第7話 『意味のわからない言葉』

そして、ある場所に辿り着いた。

それは――、



「……海?なんで、ここに?」



「ここなら、思い出せるかなって思って」



彼女はそう言いながら、俺に向かって微笑んだ。その笑顔はとても美しくて……見惚れてしまった。

でも、そんなことを考えている場合じゃない。



だって『ここなら、思い出せるかなって思って』って言ってたけど、俺何にも思い出せないし。



「ねぇ。海の向こうにある橋あるじゃない?あれ、見える?」



「………見えますが」



彼女が指差した先には確かに橋があった。でも、それがどうしたというのだろうか?



「あの橋、私達が出会った場所なのよ」



「……え?」



橋が俺達の出会いの場所……?どういうことだ?全然記憶にない。いや、橋には小さい頃行ったけど、そこで出会ったとか覚えてないし。



「覚えてなくてもいいわ。私にとっては大切な思い出だから」



「そ、そうなんですか……」



一体、そこで何があったというのだろうか?全く想像がつかない。話していたら思い出す……のかな?



「覚えてなくてもいいわ。勝手に話すわね」 



彼女はそう言って、話を始めた。



「私ね、小さい頃から海が好きだったの。だから、よく親に海に連れて行ってもらってたの。でも、ある日突然両親が離婚して……私は母親に引き取られることになったの」



「……」



俺は黙って彼女の話を聞いていた。彼女がどんな気持ちで話しているのか知りたかったから。



「母親との生活はとても幸せだったわ。でも、母親は仕事で忙しくて……あまり私と遊んでくれなかったの」



「……」



「寂しかったけど、それでも我慢した。でも、ある日母親が海に連れて行ってくれたの」



嬉しそうに話す三嶋さん。きっと、彼女にとってはすごく嬉しかったのだろう。

海に行くのが楽しみで仕方がなかったのかもしれない。

でも……どうしてだろう?この話を聞いていると胸が苦しくなる。

俺は彼女に何も言えず、ただ黙って彼女の話を聞いていた。

すると、三嶋さんは急に悲しそうな顔になった。そして、話を続けたのだ。



「でも、その海の橋に渡ったとき、母親に落とされたの」



「え……?」



落とされた……?え……母親に?それに……



「(あれ?この話どこかで……)」



俺は三嶋さんの話を聞いて、何かを思い出しかけていた。でも、それが何なのか分からない。そんな強烈なこと、忘れるはずがないのに……。



「どうして落とされたのかは今でも分からないわ。でも、そんなことどうでもいいの。私はただ、母親に愛してほしかっただけなの」



「……」



俺は何も言えなかった。彼女がどんな気持ちでこの話をしているのか分からなかったから。



「それから、私は海が嫌いになったの。だから、海を見ると苦しくなるのよ」



彼女はそう言いながら、俺を見つめた。その目はすごく悲しそうで……今にも泣き出しそうだった。

俺はなんて声をかければいいのだろう?何を言えばいいのだろう?分からない……



「そんなときにね?あなたが現れたの」



……ここで俺が登場するの?全く意味が分からない。

俺はただ、黙って彼女の話に耳を傾けることしかできなかった。

すると、彼女は俺の手を握ってきた。そして、優しく微笑みながらこう言ったのだ。



「あなたも一緒に海に溺れていたわ。恐らく……死のうとしていたのでしょうね」



俺は彼女の話が理解できず、困惑していた。でも、彼女は気にせず話を続けた。

彼女はすごく嬉しそうで……幸せそうだった。



「そりゃあ、そうよね……だって私、なんだもの」



「………は?」



彼女から凄く、意味わからないことを言われた。

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