第32話 対話と決意

目を腫らしたメアリーと、美しい髪色の美丈夫ダン。

「まあ、二人とも大きくなりましたね」トキ様が感激している。

が、メアリーが

「ぐすっ!トキさまあ!!」

あらあら、とトキ様がメアリーを慰める。

「私、コクヨウ様が好きなんです。読書する姿や、馬を大切に思うところとか、発作に耐える健気なお姿とか!」

あらあらまあまあ。

「メアリー、ごめんなさい、呪が解けるまでコクヨウは諦めて。この世界の呪さえ解ければあとは自由なのだから。占術の相手と相性がいいのは本当だけれど」

そこでさらに声を大きくして泣くメアリー。

「占術なんて知りません!わたし、コクヨウ様を諦めないから!」

後ろに控えたダンは寂しさを長いまつげに乗せて、陽の光は悲しみの瞳にその影を落とす。


今日は、村や町を冒険しようと思いましたが、どうです?メアリー?私も籠城の術なら使えるようになりましたけど、と。いざとなれば自身を空間に隔離して手も足もだせない状態にできる、自衛の魔法らしい。


「こんな気持ちで行けません〜っ!」


残念なことである。

「ダンは行きなさいよね!私にかまっていないで!」

「メアリーがそう望むなら行くよ」

気を落とした声で返答する。


トキ様は「なんだか二人とも辛そう」

と、おでかけを迷うほどだ。


お城の方ではクロキが息子のコクヨウと、密談していた。

「どんな感じだった」

「とにかく体が熱くて、女の子というもの、女性というものはかくもか弱き存在か、と腕の中で感じました!」

「それで、なんというか、下半身が反応するとか、ぶっちゃけ脱がしてしまいたいとか、激しい感情はあったか?」

「……父上と母上、毎夜、どんなことをしてるんです?」

「お前が女の抱き方や快楽の糸口を知らないのはいいことだ!俺は老人たちに無理矢理元王族だからと教育を、受けたからな!あれは、許せん!かといって、初めてがトキだとうまく、りーど、できなかったし」

「父上?」

「いや、その、良いと思う。今の時代結婚や経験を焦ることはない。多分。それにいざとなったらあのミケという娘に教育をシノブにしてもらって……。初夜はお前も頑張るんだぞ?あ、いや、力は抜いた方がいいな。まあ、まずは気持ちからだ。俺たち夫婦も気持ちをゆっくり、いや、体の疼きが先だったが、まあ、慣らしていったからな」

「はい!父上!」

……純粋すぎる。純情でもある。昔から可哀想な種族や妖精、人々を城に招いて一緒にもてなしていたからか。実にいい子に育ったが。

十六という年齢の割に。

クロキはといえば、あてがわれた女性に何度も快楽をぶつけ、時に自分の肉体の醜さに不貞腐れ、それでも老人たちの気まぐれの指令に、いつでも子宝に恵まれるように子作りの予行練習をさせられていた。幸いにも時期を選んだ女性を相手にしたので妊娠したものはいない。クロキが一緒に子を成せたのはトキとだけだか。

トキと初めて同士だったなら。まあ、トキは何も知らぬ乙女で魅力的で、隠しておきたくなる存在だったし、反対に皆に見せつけたい可憐さだった。

トキの思いが知りたい。

「まあ、お前たちの場合、キスだけでも呪は解ける可能性があるそうだ」

「簡単そうですね」

「女の隙を見てふいに、なんてのはやはり心が通ってからだ」

「はい、父上!」

この息子にも、いつか女性に欲情する時が来るのか。にわかには信じがたい。

「ところで、聞いたぞ、デュラハンのことで悩んでいたのをなぜ言わなかった」

「夢だと思っていたんです」

「神獣によれば馬の盗人、デュラハン、森での神隠しと、お前の魔王としての素質。これはもう、世界を渡っている場合じゃない。ここにまたとうとう腰を据える時が来たのかもな」

「父上、俺、すぐにでも呪を取り除き、魔の声も払いのけて見せます」

頼り甲斐があるな、と頭を撫でる。

しかし、無理はさせていないだろうか。

現に怖くて黒い森の門の先の地域へは行けないらしい。 

「城から出たくないか?」

「子供の頃に出られたのだからもう悔いはありません」

「あのミケという少女が呪が解けた後、今後一生会えなくてもか」

表情を失くす。

考えてもいなかったのか。

「もちろん、呪さえ、取り除けば、いまは最愛より別の人生が歩めるのですから」


時代も、呪なんて、あたらしいシステムも変わっていて混乱する。しかし。


「そうか、互いに幸せな道があるといいな」


まだまだ、愛情をその身に溢れさせたものは少ない。子供が一番無邪気で愛らしいと気付いたのは自分たちの子育てと、出会ってきた不安な子供達の元気になる姿、占術で良い縁で選ばれた家に生まれた子たちの特徴を見てから。

それでも、各々に立ち向かう運命がある。


自分の息子は愛を知っているだろうか?

気づいているだろうか?

魔王になんて、そんな悲しい恐ろしいモノになんてさせない。

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