23歳夏休み

@jinnai_85

23歳

 今まで何をしてきたのかわからない。芸術分野を学んできて、ほかの同級生よりも人生を謳歌してるとも思っていたし、一歩先に進んでいると思っていた。大学に進学した中学校の同級生を見下し、こいつらは夢も好きなものもないくせにSNSばっかやってんじゃねーと思っていた。ハタチを超えて、でっかい皿に一口ぶんしか乗ってない料理がでてくるような高いレストランに行ったり、友達と旅行して旅先でおしゃれな写真を撮ったり、バカか。自分はそうはならねー、自分にしかできないものを探してお前らの人生が間違っていることを思い知らせてやる。そう思いながら、23歳になった。最近まで働いていたバイト先を辞め、自称就職活動をしている。受からない。仕事がない。やばい。

 なんだか普通に人並みの生活をしてみたくなった。今までも思い返せば人並みの生活だったが、フリーターである。ということだけで、自分が自分の人生の主人公であることへの解像度が上がっていた。最近星野源にハマっていて、生活の大切さ、人間らしくいることの大切さを知った。見事に感化されて、人並みの生活を手に入れるため就職活動をしている。何者にもなれない、なれなかった自分はこれからどうしたらいいんだろう。毎日どこかしらの不安と、他人や世間に対する嫉妬と闘っている。人から、しっかりしているだの君なら大丈夫だの、無責任で甘い言葉に踊らされてここまでメンタルを保ってきた自分も殴りたいし、甘やかしてきた他人でさえぶん殴りたくなる。

 学生のころは明確な目標が見えていたから、頑張ることが簡単だった。道を正してくれる人だっていたし、ひとつの集団に所属することで、自分の存在を自分で俯瞰して認識できた。でも、社会に出ると同時に、捨てられた気分になった。今まで囲んでくれたものは無くなって、急に自分の足で歩けと言われても。普通に困る。社会に慣れるための修行を学校で積んできたんだろうけど、そもそも社会に属そうとする努力がなければその修行で学んだことを実行できる機会すら与えてくれない。自動的に社会人にステップアップできるわけではないのだ。昔から、確かに自分の人生に他人行儀だった気がする。運動会や卒業式、修学旅行などある程度個人単位での責任もつきまとう集団行動にたいしてなんの思い入れもなかった。これをやらないとやばいとか、みんなに迷惑がかかるとか、できないと恥ずかしいとか、そういう感覚がなかった。なんとなく自分はできると思い込んで過大評価していたわけでもなく、ただ単に、なんとも思っていなかった。それが顕著に出ていたのが習い事の、ジャズダンスだった。なんとなくやれと言われたことをやって、なんとなく覚えたふりをして、なんとなく発表会をやってのけた。いや、やってのけれていない。最後の演目で、さまざまな年齢の5〜6人が集まってチームを組みそれぞれがオリジナルの振り付けをして観客たちに挨拶するものがあった。もちろん自分はなんとなくダンスをしていたため、振り付けのアイデアを出すこともなくただひたすら、気まずいとも思わずボーッとしていた。そのうえ上級生が考えてくれた振り付けを覚えれず、適当に動いているだけの動画が神内家に残されていた気がする。それを見てもなお、うわ〜恥ずかしい。なんて思わなかった。ちょっと上級生むけの難しい振り付けだったため、最初から覚えることを諦めていたんだと思う。とりあえず時が経てば本番はくるし、練習もいつの間にか終わりがくるだろうし、と幼いながら時間の経過に期待するという皮肉にも大人な考えをしていた。心の底から、なにかをやり遂げることになんとも思っていなかったのである。

 今思えば小さい時からそうだったが、自分に自信がない気がする。ある程度のナルシストは身につけていたつもりだったが、自分のスキルや作り出したものに自信がない。だからこそ、評論して語ることで知識をひけらかした気分になって、満足できるのだと思う。人が作りだしたものは必ずと言っていいほど輝いて見える。ここまでだったら他人を尊敬できる優秀な人生を育ってきた人と映るが、私はここでは止まらない。人が作ったものが輝いて見えるその先に、粗探しをしてどうにか自分と同レベルかその下まで引きずり下ろそうとするのだ。自分が下であると理解しているが故の、自尊心を保つための術である。本当に捻くれている。全てをなんとなく目の前にあるからという理由でやり過ごしてきた自分が、優れている訳がない。本当に優れている人は、自分で目標を見つけ出し、自分で目の前まで持ってくるんだろう。でも、自称人生に大した思い入れを持っていないという自分は、なんとなくでしか生きれない。

