第42話 そんなあなたじゃない

隠れ家を訪ねた。何も持たずに。ただそこにいると信じて。

鍵は、かかっていない。

「コクヨウ……?ごめんね?恋人同士だと思ったから、先走ちゃった、これも言い訳で腹が立つよね……」

コクヨウは魔に包まれていた。黒いモヤが、コクヨウを中心に回っている。

「台風の目、いや銀河か、美しい……」

「コクヨウにとって、それが、美しいなら」

そうだね。立ち上がる。首筋に噛みつかれた。痛くはない。次に服の上から胸を触られる。

「ねえ、触りたいの?」

返事がない。やがて、黒い息を含んだ唇を私の唇へ押し付けようとした時。

バチイイ!!

「乙女よ、なんでも許すな。この者実に稚拙な嫉妬で苦しんでおる。解いてやれるのか?」

片手を上げ、雷を身に纏わせた臙脂。

「他でも魔が発生してな。エルフの代わりに来たぞ

、花嫁は欲しかったが、ミケ。恋人を救えそうか?」


「愛をその器に注げばいいんだわ」


「ほう、何が始まるやら」


まるで吸血鬼のように陽の光に隠れるコクヨウは、奥の日当たりの悪い硬いベッドまで行き、うずくまっている。


「コクヨウ、好きよ。愛してる。なぜこんな気持ちになるのかわからない。でも、あなたが好き。優しく抱きしめてくれるから。ほんとうは、なにをされてもいいの。でも、あなた、まだ知らないから。わからないから。ごめんね、わたしだけ、隠してたこと、全部曝け出させて」

ワンピースのボタンを外し、スカートの裾から太ももを露わにし、胸元からは下着が見える。

すると、黒い霧を口から出したくぐもった声を出していた少年の声が、あの日ハーブ園であった時の、いつもの繊細な声に戻る。

泣きながら。

「俺のミケはこんなんじゃない。俺が、俺がリードすべきだったんだ。この呪はもう、解けない!一生を魔と一人で戦って、負けたら、みんなの愛が滅ぶ。世界が綻ぶッ!」

「だったら、あなたの呪、私も負うわ。あなたの呪いが私の命。二人で生きましょう」


それから先は、一人の呪を二人でわける、という世にも珍しい儀式をしようと提案した。氷の刃のような痛みが胸へと流れてくるだろう。


かならず、救ってみせる。世界も、恋人も、自分も。


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あなたの呪いがわたしの命 明鏡止水 @miuraharuma30

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