第12話 父と母

コクヨウ様はこの世のものであって、この世で発生したものではない。そのことがより強く呪に反応して命を取ろうとまでしてくる。

しかも、クロキ様もトキ様も、ここが元の世界かわからないという始末。それぞれの自分たちを見てきたが、存在しない世界もいた。しかし出産したこの世界こそ、コクヨウ様がいちばん、揺らぐことなく存在できる場所。それが神獣様の教え。


「それと、私が、その、コクヨウ様と愛することのなんの関係があるのですか?」

「デュラハン」

ミケが背筋を寒くする。いままで何度も恐ろしいと思った、コーラルの片腕を失わせた、人々を傷つけ、あまりの衝撃に自分の母が亡くなってしまう原因となった、あの怪物、妖精。

コクヨウ様は、ご自身を否定したり、偽ったり、心労を感じると、魔を呼び寄せます。

「待ってください。デュラハンから馬を盗んだのは……」

「魔物との、魔界への隔たりをゆるくし、交流を持ってしまった、コクヨウ様の罪です。仕組みは分かりませんがコクヨウ様がうなされていました」

「それでは私にとっては母の仇です。どうしてそれを愛せましょうか」

シノブは黙った。

「お母上のことを覚えていますか?」

「赤ん坊の時に死んだのにわかるわけないではないですか」

「では、お父上はお母上のことをなんと?」

「父は、父は……、ッ、そんなあんな結婚の話を聞いて、自分が愛されているかもわからないのに!父が母の話をしたことはない!ぜんぶ、村人達から……」

「日付が変わりましたね。寝ましょう」

なぜかこの部屋の扉は無い。廊下の明かりが消えてゆく。まるで魔法のように。

「ちょっと前までガス漏れも怖がらずにガス灯を使っていましたが、いまは違うのです」

どうやら眠りについたらしい、とシノブが呟く。

ミケはまだ起きている。

「わたしの『特別な人』は、あの人なの?」

暗闇の中、慣れた足取りで、入り口へと向かうシノブ。月明かりは頼りないのに。

「あなたも、化け物なの?」

シノブは振り返って、微笑む。

「人間ですよ。ミケさん、特別にもいろいろあります。愛して欲しい、なんて、悪かったですね」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る