第19話 神妹

「それで、その彫刻は強奪されたわけか……」

「そうなの! せっかく妹の手掛かりを見つけたと思ったのに!!!」


 ヒュドラの討伐後、俺たちは新宿ダンジョンの事務所に戻り黒崎さんに事の顛末を報告していた。

 ちなみに空澄さんは組合の仕事だとかでこの場にはいない。

 苦労人なんだろうなあの人も。


 地団駄を踏み始めたステンノの両脇を抱え膝の上に座らせて落ち着かせた。

 エリーが嘘でしょ、とにらみつけてくるが無視しておく。


「ネメシス神の狙いはわかる?」

「それが全く。裏はありそうな言動はありましたけど」


『これが必要になった』とか言ってたな。単純な魔力リソースとして必要になったのか、それともステンノの妹の魔力がこもっているから必要なのか。


 単純な魔力リソースなら、俺たちと戦闘した時みたいにダンジョンから魔力を吸い上げればいい。


 ということはステンノの妹の魔力が必要になったということ。


「お前の妹って何者なんだ?」


 そう尋ねた途端、ステンノの全身に緊張が走るのが伝わってくる。


「私は神よ。だから妹も神なの」

「ケイくんはそういうことを聞いているわけじゃないと思うが」


 ステンノが俺の方を見上げてくる。

 本当に聞きたいの? と言わんばかりの彼女に向かって頷く。


「妹は今、記憶喪失、それに幽閉されてるの」

「妹を見つけたいってそういうことか」

「そうなの。まだどこに幽閉されているのかわからないのよ」


 だからこそその妹の魔力が手掛かりとして必要になったということか。

 だがネメシスがステンノの妹で何をしようとしているのかは全くの謎だ。


「私は妹の魔力なら遡ってたどっていけるの。だからあの彫刻が必要だったの」

「なるほどな」


 正面に座る黒崎さんもその後ろに立っている煙の表情も険しい。


「ギルドとしても神が野放しになっている今の状況は見過ごせないわ。できる限り捜索に協力するから。ただ──」

「現状、神に対処できるのはカネシロさんだけですねー。ギルドマスターが捜索の指揮を執る形になるので」

「元から俺が対処するつもりでした。ステンノと出会ったのは俺ですから」


 ギルドに頼る気などさらさらない。これは俺がこの世界で得た出会いがもたらしたもの。俺が責任をもって解決しなきゃならないものだ。


「私は頼りなさいよ。この世界に来た時から一緒にいるんだから今更仲間外れにしないでね」


 エリーもそれに今の俺なら視聴者というネットワークもある。


「それと図々しいのは承知の上なんだが、変異神域の調査は継続してくれないだろうか」


 自由奔放な鹿田さんに探索者としての仕事のほかにも重要な業務を抱えている空澄さんに黒崎さん、そして特に何もない俺。

 各地で出現する変異神域にすぐに対処できる人材が俺しかいないらしい。


 妹探しと神域の調査が完全に無関係だったら正直断ってた。


「いいですよ。ステンノの妹の手掛かりは神域にあったんです。また他の手掛かりが神域に出るかもしれないですからついでに神域を消してきますよ」

「いや助かる! 私の目に狂いはなかったな! これからも頼むぞ~」

「頭なでないでくださいよ。恥ずかしいですって」


 ぐりぐり撫でてくるのは違うというか子ども扱いされてない!?


「ちょ、あなたまでケイくんに近づかないでよ!」

「そうよケイは私といるんだから」

「それも違うけど!?」


 俺の上空数センチで行われているもはや聞き馴染みのあるような言い争いをどう収めようかと途方に暮れていると、ポケットが小刻みに震えた。


「もしもし?」

『我だ! 魔王パンドラだ! ん? うるさくないか? 外にいるのか?』』

「いや気にしないでくれ……それで? どうした?」

『街ブラ動画とってるんだが暇になった』

「因縁の相手を暇つぶしに使うなよ……」

『我、お前ぐらいしか連絡先知らないからな!!』

「悲しいこと言ってんじゃないよ」


 パンドラのたわいもない話題を聞き流しているうちに女たちの戦いは一応の収束を向かえたらしい。


「そういえばAランクなんだよね?」

『そうだぞ。コツコツ上げていたのに抜かしおって』

「ゴメンて。神域発見したらさ、直接連絡くれない?」

『無理だな』

「なんでだよ」

『我が先に潰してやるのでな!! ワハハハハ!!!』

「くっそ切りやがったんだけど」


 スマホをポケットにしまい一息ついているとさっき喧嘩していた顔が目の前に3つも並んでいた。


「誰からの電話?」

「何を話していたのかしら?」

「ずいぶん楽しそうだったね」


 顔は笑顔なのに目が笑ってない。


「いや、パンドラから連絡来てさ……手伝ってもらおうかと……だめっすかね?」


 沈黙が肌を突き刺してくる。


「あの魔王ならまあ……」

「あのへんな子から電話? そのくらいならいいのではないのかしら」

「彼女なら率先して手伝ってくれるだろうさ」


 ただ、とその端正な顔が3つ、視界を埋め尽くした。


「「「私たちをほっとかないで!!」」」


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