深淵

深淵

一部にフェイクやぼかしを入れております。

◇◇◇

金沢の怖い話ってなんか聞いとったりするけ？

犀川の「W坂」、車で3周すると呪われる「内灘霊園」、「乙丸陸橋」のは地元紙にも載とったらしいわ。大きいタヌキがおる警察署の手前の橋。下がJR通っとるとこ。そこで自殺した親子の幽霊がでるんやって。

あと、卯辰山の展望台の話は知っとる？結構有名ねんけどお。

てか卯辰山って、行ったことはある？無いがんけ？

まあ、高校卒業して、こんな田舎やから車ないとダメやろ？だからみんな免許取るげんけど、

その免許取って浮かれてるやつがみんな行くところ。

いや、本当！本当ねんて！

金沢の夜景を見下ろすことができる展望台があって、夜になると車で男女がわらわらと向かう。

本当に。ほか行くとこないし。

――

で、卯辰山の展望台って3つくらいあるげんけど

やっぱ1番上のが1番人気で、人もそれなりにおるから

ちょっと下に穴場の展望台があって、そこに行こうってなって、

で、1番上のとこは展望台用にっていうか、夜景見てもらうために開けてて、柵があって、こっちにどの建物があってって書いた看板とかあって、そう、観覧車のやつみたいな！

けど穴場のとこはわりと木がたくさん生えとってかって柵も無いとこねんて。

やっぱりそこは自分たちだけしか居なくて、「ラッキー」とか言って夜景を車の中から見とってんて。

そしたら、男の人がやってきて窓ガラスをトントンって叩いてきてんて。

で、窓をウィーンって開て「何ですか？」って彼氏が聞いたら男の人が「いいもん見してやっか？」って、ちょっと半笑いで聞いてきてんて。

普通やべえやつ来たなって思えんけど、免許取り立てで調子乗っとったから「え、なんすか、見してくださいよ」って答えてん、

そしたら、

男の人が崖から飛び降りた

って話ねんけど、知っとる？

びびった？

これ結構ビビるよね！

私もビビった！

この話も、卯辰山に夜景見に行く時のセットに入っとるから。

車持っとる大学の先輩が、高校出たてのかわいい後輩を卯辰山の夜景つれてくとに絶対するやつ。

本当。通過儀礼やから。

あ、その後ビビって崖の下を見たけどなんもなかってん。だからたぶん幽霊。

私もお兄ちゃんに「知っとるけ？」って話したら「こんなん、知らんやつおらんやろ」って。

でも私らの親世代に聞いてみ。

絶対「知らん」って言うげんぞ。

――

で、調べたんだって。

最初はなんと無しにインターネットとかで。

「卯辰山　心霊スポット」って。

そしたら、卯辰山って心霊スポットとして結構有名やってんて。

なんか、お墓があって、

あ、今、出たって思ったやろ。

心霊スポットでお墓はあたりまえ体操すぎって思ったやろ。

違えんて、いや、違くはないか、お墓やし。

そのお墓ねんけどお、ただのお墓じゃなくて、医科大の学生が授業で解剖した死体を供養するためのお墓ねんて。

で！

で！しかも、今はちゃんと火葬してお墓に入れてお経あげてってしとれんけど、

昔、えーっと、なんか明治時代とか戦争前の昭和くらいのときは、お金がなくて葬式とか火葬ができん人は大学がやってくれるからっていって死体を渡しとったらしいげんて。

あとお、死刑囚のとか、身元不明の死体も大学で使ってたらしいげんけど、

で、そういう死体はバラバラになったやつをそのまま埋めとったらしいげんわ。

当時ね、今はそんなこと無いがやけど。

それがなんか公になったとかで供養し直してお墓が立ったとか。

でもぉ、なんか違うと思ってんて？

「男の人がやってきて窓ガラスを叩く」やったやろ？

あのお、幽霊って大体当時の服装しとるやろ？そういうイメージねんけどお、

いや、『Y2Kファッションに身を包みヘソを出した女の幽霊が…』とかは無いよ『折れた足先には厚底ニーハイブーツが…』とかそんなん聞かんよ、

けどなんか、『軍服を着た兵隊の幽霊』とかは聞くやろ？

その場合は「戦死して怨念が残って出てきたんかな」とかって思えるやろ？

「男の人」やったから、そんな、明治時代とか昭和とかじゃないと思えんてね。

当たり前のように車の窓も叩いとるしね。

だから、死体を雑に扱われた幽霊ってわけじゃないと思ってんて。

だから尚更あの男の幽霊ってなんやってんろって気になってしまって。

ほんでかって「卯辰山　心霊」でネットで検索して、

そしたらまたお墓、あ、大丈夫、これも一風変わった珍しいタイプのお墓やから、

てか珍しいタイプのお墓やから大丈夫ってなんねんて、ね、

で、えっと、隠れキリシタンのお墓らしいげんわ。

石川にも結構おったらしいけど、まぁ、金沢じゃなくて能登の方らしいわ。

で、このキリシタンってのは長崎にいたのをわざわざ金沢まで連れてこられたらしくて、

えーっと、今から20年前ぐらいかな、これ本当ねんけどお、トンネルを作るってなって工事してたら40人分の人骨が出てきたらしくて、

それがこの連れてこられたキリシタンの骨じゃないかってことでお墓が建てられたと。

でもお、さらに調べたんやけどお、

「12月の雪の中、今までの着衣を剥ぎ取られ、袷一枚着ただけの状態で、二重柵をした16間に4間の牢獄に収容されていた」

ってネットかなんかに書いてあったらしくて。

これもう、絶対、着物を着た幽霊じゃないとおかしいやろ？

だから違うってなって、あとは、一揆があって処刑されたとかもあるらしいんやけど、それって江戸やろ？

江戸時代の人、車みたらビビるやろ。

それで結局よくわからんって言って、

それであこから飛び降りたんやって。

自分が理由になればいいんだって気が付いたらしくて。

彼、責任感が強いから。

そういうとこが好きだったんやけどね。

かほく市ってとこに西田幾多郎っていう人の記念館があるげんけど、そこもなかなかおもしいわ。今度行ってみんか。

入ってすぐん所に大きい井戸があって『井戸をのぞくと、井戸もあなたを見ています』って音声案内が流れとったわ、あれってニーチェの「深淵を」のことやろ？

彼が幽霊を見ようとしたから、幽霊も彼をって思っててんけどお、幽霊が彼を見てたから、彼も幽霊を見ようとしたんじゃないけって思ってかって、卯辰山のこの話は忘れたほうがいいと思うげんてね。

だから親世代は「知らん」って言うがんかもね。

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これは私が『ご当地怪談』のネタ探しをしていた際、紹介頂いた女性から聞いたお話です。