第47話

潰された心臓からあふれたメデューサの魔力は全てネメシスに吸収されてしまった。


「仲間など必要ない。特にお前のような力だけ有り余っている奴は」


そう言ってこちらを睨みつけたネメシスの顔面には苦しげな表情の仮面が付けられている。


「思いあがるなよ。私はまだこの身もこの魔力も潰えていない!!!」

「メデューサから奪った魔力で何気取ってんだよっ!!」


俺は地面を蹴り、一瞬で肉迫する。

予備動作なしの最速の一撃。


だがネメシスの身体に傷をつけることは叶わなかった。


「フン。粋がるなよ人間風情が!!」


ネメシスに握られた部分から、白銀のデュランダルの輝きが徐々に失われていく。


本能的に危機を感じて、女神の手を振りほどくと、先ほどまで握られていた部分が灰色に石化していた。


「いや、本当に惜しい権能だよ。ここまで“殺し”に特化した権能はない。ただ死を与えるのではなく、ゆっくりと生命が失われていく様を見せつけて苦しませながら殺していく。お前のような無礼者を殺すにはちょうどいい」

「やってみろよ。俺は必ずここでお前を倒して、メデューサを、ステンノもエリーもみんな救う!! それがこの世界での勇者の使命だ!!」

「人間が神を救うだと!? 傲慢にも程があるだろう!!」


えぐり取るように伸びてきたネメシスの腕を剣で弾き、お返しとばかりに剣撃を叩き込んでいく。


袈裟切り、切り上げ、胴払いからの突き。

そのすべてをネメシスは籠手のみでしのぎ切っていた。


アキレウスの『喚装』でスピードを上げているにもかかわらず、ネメシスの肉体にダメージを与えることができない。


「やはり人間では神には勝てないんだよ!!」

「そうか? お前の両手見てみろよ」


ネメシスの籠手には大きなひびが縦横無尽に駆け巡っていた。


「ダメージは通ってるんだ。このまま押し切ってやるよ!!」

「たかが装備のひび程度でいきがるなよ勇者!!」


叫ぶネメシスを中心に魔力波の渦が巻き起こる。

深紅の雷を纏う魔力波は無数の根となって俺が生み出した世界を侵食し、黒く染めていく。


「あんたがその気なら死ぬまで戦ってやるよ!! 『我、異世界の勇者として此処に在り』!!!」


対抗するように放出された俺の魔力波は白銀の渦となりネメシスの魔力と真っ向から衝突する。

が、デュランダルが纏った魔力が砂の城を切り崩す波のように徐々にネメシスを食らっていく。


「なぜだ!? こんな急激に強くなるとは……!」

「さっきとはちょっと違うんでね」


ネメシスは魔力が食われていく様を眺めるだけで、なすすべはない。


「『聖剣反転』さ。即興でやってみたけど案外できるもんだな」


聖剣がなぜ聖剣と呼ばれるか。

勇者が使っていたから? 違う。

他の剣よりも強力だから? 違う。


聖剣は魔力を放出する魔力源でもあるから聖剣なのだ。


じゃあその聖剣を『反転』させたら?


「もちろん魔力を吸収していくよな?」


『反転』したデュランダルは放出されていたネメシスの魔力は食いつくし、彼女の剣を伝って彼女の身体を構成する魔力までも食らいつこうとしていた。


「あんたら神ってさ、身体のほとんどが魔力なんだよな? だからこその不死であり、だからこその権能だろ?」


結局すべての源は魔力なのだ。

神々であってさえ世界の法則には逆らえないらしい。


徐々に魔力を奪われていくネメシスにはもう受け答えする余裕すらない。


「案外あっけなかったなぁ!!!」


魔力を吸われたネメシスの剣はもう普通の剣と変わりはない。

力も権能も何も、もう彼女には残されていなかった。


「これで、とどめだ!!」


振り下ろされたデュランダルは剣を折り、ネメシスを一刀両断した。


中心から完全に二分されたネメシスは一瞬だけこちらを睨むようなしぐさを見せたのち、塵となって消えていった。


彼女が消滅し、変異神域も元の無機質な岩壁のダンジョンに戻ってしまった。


彼女が完全に消滅したことを確認すると、俺は膝から崩れ落ち、大の字になった。


「やっと、おわった……!!!!」

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