汚い愛

彼の言葉はまるでトゲのようにチクリと胸に痛みを与える。

でも、それは一時的な物。

きっと彼は気づいてくれる。

こんなにあなたの事を思っているのに、優しいあなたがいつまでもそっぽを向いているわけが無い。

まだ・・・そうだ私の頑張りが足りないんだ。

私は引きつった顔を無理に動かし、笑顔を作った。

「そんな他人行儀な言い方止めて。下の名前でいいよ。カンナで。これ、良かったら食べて。冷えちゃったけど、家も近いでしょ?すぐに帰って温めれば・・・」

「なんで、僕の家を知ってる?引っ越したばかりで、職場の人間にしか教えていないけど」私は胃がギュッと締まると共に背中に嫌な汗が出るのを感じ、俯きながら右手で首の後ろを強くこする。

「それは・・・」

どう答えよう。

焦るほどに頭が真っ白になる。

ああ、昔からそうだ。

予想しない展開になると、脳が固まってしまう。

まるで古いパソコンのOSのように。

「後を着けたのか?前の時みたいに」

それは違う。

興信所を使って調べたのだ。だってあなたが内緒で居なくなってしまうから。

愛する人の近くに居たい。それのどこが悪い。

あなたの家を調べてあなたに迷惑をかけたの?

あなたが勝手に嫌がってるだけじゃ無い。

そう思ったが、言葉に出来なかった。

(あなたを愛してるの。あなたのためなら何でも出来る。お願い。私を抱きしめて)

こんな言葉もきっと、私がもっと可愛かったら言えていた。

私はきっとストーカーだと思われている。

でも・・・もし私が可愛かったら違ってた。

情熱的で可哀想なヒロインになれていた。

くそ、くそ。

顔が可愛くないだけでなんで、愛までも汚く見られるんだろう。

顔が可愛かったら。

そう、アイツのように。

その時、彼の後ろから声が聞こえた。

なんてタイミング。神様は本当にいるんだ。

だから、蹴りつけてやりたいくらいに腹の立つタイミングを用意するんだろう・・・

彼は私に向けていたのが嘘のようにホッとした顔になって振り向いた。

離れたところから小走りでやってくるアイツ。

彼の愛を一心に受けているであろう、吐き気のするほど苛つくあの女。

「お兄ちゃん!」

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