お前に刺されて死ぬなら悔いはない
淡雪みさ
プロローグ
「貴方、面白い未来を背負っているのね」
老婆が少年に向かって告げる。
化け物である少年の足元には大量の虫の死骸があった。まだ幼い彼が奪った小さな命たちだ。しかし老婆はそれには見向きもせず、興味深そうに一人頷きながら、ぽつりとある予言を口にする。
「――――わたくしと同じ異能を持つ女の子が視える」
老婆は薄紫色の目を細めて少年を見つめる。少年も黙って老婆を見つめ返した。
老婆は続けていくつかの運命の予言を少年に伝えたが、少年は聞いているのかいないのか、無表情のままだった。少年には感情というものがない。何を言われても心が揺れない。ただ一つ、老婆の目にだけはわずかに惹かれるものがあり、彼女の言う事をじっと聞いていた。
少年の元を去った後、老婆は研究所の他の子どもたちから孤立している少年のことを窓越しに眺める。
「確実に敵に回る人間が一人、回らない人間が二人。他はわたくしにも分からない。果たして何人が正気を保てず、何人が化け物と化して、何人が〝彼女〟の敵に回り、彼女がいかにそれを食い止められるか。不安定で不確かな運命ね」
できることなら、あの少年の未来に手を貸してやりたかったが。――老婆にはもうそのための時間も余力も能力も、残されていない。
老婆はその翌週寿命で息を引き取り、世界中から追悼された。
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