第四一話 反逆者vs王国のスピードスター②

 俺とサムエルは互いに押しつけ合った剣を利用し、後方に跳ぶ。


「「――――っ!」」


 視線を合わせながら俺とサムエルは真っ向から剣を叩きつけ合う。先ほどと同様、サムエルは俺の剣を弾きながら高速移動をし、四方八方から攻撃を繰り出してくる。


 俺は攻撃を捌く度に、サムエルに斬りかかったがレイピアで逸らされる。剣からの斬撃もサムエルの速すぎる動きについていけず、船体を傷付けるだけだった。


 状況は全く変わっていない。


 互いに体力を消耗する。


 息が乱れてしまう。


「はぁ……はぁ、くっ!」


 俺はサムエルの正面からの突きを背中を反らして避ける。集中力も低下してきて、魔眼の力を行使し損ねた。


 そのまま、その場で身を翻しながら横薙ぎを食らわそうとするがすでにサムエルは目の前にいなかった。


「はぁ、はぁ……はははっ!」


 俺の周りを疾風のように移動しているサムエルも息を切らしていたが楽し気だった。


「なにがおかしい」


「楽しいのさ」


 見かけによらず戦闘好きだな。


 そんなことを考えている場合ではないな……これ以上、俺の斬撃によって船体が傷付くのは避けたい。


 今も船首側で戦っており、飛空艇の動力部分に影響はないが、飛空艇のバランスが崩れることで落ちてしまう可能性だってありえる。


 さらに攻防を繰り広げる中――


「ぐっ……!」


 俺は歯軋りを立てる。


 致命傷こそ負ってはいないものの、魔眼の力の行使が遅れて、肩、頬、足、腕が斬られて血を流していた。


「与えられないね決定打を!」


 稲妻のように頭上から迫ってくるサムエルの突きをバックステップで避けた。


 決め手がないのは相手も同じらしいが、このままではまずい。確実に俺だけにダメージが蓄積され続けている。


 サムエルはスピードを生かし、突きを主体とした華麗なまでの剣技で俺を追い詰めている。


 それに、彼と剣を交えたからこそ分かったことがあった。サムエルの剣技もまた地道な鍛練の日々の賜物であることが分かった。血の滲むような愚直な努力が垣間見えたのだ。


 一方、俺はなんだ? 今までの地道な鍛練を本当に生かしているのか? 魔眼の力に頼り過ぎていないか?


 ファルカオと戦ったときのことを思い出せ。


「オラッ!」


 俺は剣を床に叩きつけ、傷つけたくない船体に攻撃する。『風薙ぎ』を常時発動させているので床に張られている板は周囲に弾き飛び、穴が空く。


「おっと、ヤケになったのかな?」


 サムエルは弾け飛んだ板に巻き込まれないように近づいてこなかった。


「それとも僕を近づけないようにしたのかな……その場しのぎにしかならないよ」


「そんなことは分かっているさ、少し戦い方を変えるだけだ」


 俺は空いた穴を避けるように移動する。


「へぇ……」


 サムエルは感心したように唸りながら、俺の正面に立つ。


 ファルカオと戦ったときの一振り一振りは防御を鑑みない全力の一撃だった。


 だがさっきまでのザマはなんだ? 魔眼の力を使って相手の攻撃を回避したり、剣で攻撃を防御することを意識しすぎている。今まで木剣を打ちつけて訓練をしているときは防御や回避することなんて考えてこなかったはずだ。


 もう避けることは考えない、ファルカオと戦ったときのようにこの刃を直接当てることだけを考えよう。


「むっ!」


 サムエルは目を見開いて中腰で構える。俺が剣の切っ先を向けて構えると、剣が空気の渦に包まれ、俺を中心として強風が吹いたからだ。


 俺は俺の長所を殺していた。攻撃する際は後の事は考えない。後の事は後で考える、魔眼でどうにかする、それで相手が繰り出す攻撃の処理が間に合うか間に合わないかは知らん、無茶苦茶だがこれが俺の培ってきた剣技だ。


「うおおおおおおお!」


 俺はサムエルに向かって突風のように突っ込み、全身全霊で左から右への払いを繰り出した。不思議なことに速度と膂力がさっきより増している気がした。


「はっ!」


 サムエルは俺の払いを上方へと逸らしたつもりで、一瞬で背後に移動するが、


「ぐっ!?」


 時間差でサムエルの上半身は鎧ごと縦筋の切傷ができた。


 困惑気味のサムエルはなんとかレイピアを突き出し、振り返った俺の左肩に刺し、全身に電気を流し込んでくるが、


「構うのものかあ!」


 肩を襲う鋭い痛みと全身に伝わる鈍い痛みを感じながらも俺は剣を突き出す。


 サムエルはたまらず俺の肩からレイピアを抜いて、俺の剣を弾くが、


「なっ⁉」


 サムエルの胸部が時間差で剣で突かれたように抉られる。彼は傷付いた胸部を押さえた。


 魔眼の力で攻撃を届かせたわけじゃない。ただ、剣が纏う空気の範囲が広がっていたのでサムエルの肉体にダメージを与えることができた。


「クッ……ハハハ! 楽しくなってきたなあ! サムエル!」


 俺は疲労感を漂わせながらも哄笑した。


 体力勝負なんてまどろっこしいことは止めだ、命を削り合おうか、どっちかが死ぬまでな。

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