている。


夏だからなのか、麦わら帽子を深くかぶっている。


女は、ニヤッと口元を緩めた。


「私の小説、面白い?」

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