 本当に、やる気のない人生を送っている気がする。しかし、他人や世間に嫉妬しているし、誰よりも目立つ人になりたいという願望もある。小、中では絵を描く子が周りに少なく、正直チヤホヤされていた。調子にのりにのって、高校から美術の学校に入り、そこで、自分よりも圧倒的に絵が上手い同い年の子が存在することを初めて知った。多分この時点で唯一の武器であった絵でどうにか成り上がることも諦めたんだと思う。そこでも、なんとなく目の前に出されたものをデッサンし、なんとなく出されたお題で絵を描いた。授業であるのに、完成させた作品は通常の生徒より半分も行かなかったと思う。やっているはずなのに、人より目に見える成果が少なかった。今でもそうだ。漫画をしっかりと完成させられたことがない。一度も。でも、漫画自体は小学生の頃から書き続けていた。おかしな話だ。完成を邪魔する自分の雑念の出どころをたどると、これじゃダメだという気持ちからだった。他人に見られる前提で作品を作っているのだ。漫画だったら、他人に面白くないと思われたくないし、むしろ期待の新星、超新星だ!と思われたいという気持ちが、完成を邪魔しているのだ。今現在これを描いている時も、完成を邪魔する雑念を払拭しようと書き始めたものなのに、既に脳の30パーセントがその雑念に侵され始めている。ダメだ、自分の素っ裸を露見させようと作りだした、たった一人自分のためだけのエッセイなのである。自分の内蔵をひっくりかえすような、純度が高い作品を作りたい。他人のみられ方を気にせず、自分が100パーセントのもの。自分の欲にだけ従ってなにかものを作りたい。

 中学生のころ、ペンタブを買ってもらってパソコンで絵を描くことができるようになった。ほぼ毎日書いていた。自分のクオリティを気にすることもなく、ただひたすらに書いていた。そしてSNSに載せて、ネットの仲間内で称賛しあっていた。その時は、人の目を気にしていなかったと思う。なんせネットでは最年少だったため、多少下手でも可愛がってくれるだろうという自信だけはあった。あの頃が一番絵を描くことを楽しんでいたかもしれない。自分の気の赴くままに描きたいものを書いて、満足できていた。今では、理由ありきで絵を描こうと思ってしまう。多分、昔より絵が好きじゃなくなってしまったのか、理由がないと書けなくなってしまったのか、わからない。

 全てにおいて他人任せ、人のせいな自分は年齢だけ立派な大人に育ってしまった。しかも、こんなに性格が捻くれていることに自分で気がついたのは、つい最近だ。気持ちの良いひねくれっぷりである。今まで、いい子だとか、しっかりしているだとか、優しい言葉で巧みに勘違いを促進させてくれた人たちよ、ありがとう。君たちは本当にいい人だ。23歳まで自分が捻くれていることに気が付けなかったのは、半分は君たちのせいだろう。殴らせてくれ。そして、私の汚い部分を指摘して長い時間をかけて教えてくれた数少ない無責任じゃない人たち、ありがとう。本当にうるさかった。図星をつかれるのが一番嫌いだ。もう自分の捻くれ加減は知れたから、殴らせてくれ。

 ここまで他人任せ、人のせいと散々自分を罵ってきたが、意外とそれを払拭しようとしていた時期がある。高校の部活で部長になったことだ。しかも、なんか立候補者全員でスピーチまでして勝ち上がって部長になった気がする。そんなガッツがどこにあったのか。今でもわからない。ライブハウスのブッキング、ミーティングの進行、部長会議などなど責任感のある仕事ばかりなのに、人任せ人のせい魔神の自分がなぜ部長になりたくなったのか。本当にわからないが、多分、人からしっかりしている、かっこいいとか思われたくてなったんだと思う。結局、他人目線の自分をさらに俯瞰で見ていた。超超超、他人行儀。今も、まるで他人かのように自分の過去を綴っている。自分に対して他人行儀なのは今も変わらないみたいだ。部長の仕事もなんとなくこなして(こなせていたかは不明)いた。リモコンで時を未来にだけ操作できる映画「もしも昨日が選べたら」で、時を早送りするとその間は自分が自動モードになるシーンがある。マジで、本当に自分の人生観と同じじゃないかと思った。誰かが操作してくれることを待っているのである。他人行儀人任せの概念を全て凝縮した脳みそをしている。特段人に期待しているわけではなく、自分のこれからの未来に勝手に期待しているのだ。この年齢で自分の人生に実感が湧かない点を踏まえると、もしかしたら輪廻転生して人間に生まれたのは1回目なのかもしれない。大きく世界を見てみると、まだ自分は赤ちゃんなのかもしれない。そう思うと元気出てきたし、今日は星野源のオールナイトニッポンの放送日だ。上機嫌な、邪悪なひねくれ者が今この時間に誕生した。どうやって生きていくか、どこをどう割り切るか、自分の内臓をどうひっくり返していくか、自分をうまく世間からどう切り離すか、考えながらラジオを堪能しようと思う。ひねくれは、なんとなく直らない気がするのでこのまま大事に育てようと思う。他人や世間への嫉妬を餌にして。

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