第一〇話 追い詰められてしまう

 しばらく曇った空を見つめていると上空から会話している声が聞こえてきた。


「おい見つけたか?」


「いや、まだだ。だが、この辺に逃げたって聞いたからな、森を囲めばあの落ちこぼれも逃げれないだろ」


 ……まさか!?


 僕は思わず立ち上がって、会話の出所を探ろうとする。


 空には金属鎧を着た、王城勤務の兵士が三人飛んでいた――多分、あれは『風属性魔法』を扱える人間が行使できる、浮遊魔法の『エア・ライド』だ。


 追手は来てたんだ。


「まずい、まずいぞ」


 何より、森を囲めばあの落ちこぼれも逃げれないだろ、と言っていた。


 そんなことをされれば逃げれなくなってしまう。


 僕は立ち上がり、森の中心部に向かうことにした。


 そのとき、空にいる兵士が、


「あー! 面倒くさいな! 手当たり次第にこうすればいいんだよ。『エア・スラッシュ』! 『エア・スラッシュ』! 『エア・スラッシュ』!」


 手のひらから、風の刃を飛ばす魔法を唱えた。


 周囲の木々は風の刃を食らって折れ、折れた先は地面へと落ちて土埃を巻き上げる。


 僕は焦燥感に駆られるより早く、足を動かして森の中心部へと移動する。


「おいおい、森が滅茶苦茶になってんぞ」


「あの落ちこぼれを殺すだけでも一〇〇〇万貰えんだぞ! るしかねぇだろ! 『エア・スラッシュ』!」


「それ、言えてる! 『エア・スラッシュ』!」


 頭上から降り注ぐ風の刃。


 周囲は土埃で見えないが、とにかく走らなければ!


「この辺にいねぇかな」


 永遠とも思える風の雨。


 これを避けなければ――


「――あぐっ‼」


 肩に風の刃がかすった。深くはないがドクドク、と赤い液体が肩から流れ始めていた。


「人の声がしたぞ!」


 意を決して走り続けるが、


「うぐっ!」


 今度は右ももを切られて、転んでしまうが受け身を取りながら立ち上がる。


「また声がした! おい! 聞こえただろ!」


「聞こえたぞ! 二回も!」


「やってみるもんだな! お前らいくぞ!」


 兵士達の声が近づいて来る。幸い、兵士達が巻き上げた土埃のおかげで僕の姿は視認できないはずだ。


 斬られても痛みに耐えて声を出さないようにすれば、あの三人から離れられるかもしれない。


「――――はぁはぁ」


 どれくらい走っただろうか。


 どれくらい時間が経っただろうか。


 僕は森の中心部にいた。森の中心部は木々が絡み合い生い茂っているので上空からは僕の姿は見えない。


 だけど森の周りを兵士達が囲んでいれば、見つかるのも時間の問題だ。


 圧倒的に劣勢。


 王国の全国民が敵に回っていると考えると、劣勢なのは当たり前か。


「……っ⁉」


 僕は座って休憩を取ろうとしたがカサカサと衣擦きぬずれの音がしたので中腰で構える。


「ひひひっ。いたいたあ!」


「これでお金は俺様たちのもでやんすね!」


「トルグ! キリゲ!」


 茂みから下卑た笑みを浮かべるトルグとニヤケ面のキリゲが現れた。


「今は授業中のはずじゃ!」


「学園長が授業を中断させたんだよ。お前を殺すために! あとな……気安く名前を呼んでんじゃねえぞ!」


 トルグは怒りの形相を見せる。


「おいおい、学生に先越されてんじゃん」


「横取りすればいいだろ」


「なっ!」


 僕は唖然とする。


 トルグ達の横から先ほど追ってきてた三人の兵士達が現れた。


「おい! お金は俺達のもんだからな!」


「っ……ぐっ!」


 トルグは兵士に警告すると悔し気な表情をする。トルグやキリゲの親が爵位を持っているのであって彼ら自身には力がないため、兵士は強気にでれるのだろう。


 そんなことよりだ……この人数相手に逃げ切れるのか?


 でもこのまま何も分からず何もできずに死にたくはない!


 とにかく逃げて生き残ろうと、意を決するが。


「おや、たくさんいるね」


「クノクーノ大将軍様!」


 黄金の鎧を身に纏った人物が五人の兵を連れて来ていた。


「あ……ああっ、そんな」


 決意したはずなのに心が折れそうだった。


 鳴り物入りで有名とはいえ、そこにはこの魔法王国の軍の中で最もくらいが高い男――クノクーノ・トレイシア大将軍がいた。元々、上級貴族の子弟だったが王の妹に婿入りして、一気に権力と地位を得た男である。

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