/// 30.婚約の儀

「やっと明日、婚約までこぎつけた・・・だがこの招待者リストになぜオオカワの名前がある・・・」

「どうやら、生きていた・・・というのは本当の様で、さらに言うとSランク冒険者となっているようだわ・・・」


城の特別室で怒りをあらわにするのは勇者ライディアンと、今や宮廷魔術師として確固たる地位を築いた元勇者パーティの大魔導士・カイザードであった。


「Sランク・・・だと?」

「ええ、その際にもひと悶着あって、アレンは失脚・・・盗賊ギルドやアウター組織も今や私たちの依頼は断っている・・・」

「皇太子派かと思っていたが・・・アイツの復讐とでもいうのか!」

「その可能性も高くなってきましたわね」


その招待者リストは、急遽、エルザード・ウィルキンソン国王陛下がタケルたちを追加した最新のものであった。Sランク冒険者となり、それがなんと死んだとされていた英雄オオカワタケルというのだから、美談になるだろうとの措置であった。


「なら、取り込むしかあるまい・・・こんなことで躓いてられるか!」

「ええ。ですが同じくSランクとなったサフィという魔導士、そして同じ転生者と思われる5名。全員女性、いずれもAランク冒険者となっています。同じパーティとして出席するということなので、金も女も効果はなさそうですが・・・」

「後は地位・・・か、サフィという女は魔導士か・・・」


ライディアンはちらりとカイザードを見る。


「あ、あんたまさか私を裏切るつもり!宮廷魔術師の地位を奪おうっていうなら・・・全部ぶちまけてやる!」

「そんな睨むな!俺は王になる。そうしたら同じような立場を作ることだって可能だ!お前に苦労はさせん!だがそれも俺が王になれないのであれば保証はできん!わかるだろ!」


カイザードとしても、ライディアンの妾という立場なのは近い関係者であれば周知の事実。その関係を無いものにされるわけにはいかない。ここで裏切られれば何のために今まで手を尽くしたのか分からなくなる。


「ともかく!アイツ等をなんとか取り込まねえかぎり俺も、おまえも、終わりなんだよ!」

「分かってるわ!時間はないけど考えましょう。そしてあちこち根回しもしなくちゃね。絶対にボロは出さないようにしなくちゃ・・・」


そして当日の朝を迎えるまで、二人は奔走することになる。

結局それはなんの解決にもならず徒労となたっため、寝不足の頭の中「二人でなんとかその場だけでも取り繕って仲間に引き込もう!」という結論となった。完全にノープランである。


◆◇◆◇◆


『婚約の儀』当日の朝、タケルは眠い目をこすり体を起こす。

当然【耐性-睡眠】を持っているタケルに眠気はない。雰囲気の問題である。


周りを見れば、計6名の女たちが誰彼なしに抱き合って眠っていた。全裸で。


昨夜は一抹の不安を投げ捨てるよう、ハッスルしてしまったタケルたち。気づけば【超回復】を使いまくって愛し合った。その結果、タケルのレベルは3つ上がっていた。びっくり仰天、摩訶不思議な珍事件である。


そして朝食時には皆、着替えを済ませすでに用意されている朝食にかぶりついた。


『勇者ライディアンと第二皇女、エルザード・ベリエットの婚約の儀』


やはり気乗りがしないのだが、王命とあらば従わなけれは折角拠点を築いたのに他国へ亡命ということにもなりかねない。波風立てずにやり過ごそうとタケルは考えていたのだが、はたしてどうなることやらと皆が思っていた。


「よし。いこうか」


重い腰を上げて、本日限りで解放されている混雑した王城前の広いスペースに、国から手配された豪華な馬車で通り抜けた。

婚約の儀が終われば、この広場から見える王城のテラスから、勇者と姫のお姿が見えるという寸法であろう。

以前の王陛下がお乗りになっていた馬車と同じように、認識阻害により外から中は見えないであろうが、沿道からはやんごとなき方々が乗っているという思いもあったのだろう。各々が手を振ったり拝んだりしていたのが見えた。

そしてその馬車は王城の中へと吸い込まれていった。


馬車を降りると複数の煌びやかな鎧に包まれた大国騎士がお出迎えをしてくれて、控室となる一室へと案内された。「始まりましたら呼びにまいります」と丁寧にメイドさんから告げられ、時間まで用意されていたデザート類をつまみながら時間をつぶしていた。


暫くすると、部屋をノックされる音が響き先ほどのメイドさんが「お時間です」と会場まで案内してくれたので、後ろについて皆で歩き出した。そして会場となる広い講堂には、すでに貴族階級と思われる豪華な衣装を見に纏った招待客が集まっていた。

タケルたちがその会場に足を踏み入れると『Sランク冒険者、オオカワタケル様、サフィ様、他、パーティメンバー様がご入場されます』とのアナウンスがあり、その声にこちらを見る面々、そして歓声が上がり拍手で向かい入れられた。

かなり恥ずかしい。と注目されることで少し緊張してしまうタケルは、案内された席で少しだけワインを頂き緊張をほぐしていった。ちなみにこの世界では飲酒に年齢制限はないのでたまに酒類は頂いていた。嗜む程度ではあるが。


その後、本日の主役となる勇者ライディアンと第二皇女、エルザード・ベリエットが並んで登場し、歓声と拍手に埋め尽くされた。その後ろを現国王陛下、エルザード・ウィルキンソンと王妃、エルザード・スピネイルが続くとさらにボルテージは上がっていく。


