ひきこもり陰陽師Vtuverがダンジョンマスターになったら攻略しにきた探索者が全滅したっぽい? 式神ダンジョンにようこそ!

千八軒@瞑想中(´-ω-`)

第一部 詠歌と乙

第1話 ダンジョン爆破&占領してみた!

 ダンジョンとは、魔物が出現する場所である。


 現代日本で認知されだしたのはここ数年の事だ。ダンジョンがあるのは地下。広大な地下洞窟の中である。


 人によれば、そこは遥か大昔からあったとも言うし、いやいや現れたのはつい最近だと言う人もいる。その成り立ちは謎に包まれていて不確かだ。


 だが、ダンジョンは確かにそこにあった。


 ダンジョンに関しての人々の認識として、


 壱、貴重な鉱物や宝が眠っていること。

 弐、危険なダンジョン魔物が住みついていること。

 参、人はその迷宮に挑まなければならないこと。


 があげられる。


 人はダンジョンに惹かれる。そこが日常ではありえないほど危険な場所で、時として命を失う可能性すらあるとしても――――


 ☆★☆彡


 その日、巨大ダンジョン『阿頼耶識あらやしき』の内部に潜っていた探索者たちの端末に通知が届いた。探索者とはダンジョンに潜る人々の名称だ。


 通知は動画配信チャンネルからである。だが登録したおぼえの無いチャンネルだった。最近すっかりダンジョンがメインになってしまった動画配信サイト。今や探索者であれば誰しもがアプリを入れている。


 通知の元は『芦屋あしやリリカナ.ch』

 件名は『緊急リアル配信。ダンジョン配信はじめました。サプライズもあるよ!』だ。


 探索者たちは首をひねった。

 誰だこれ? と。


 困惑する彼らを尻目に、不思議な事にひとりでに配信が再生される。


「――ハロハロー、愚民くんたち~! 元気にしてたかな? みんな大好き陰陽師おんみょうじVtuber、芦屋あしやリリカナ様だよ~~! 今日も無価値な時間を無意味に過ごしてたよね! そんなキミたちに、リリカナ様がサプライズを持ってきたよ!」


 妙にテンションの高いキンキン声がそれぞれのスピーカーからあふれ出た。


“おい、ジャック配信とか頭沸いてるのかこのメスガキ。……これどうやってんの?”

“リアルってなによ? いきなり来たけど”

“ついにダンジョン配信はじめたんだな。Vも卒業か”


 と画面に数件のコメントが流れる。

 どうやら彼女を知ってる人間がいるらしい。だが様子がおかしい。


“おい、何その。魔物?”

“リリカナさま。えっとその、アバターじゃないのは良いとして、えっと、あれ?”

“実写じゃん。本人じゃん。かわいいじゃん”

“ついにVtuberやめたんか。いいぞいいぞ”

“んー、んんんーー。……その姿は、ああそういう……”


 彼女は自分のことをVtuberだと名乗った。

 だが、画面の中に手を振っているのはイラストで作られたアバターではなく人間の少女だった。とはいえ様子が普通ではなかったが。


 背景は洞窟。ダンジョンだろう。だが画面が尋常ではない。映っているのはおびただしい魔物の死体だった。それをバックに返り血がついた藍色の着物がひるがえる。


 和装の少女が踊っていた。


 おそらく自ら改造したのだろう。藍色の着物を大きく着崩していた。

 襟元は大きく開き上半分が見えている。かなり大きな胸である。


 また、短くカットされたすそからは男たちが目を離せないみずみずしい太ももがあらわになっていた。かなり煽情的な装いだ。そこからさらにすらりと伸びた足もまぶしい。

 

 少女はくすくすと笑う。鈴を転がすような声だ。耳に心地よく響く。

 そして髪は黒髪。つややかで腰まで伸びている。黒曜石の輝きだ。


 さらに肝心かなめの尊顔は……。


「くふ、くふふふふ! リリカナ様、リアルダンジョンに見・参っ!!」


 彼女は仮面をかぶっていた。

 和風の猫の面だ。朱の隈取くまどりの入った白く妖艶な面である。


 そのデザインは上半分だけのもので目元は隠されている。

 にやりと不敵に笑う顔は、半分を隠されていてもなお可憐である。


 形の良い唇、その妖艶ようえんな笑みに視聴者たちは見ほれる。


 和装でもわかる圧倒的なスタイル。そしてこの表情。

 少女がとんでもない美人であることに気づいてしまったのだ。


“……えっちだ”

“やばい。もう一回クルってして”

“すごい。エロい。やばい……、ドストライクだわ”

“そのコスプレ似合ってるじゃん”


「ふふふ、なぁに、ちょーとリリカナ様がリアルに降臨しただけで、みんな前かがみなんだ? ざーこざこぉ……。私のこと、馬鹿にしてたの反省した? もう釘付けだよね。これはざこざこ愚民くんって言われても仕方がないよね」


“あーうん。まぁ。これは。うん”

“いやー、でも普通に驚くわ”

“リリカナ様めっちゃ推せる”


 画面の中のリスナーたちがリリカナと呼ばれる少女を口々に褒める。


 Vtuberが最近はやりのダンジョン配信を始めたという事なのだろうか。だがそれなら自分の端末にも配信が届くのはなぜだろう?


