第四〇話 反逆者vs王国のスピードスター①

 今、飛空艇の上には俺と赤の将軍――サムエルしかいない。


 空気を収束させたことで甲高い音を鳴らし続ける俺の剣、バチバチと放電音が鳴っているサムエルの剣。この二つの音だけが飛空艇の上で響き渡っていた。


「さあ、共に舞おう」


 サムエルは距離を詰めてきて、高速の突きを繰り出し続けるが、


「勝手に舞ってろ」


 俺の魔眼の力によって突きの軌道が逸らされまくっていた。


 俺はサムエルの攻撃に合わせて突きによるカウンターを繰り出す。俺の剣は空気を裂いてサムエルの顔に向かった。


「――!」


 サムエルはギリギリまで俺の剣を注視し、剣身が届くか届かないぐらいの距離になると疾風のように消え去る。彼の移動先は俺の背後だ。


「無駄だ」


 背後を振り返らずに、剣を逆手に持って相手の攻撃を防御した。


「っ! 素晴らしい!」


 サムエルは防御されると、俺の剣に集っている空気の影響で武器が手元から離れ、床に落としそうになるが、なんとか空中で拾い上げていた。しかも、俺を褒めていた。


「力強くレイピアを持たないと君の剣を受け止める度に武器が振り落とされそうだよ」


 俺は再び、サムエルと対峙した。俺の剣は届かなかったが『風薙ぎ』を発動させているおかげで、サムエルの頬が横一文字に切れていた。


「その『風薙ぎ』という技、原理は分からないが無数の風の刃が剣の周りに集まっているね」


 それを確かめるために、さっきはギリギリまで俺の剣を見ていたのか?


「ファルカオ殿が時間差で両腕を深く斬られたのは無数の風の刃が肌を切り刻み続けた結果とみた……危険だね、その技。剣身が僕の顔に届いてたら、ひとたまりもなかった」


「なら届かせてやろう」


 俺は『風薙ぎ』を発動させたまま、剣を上段に構える。


 それからバックステップを踏んで剣を振り下ろす。魔眼によって俺の斬撃は届く、さらに『風薙ぎ』の圧倒的な殺傷能力で、より凶悪な一振りを繰り出せる。


 当然、サムエルはスピードを生かして距離を詰めてくる。彼は攻撃をレイピアで受け止める素振りを見せた。


 刹那の瞬間のやり取り。


 剣を振り下ろすとサムエルはレイピアのしなりの良さを生かし、俺の剣を横に逸らす。後手に回ったサムエルは圧倒的な速さで優位に立っていた。


 それでも、魔眼の力で剣の斬撃がサムエルの肉体に届くはずだったが――


「クッ!」


 ――いつの間にか頭上からレイピアを突き出して突進してくるサムエルがいた。俺はサムエルの攻撃を受け流しながら後退する。


 結果、サムエルはレイピアを床に突き刺し、彼に食らわせるはずだった斬撃は彼が元いた位置の床を削っていた。


「ここまで速いとはな」


 俺は言葉を漏らす。


 魔眼の力で攻撃を届かせるには相手の姿だけではなくいる位置も認識しなければならない。だが、脳がサムエルの姿を認識するより速く、また、俺の攻撃を届かせようとする意思よりも速く、素早く移動していたので攻撃が届かなかった。


「美しい僕の剣技を見せてあげるよ」


 サムエルは床に刺さったレイピアを抜いて、それを突き出すように構える。


「…………」


 応じるように俺は半身で構える。


「さてどうするんだい? 君の剣は僕に当たることはないよ」


「そりゃお互い様だろ」


「そうなってくると……美しい体力勝負で勝敗がつくね」


「美しい? 泥臭いの間違い、だろ!」


 と、言い終わると同時に俺は前に踏み込んで袈裟斬りを仕掛けると見せかけて、回り込むように跳んで剣を胴体に突き出す。しかし、サムエルは再び姿を消して、俺の横から顔に向かって剣を突き出す。


 サムエルの突きは俺の前髪を数本捉えて突き抜ける。俺はかろうじて攻撃を逸らさせたのだ。


「笑えるぐらい速いぜ、脳の認識が遅れるなんてな」


 俺は口角を吊り上げながら剣を振るい続ける。


 一振りの度にサムエルが上下左右、様々な方向に移動し攻撃を繰り出す。俺は魔眼の力を行使したり、剣を当てることでかろうじて攻撃を防いでいた。


 床は俺の斬撃によって縦横無尽に傷付き続ける。


「今度はそこか」


 下方からくる切り上げを受け止めて鍔迫り合いをする。


「君、ほんと強いね」


「そりゃどうも」


 俺とサムエルは額から汗を垂らしながら、互いに剣を押しつけ合った。

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