巨大赤ちゃんへの殲滅戦

ちびまるフォイ

怪獣として認定される水準

『市民のみなさん! ただちに避難してください!!

 赤ちゃんが! 赤ちゃんがやってきます!!』


Aあかちゃんアラートが街に鳴り響く。

人々は家から荷物を持って外に避難していく。


空を見上げると、ビルよりも高いところに赤ちゃんのでかい顔があった。


「ばぶぅ」


巨大な赤ちゃんは悪気なくビルや電波塔を破壊して回っている。

無邪気に逃げまどう人々を手のひらで叩き潰してはキャッキャと愛らしい笑顔を振りまいていた。


破壊と暴虐のかぎりを尽くす天使に対し、

軍隊は物騒な兵器を道路にならべて迎撃体制を整えた。


「いいかお前ら! 我々のきびしい訓練は国民を守るため!

 そして今! その時がきたのだ!!」


「さーーいえっさーー!」


「目標とらえろ!! 照準、赤ちゃん!!!」


戦車の放題が巨大赤ちゃんの眉間へと向けられる。

戦闘機が赤ちゃんの頭上を飛び始め、GOサイン一つでミサイルをぶっ放すだろう。


「カウント!! 3、2、1ーー」



指がトリガーにかかった瞬間。



「やめて!! なんてことするの!!」


戦車の前に市民が立ちふさがった。


「どいてください! 危ないです!」


「あなたたち、何をしているかわかってるの!?

 あそこにいるのは大きな赤ちゃんなのよ!!」


「わかってますよ!」


「いいえわかってないわ!!

 あなた達野蛮な軍隊はこれから赤ちゃんを

 蜂の巣にしようとしているのよ!? それでも人間!?」


「いえ、しかし! このままでは街が……」


「あなた達は子供を産んだり育てたことがないから、

 こんなひどいことができるのよ! 人でなし!」


「こうしている間にも、あのバカでかい怪獣に

 小さな子どもや赤ちゃんも殺されてるんですよ!?」


「今、そんな話はしてない!!

 赤ちゃんを撃つつもりなのかって聞いてるのよ!!」


「ええ……?」


さっきまで威厳たっぷりだった隊長はシュンと小さくなってしまった。


「あなただって子供や赤ちゃんだったときはあるでしょう!?

 そのとき、大人に守られて大きくなったじゃない!

 赤ちゃんは大人が守ってあげなきゃダメなのよ!!」


「いやあれ怪獣……」


「怪獣って言わないで!! 赤ちゃんよ!! どう見てもそうじゃない!!」


よだれかけとおむつをはき、誰がどう見ても疑いようもなく赤ちゃんの姿をしていた。

その赤ちゃんは今楽しそうにもぎ取った電波塔をしゃぶっている。


「あれを見て! どう見ても赤ちゃんでしょう!

 あんなかわいい子を攻撃しようとしてるのよ! 野蛮人!!」


「国民を守るのが我々の義務です!」


「赤ちゃんを守るのが大人の義務よ!!!」


「このままじゃこの街はすべて破壊されちゃいますよ!」


「だからって赤ちゃんを撃っていい理由にならないわ!」


赤ちゃんを守り隊の人たちはプラカードを掲げてブーイングを続ける。

そうこうしている間にも、巨大な赤ちゃんは原子力発電所へと向かい始める。


「ま、まずい! あれを壊されたらこの地域一帯は生物が住めなくなるぞ!!」


「ちょっと! 何をするつもり!? 攻撃なんてさせないわ!!」


隊長が命令を下そうとしたとき、市民がその連絡機器を奪ってしまった。

けれど、その前後を無線で受け取っていた戦闘機パイロットは事態を把握した。



『隊長、任務了解した。これより攻撃を開始する』



「キャーー!! やめて!! 相手は赤ちゃんなのよ!!!」


悲痛な叫びも虚しく戦闘機から、強烈なミサイル攻撃が放たれた。


「びゃあああ~~ん!!」


巨大な赤ちゃんは四方八方からくるミサイルに耐えられず横倒し。

なおも戦闘機はその上から機銃掃射とミサイルを浴びせ続ける。


「やめてーー!! なんて酷いことをするの!!!」


「これも市民のためなんです!!」


「人のせいにしないで!! あなた達は人の心をなくした殺戮兵器よ!!」


雨のようなミサイル攻撃の煙でもう赤ちゃんの姿は見えなくなった。

赤ちゃんを守り隊の人たちはがっくりとうなだれた。


「ひどすぎる……ひどすぎるわ……」


「これ以上被害を出すわけにいかないんです。

 見た目がどんなに可愛らしくても、あれは人類の脅威なんですよ」


「あの無邪気な顔をちゃんと見たの!?

 赤ちゃんは何も悪くない! ただそこを歩いていただけなのよ!?」


「人里にクマが降りてきたら、安全のために駆除するでしょう!」


「クマと人間を一緒にしないで!!

 そんなだから赤ちゃんに対しても兵器で攻撃できるのよ!!」


隊長に食ってかかる市民と、任務のためだと一点張りの隊長。

平行線のまま続く言い合いだったがその部下が水を差した。


「た、隊長!! あ、あれを見てください!!」


「な……なんだあれは……!?」


苛烈なミサイル攻撃で赤ちゃんは死んだと思われていた。

しかし、土煙の向こう側ではさらに巨大なシルエットが浮かび上がる。


「ああ生きていたんだわ! よかった!」


「よかないですよ!!」


強烈な攻撃にさらされた結果、赤ちゃんは自分の身の危険を感じた。

それが急速な成長促進の引き金となる。


それまでよちよち歩きの四足歩行だったはずが二足歩行へと進化。


すわっていなかった首もしっかり固定され、

骨格もめきめきと大人のシルエットを形作ってゆく。


腕や足も太くなり、これまで以上に破壊に特化した大人の体つきへと進化した。


赤ちゃんはゆっくりと体を起こした。



「よっっっこい……しょっ、と。……ふう。こ゛あ゛っ、ぺっ」



急速成長した愛らしい赤ちゃんはおじさんになり、タンを足元に吐き捨てた。


それを赤ちゃん守り隊と軍隊は冷めた目で見ていた。



「撃っていいです?」



隊長の問いかけに守りたいのリーダーは冷たく答えた。



「跡形もなく消してください。あの汚物」



やがて怪獣は骨すら残らないほどメッタ撃ちされた。

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