第三六話 反逆王女vs王国の天才と破壊砲①

 セラとレイズは蹴りをぶつけ合ったあと、


「「『フィジカルアップ・サード』」」


 互いに身体能力を向上させる魔法を唱えて体を白いオーラに包ませた。


 二人は肉弾戦を繰り広げる。


「くそ、ちょこざいガキだ!」


「アハハッ、叔母様、腕が落ちたのではありませんか?」


 怒気を放つレイズと口元を歪ませるセラ。


 二人の間には拳と蹴りが飛び交い、それぞれの攻撃が衝突する度に衝撃音が鳴り響いた。


 俺、マナ、ナナは、しばらく二人の戦いを見ていたが、俺はナナと視線が合う。


 火花を散らす眼と眼。俺達は臨戦態勢を取る。 


「『フィジカルアップ・サード』、『ウェイブ・エレメント』」


 ナナは身体能力を向上させたうえで右手に水の塊を収束させた。


「……『風薙ぎ』」


 俺は持っている剣に大気中の空気を収束させ、キンキンキンッと甲高い音を響かせる。


「そう、それ見たかったんだよね。青の将軍を倒した技、興味ある――うわっ⁉」


 ナナは喋っていると後方から飛んでくる黄色の光線に気付き、横に跳ぶ。光線はセラが放ったようだ。


「戦いの最中によそ見とはいい度胸だな!」


 レイズの声を気にせずセラは後方に数回跳んで、俺の前に立つ。


 俺は構えた剣を下ろして口を開く。


「セラ、なんのつもりだ?」


「ファル様、ファルカオとの戦いで疲れているでしょうから……」


 肩越しに俺の方を見たセラは前を向き、


「この二人はわたくしが相手しますわ」


 人差し指と中指でナナとレイズを差した。


「「!?」」


 瞠目するナナとレイズ。


「いけるのか?」


「ええ」


 俺の言葉にセラはウィンクで応じる。


「無理はするなよ」


「分かっていますわ」


 セラは半身で構える。


「おいおい……あまり舐めるなよ」


「面白いこと言うね」


 眉間に皺を寄せるレイズと口端を吊り上げるナナ。


「ふぅ……『フィジカルアップ・フィフス』」


 息を吐いたセラは大きな白いオーラに体が包まれる。


「フィフスだと⁉」


 驚きを口にするレイズ。


「へぇ~『無属性魔法』を極めたんだ……皆持ってる属性だから、極める人は普通いないんだけどね」


 ナナは顎に手を当てて、セラの魔法を分析しようとしていた。


「小手調べよ!」


 ナナはずっと右手に溜めていた水の塊をセラに放ったが、セラは瞬く間にナナの目の前に移動していた。


「うわ、早っ!」


 のけ反りそうになるナナ、殴りかかろうとするセラ。


「『ライトセイバー』!」


 レイズが右手から光の剣を発して、二人の間に割り込む。


 レイズはセラに向けて光の剣を振るうが、セラは背中を反らして回避する。


「くそ」


 悪態を吐くレイズ。さらにセラは背中を反らした状態で、


「『ライトセイバー』」


 レイズと同じく、光の剣を発する。


 二人は横薙ぎ、切り返しで打ち合うとレイズは耐えきれず足を後ろにばたつかせる。


「ぐぬ!」

 

 レイズはセラの振り上げた光の剣をなんとか受け止めるも後方に飛ばされてしまう。

 

 そしてレイズと入れ替わるようにナナが現れ、彼女は地面に片手を当てていた。


「『アース・ハンド』!」


 ナナが攻撃魔法を発動させると。直径にして三メートル級の巨大な土造りの拳が地面から生えて、セラを殴ろうする。


「っ!」


 セラが両手で難無く巨大な拳を受け止めるが。


「不本意だが協力しろ!」


「しょうがないわね!」


 レイズとナナがセラを挟撃するように現れた。


 レイズは黄金のオーラ、ナナは炎を拳に纏わせている。


 身体能力を向上させたうえで何かしらの魔法を拳に付与して二人の将軍はセラに肉弾戦を挑み始めていた。


「っ!」


 さすがのセラも口を真一文字にして攻撃を受け流し続ける。


「さすがですわね」


 セラは後方に大きく飛んで距離を空けた。


「ようやく勝機を見出したぞ。このままジワジワと追い詰めてやる」


 レイズはほくそ笑む。


 確かに若干、セラが不利になったかもしれないが、そもそも王女が近隣諸国有数の実力者二人を同時に相手できることが異常だ。


「セラ、そろそろ勝負を決めていいぞ」


 俺の言葉にセラはこくりと頷く。


「勝負を、決める……ですって……」


「……ハッタリに決まっている」


 ぽつりと呟くナナ、額に汗を掻くレイズ。


「では、そろそろ本気を出しますわよ」


 そう言ってセラは、両拳を横に構えた。


 ついに出るか……セラの真骨頂が。

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