『我が国の英雄、勇者ライディアン様と、第二皇女、エルザード・ベリエット様の婚約の儀を開催いたします』


アナウンスにより始まった式典。地球のように長々とした挨拶ははじまらず、まずはお寛ぎをという言葉と共に運ばれてきた食事を始めるのだが、ほどんどの参加者はあちこちと移動しながら交流を深めていた。

タケルたちもおいしい食事をつまんでいたのだが、次々となんたら家のだれそれです。娘がうんらたでーと、明らかにSランク冒険者と繋がりを持とうとするあからさまな挨拶が続いていた。

しばらくそんな時間が続いてうんざりしていたが、執事のような恰好をしたまあおそらく執事さんなのだろうが、タケルにライディアンのところへ行って、交流を深めてほしいというプランが告げられた。国王陛下直々の要望らしい。


タケルはやんわりと「あまり良い結果にはならないと思いますよ?」とは伝えてみたが、どうやら火竜退治の蘇った英雄との感動の再開を演じたいということらしい。実にバカらしい。とりあえずは決定事項なのでタケルとサフィさんは勇者の元へと案内された。


「サフィさん・・・そんなニタニタしてるけど何も考えてないよね?」

「おう!」


タケルは不安がいっぱいであった。


勇者ライディアン、第二皇女・エルザード・ベリエット様、国王陛下、王妃様のいらっしゃる中に連れられた二人。タケルはなんとか無難にやり過ごそうと考えていた。勇者のそばには、宮廷魔術師となったカイザードもいた。


「よくぞ舞い戻ってこられた。英雄オオカワ殿!」


魔法か何か分からないが大きく響く陛下の声が会場全体に響いていく。


「ひ、ひさしぶりであるな、タ、タケル殿・・・」


引きつりながら発したライディアンだが、こちらも大きな声が響く。どうやらこの場にはマイクのような魔道具があるらしい。よっぽどこの茶番を皆に見せつけたいらしい。サフィさんはニヤニヤが止まらないので嫌な予感しかしない。


「お、お久しぶりですね」


大きく響く自分の声に恥ずかしさがマックスのタケル。そしてそのタケルに「本当に、お久しぶりで」と再会を喜ぶような表情でカイザードが抱き着いてきた。適度な膨らみを押し付けられ、そのまま耳元で語り掛けるカイザード。


「しかるべき地位を用意します・・・褒美も望みのままに・・・ですので今までの件は水に流してくださいませんか?」


まあそういう事ですよね?とタケルはため息を吐く。


「まあ、もともと何もする気はないですから・・・だからなるべくこの茶番は早く終わらせてください。僕のパートナーはちょっとやらかしそうで不安なんですよ・・・」

「わ、わかりました・・・」


そしてカイザードはタケルから体を離し、名残惜しそうに元の場所へと戻ってきた。役者だな。とタケルは思っていた。そしてギリギリと音が聞こえそうなほど歯を食いしばっているライディアンの顔を見てどうしたものかと苦笑いしていた。

その後、早く終わらせたい元勇者パーティの面々の思惑とは裏腹に、国王陛下や王妃様、皇女様の話が延々と続いていた。勇者から聞いていた冒険譚を延々と・・・そして火竜討伐とタケルの死が話される。


「なんか俺の知ってる話と違うんだよなー」


魔法によって大きく響いたそのサフィの一言で、会場全体が沈黙した。ライディアンとカイザードはこちらを睨みつけていた。


「サフィさん!疲れてるんだよ。今日はもうお暇しようか?」

「なんだよタケル!」

「私も話が聞きたいですわ!」


なんでそこを食いつくの?皇女様・・・と冷や汗が止まらないタケル。そして陛下も王妃様も「そうだのう」「そうですわ」と聞く気満々である。


「こいつらは火竜退治なんてやってないぞ?」

「おい!」

「何を言う!」

「なんですって!」


素早く突っ込んだタケルと反論する勇者と魔導士。「サフィさんもうやめよっか」だめだ最高潮にニヤニヤしてる・・・「ほんとにこれはダメな奴だよ?」と抱きしめて宥めておく。そこに追撃がかかってしまう。皇女様である・・・


「詳しく聞かせてくださいませんか?」


勇者と魔導士がそれを止めようとこちらへ近づいてきたが、皇女様は右手を横にあげてそれを止めていた。もう二人の顔は真っ赤になってこちらへ飛び掛かろうという顔に見えた。さすがに皇女様のお手をどけて行くことはないのだが・・・


「こいつらパーティがあまりしつこくちょっかいを掛けてくるから倒されたふりをしてたらよ、タケルを火口に投げ込んで喜んでやがったよ。他のメンバー全員でな!」


なに訳が分からないことを言っているんだ!といった視線がサフィさんに集中する。当然だよね。言動が火竜目線なのでいまいちよく分からない発言に聞こえるのだろう。


「もっと詳しく教えてください!」

「姫!もう良いではないでしょうか!この魔導士様は何か勘違いをされているようです!」

「だって俺がその火竜だからよ!」


満面の笑みを浮かべ、立てた親指を自分に向けならが言い切ったサフィさん。しばし静寂が続く・・・


「冗談が過ぎますぞ、サフィ殿」

「そ、そうです。さすがにその冗談はいただけませんわ!」

「そ、そうですよね!さあ、サフィさん帰りましょう。今日はもうお肉いっぱい焼きますから・・・」


勇者と魔導士がじりじり詰め寄ってくる中、サフィさんを何とか帰そうと抱き寄せているタケルなのだが・・・クッ全然動かない・・・軽く【人体操作】で力を奪おうとやってみたが【竜鱗の障壁】をうっすら纏うという、タケルの知らない秘密兵器によりその行動は無駄に終わる。


「あなたが・・・その火竜さんだと?」

「ああ!俺がその・・・火竜だ!!!」

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