終間天奇(しゅうかんてんき)

シャカシャカ

1話前編「先の見えないプロローグ」

 2023年12月24日19時28分06秒…

 

 北海道某所…


「リア充、爆散しろ!」


 俺の一言でこの世の全てが終わりに向かった…



 ピシッ


ーーーーーーーーーーーーー


 半日前…(2023/12/24 12:00:01)

 

 北海道、私立終つみ高校…


『ケーイ!…計!』


 何やら耳元で甲高い声がする…

 何か耳元で息を吸う音がした気が…し…


『もう昼休みだ!起きろ!バカやろう!』

「うわぁ!?!!!」


 俺は突っ伏した机から飛び起きた。


 なにやら大声が聞こえた気がしたが、周囲には誰一人居なかった。


 目を擦り、周りを見渡すと…

 12畳の長細い空間に、オンボロの長机にピカピカのパイプ椅子6つが綺麗に横並びになっていて、机の向こう側は2000年代に流行した物が巨大な棚にズラリと並び、最新のクーラーからは暖風が止めどなく吹いていた。


 どうやら俺、信濃計しなのけいは00年代研究部の部室で寝ていたようだ。でも、朝にこの部室に来た記憶がない…てことは…


 ドカン


「おぉ! 起きたか! 副部長!」


 いつものように元気いっぱい部室のドアをぶち破るゴリラ女が静岡犬猫しずおかわんにゃん


 1つ年下の高校1年生だが…


 100m7秒で走り抜き

 フルマラソン(約42.2km)で1時間かからなかった。

 (2つとも非公式記録)


 また…力も強いため、部内会議をサボりor寝坊する俺を担いで部室に強制移動することが部内では常連になっている。


 最近では運んでいる俺を起こさない運び方をマスターしたらしい。


 ちなみに、容姿端麗、頭脳明晰だと自称しているが、学校では記録のえげつなさと、いつも寝ている俺を学校まで運んでいる姿と、特殊な名前からから「犬猫イヌネコゴリラの特急便」と恐れられている。


「今日も運んできてくれたのか…悪いな…」


 俺は手を合わせ、ペコリと頭を下げて謝った。


「謝んなくて良いって! それより部長がいなくなってから部会に参加する人が減ってしまって… 今日も3年の蓮先輩、2年の乙女先輩、1年の私の3人しか来なくてさ… この部活大丈夫かな…」


 静岡は、壊したドアを力づくで即座に修復しながら下を向いた。静岡の背中を見て、普段明るく振る舞っている姿とのギャップから本当にこの部の終焉が近づいているように感じ取れた。


 俺はパイプ椅子から立ち上がり、一度暖房を切り、一番近くにあった窓を少し開けた。

 外は真っ白な景色が広がっていた。先が見えない程に…

 俺は窓の側にある写真立てを持ち、笑顔で答えた。


「大丈夫だ! 静! アン子が居なくても俺が何とか立て直すさ!」


 それを聞いた静岡は、少し笑いながら


「なら…部会にちゃんと参加しろよ! K!」


 と俺に言い、ドアを完璧に直してから部室を出た。

 

 部室を出る直前、彼女が涙目になってるのを見て、罪悪感が自分の中で駆け巡った。


 俺の持っていた写真立てには、00年代研究部の今年の夏合宿の集合写真が入っている。


○○○○○○○○○ 

半年前…(2023/08/27 18:00:54)

場所…知床五湖撮影場所


 緑豊かな自然の大地が一望できる知床五湖の撮影場所に何とかたどり着き、俺はもはや帰りたくてしょうがなかったが…


『ほら!計!鹿だよ!鹿!』

 

 とある女子が俺の手を引き、鹿を指差しはしゃいでいた。この女子が炎上寺暗刻えんじょうじあんこう…通称アン子。

 高校3年生で、00年代研究部の部長だ。


「んなもん、釧路に行けば何匹もいるだろ」


『何【頭】でしょ? 間違えてるよププ!!』


「調子こいてんなよこのアマ! 何【頭】は人に役立つ物の数え方ですー!」



 アン子と俺が言い合いしてると…


「コラ! 撮影場所デ! 喧嘩しちゃダメよ!」


 身長190cm以上ある大型外国人に、叱られてしまった。


「次また言いあったラ…【フ○エノキワミ アァー】デスヨ!」


 大型外国人は頭に赤ハチマキをつけようとしたところ…


「それはいろんな意味でアウトだよ!」


 静岡がツッコミを入れ、赤ハチマキを取り上げた。


「とにかく、早ぅ 写真撮りましょうぜ! 親分!」


 男子部員の1人が俺達4人をかすように声をかけた。

 どうやら、俺達が揉めている間に撮影場所を確保出来たようだ。


『計! 早く行こ!』


 アン子は俺の手を引き、撮影場所へ引っ張っていった…


『ハイ!チーズ!』


 写真を撮り終わり…帰ろうとした時、


ブチッ


 何か太い物が切れた音がした。他の人々の反応を見ても、聞こえていなさそうだ。


 気のせいかと思い、靴ひもを見ると、


「あれ?」


 両方の靴ひもが綺麗にきれていた。1ヶ所だけではなく、数ミリ単位で粉々にきれていたのだ。


 これを見た俺は何か嫌な予感がした…


『大丈夫? 行ける?』


 アン子が手を差し出したので、掴もうとした。


 次の瞬間だった。









ブチッ

























 「えっ」


 アン子の差し出した手を握った瞬間…































 そこには、アン子の左腕しかなかった。


 アン子の左肩が綺麗に鮮やかに切断され、鮮紅の血が大量に流れていた。


 俺は泣き声か驚きの声か分からないような声で叫ぶしかなかった。


「アン子…腕!!」
















 周囲の人々も、姿形も残さず消えていた。  


 さっきまでそばにいた部員も顧問も全員消えた。


 俺は恐怖で腰を抜かしたが、アン子の左手は絶対に離さなかった。


  

 絶対に離したくなかった。


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終間天奇(しゅうかんてんき) シャカシャカ @syakasyaka1106

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