 自分には関係ないはずだ。と探索者たちは思っていた。

 そう思っていたのも次のリリカナの発言までだった。 


「ふふふ、喜んでるけどね。良いのかなぁそんなにのんきでぇ。今日は愚民くん達の大好きなダンジョン配信をぶっ壊しに来たっていうのに……」


“あ?”

“ダンジョン配信をぶっ壊すとな”

“リリカナ様それどういうこと?”


「つーまーり、――こういうことだよぉ!」


 猫撫で声から一転、叫んだ。


 彼女が指を鳴らす。

 それが合図だ。


 爆音、衝撃、大地がゆれる。岩の破片が飛び散る。端末を眺めていた探索者たちはたまらず地に伏した。もうもうと立ち込める粉塵の中さけぶ。


「何が起こった!?」


 状況は明白である。ダンジョン内で爆発が起きたのだ。


「あははは! びっくりした? ねぇびっくりしたぁ!?」

 端末の中の少女は陽気に笑った。


「ダンジョンが今、どうなってるのか愚民くん達にも見せちゃお♡ ほーら、今こんな風になってるんだよぉ」


 リリカナが手を振ると、画面が切り替わる。

 映し出されたのは『阿頼耶識』内の別の景色だった。


 そこは阿鼻叫喚の有様だった。まだ爆発が続いているらしい。逃げ惑い、怯えてうずくまる者、混乱をきたしている者たちが映し出される。


「あれれ、爆砕符多かったかなぁ? 探索者さんたちが死んじゃったらさすがに可哀そうだし、出て行ってもらっちゃおうかなっ。えーいっ、式神たち、れっつーごーっ!」


 切り替わった画面の中でリリカナが何かを投げた。それは白い紙だ。変化は一瞬である。紙切れが生きた鳥に変化し洞窟内を飛んでいく。


 再び画面は切り替わる。画面には一人の女性探索者の姿。


 そこに飛来するのは、先ほどリリカナが作った白い鳥だった。鳥は探索者の姿を見つけると巨大化。彼女をついばみそのまま連れ去った。


 「きゃあああ!!」なんて悲鳴を上げながら彼女は空を飛ぶ。訳も分からず運ばれた先はダンジョンの入り口だった。鳥は彼女を安全な場所に落とすと、紙切れに戻った。


 画面にコメントが流れる。


“なんだこれ……”

“すげー。すげー、けど”

“爆破? 式神? 今の映像なになに?”

“やばいな。ダンジョンの近所サイレンなってる。マジで爆発あったんだ”

“リリカナ様が操ってるのそれ”


「これはね汎用式神だよ! みんな知ってるでしょ? リリカナ様は星奏流せいそうりゅう退魔陰陽師だって! 私は陰陽師なんだから式神が使えるのは当たり前だよねっ」


“え、それ設定……”

“設定じゃないだと?”

“ほんとうだったのかよ”


 さも当然のように言い放つリリカナに視聴者たちはそれぞれ驚きのコメントを残す。


「今日からこのダンジョンはリリカナ様の庭にするね! 私オンリーのダンジョン配信をするから、みんな絶対見てね? あはっ♡」


 動画の中で微笑むリリカナ。顔をカメラに近づけ、そして投げキッスをよこした。

 探索者と視聴者は異様な雰囲気の中それを目撃する。


「ふ、ふざけるな。こんなことをしてただで済むものか!」


 探索者の中に激高する者があった。


 だが彼の元にも白い鳥が飛来する。ついばまれダンジョン外に運ばれる。落とされた先にはあっけにとられた探索者が転がっている。


 みな薄汚れているが、怪我もなく無事である。


「くそっ、なんでだ! ダンジョン入れねぇぞ!」


 誰かが叫んでいる。入り口に不可視の壁が張られているらしい。


(全員、追い出されたのか……?)


 呆然とする間に、ほかの探索者たちも続々と運ばれてきた。

 

  ☆★☆彡


 これが『ダンジョン爆破たてこもり事件』当時の状況である。

 犯人は芦屋リリカナと名乗る少女。


 正体不明の彼女は、半年前売れないVtuberだった。

 彼女はいかにしてダンジョンたてこもり犯になったのか。


 物語は、事件の半年前にさかのぼる――――。



 ――――――――――――――――――――――――


 カクヨムコン9に参加中!

 貴方の評価が、作品の隆盛を決めます!


 詠歌の物語、面白いと思っていただけているでしょうか?

 面白かったと思っていただけたのならば、ぜひフォロー、♡、コメント、☆などで応援していただけると今後の励みになります。よろしくお願いします!


 ☆評価 レビュコメお待ちしています! 🐔

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る