/// 29.王都中央冒険者ギルト長

あれから数日、タケルたちはどこへ行くにも声を掛けられるようになっていた。特にタケルに対しては神様、天使様と拝む人まで出没した。その度にサフィさんは笑っていたが他の女性陣は「うんうん」と頷き「わかりみが深い」などと口走っていた。

そして今日は冒険者ギルドへと呼ばれていたため、6人連れだってやってきた。なんでも新しいギルド長が来るという事なので、挨拶を済ませておきたいとのこと。「エルフィンさんがギルド長になるんじゃないですか?」と尋ねると「いやいや私なんかじゃ」と恐縮していた。


そしてタケルがギルドの扉を開け、中へ入ると「待ってたぜタケル様~!」という声と共に、見知った顔が見えた後、その豊満な膨らみに顔をはさまれることとなった。


「カ、カルドニーさん」


そのまま埋もれいたい衝動を振り切って体を離したタケルは、その胸の主を懐かしそうに見ていた。「覚えててくれたんだな!嬉しいよ!」と言いながらタケルの体を撫でまわすカルドニーがどうやら新しいギルド長になるようだ。


「せ、先輩!ずるいですよ!私だって我慢してたのに!」

「お、なんだ?ここでも女たらし込んでたのか。相変わらずやるな!って知らない女が増えてるが、全部お前の女か?」

「え、ええまあ・・・」


後ろでその様子を見ていた女性陣は「やっとメスが増えそうだな!」と喜んでるサフィさんと一緒にこちらの様子を窺っていた。


「こちら、マウントという町でギルド長をしていたカルドニーさん。ここのギルド長になる、ってことでいいんだよね?」

「ああ。俺はカルドニー。よろしく!」


その後、各自紹介をということで裏のギルド長室にお呼ばれしたが、かなりの広さがあった。アレンがギルド長に就任する際に大規模な改装工事が行われ、広く拡充されたということだった。

ゴテゴテとした趣味の悪い置物は「今日中に全部処分だな」とカルドニーが言っていたが、タケルも「わかる」と同意していたので他の職員にとっても似たような感想になるであろう。


なんでもカルドニーさんは、元Aランク冒険者で元々この中央冒険者ギルドのギルド長を打診されていたが、面倒くさいと断っていたという。

そして元勇者パーティのアレンがギルド長に就任してからは、その打診もなくなってはいたのだが、今回のことで再び打診が舞い込み、しかもタケルたちがSランクに昇格したという話を聞いて、二つ返事でマウントのギルドを後輩に任せてやってきたという。


「いやーびっくりしたぜ!やっぱスゲーよなタケル様!」

「あの、前と違って緊張はしてないようだけど、そのタケル様ってのやめない?なんかこう、ぞわぞわってするかな?」

「そうか?じゃあタケルくんってことで。で、どこへ行けばタケルくんの愛人になれるんだ?」

「いやいやそんな話はどこにもないよ!」


「またまた~」と肘で小突いてくるカルドニーのシルバーのアシンメトリな煌めく髪と豊満な膨らみをみて「それも良いかも」なんて思ったタケル。それを止めようと顔を赤くしてタケルにも体を擦り付けてくるエルフィンを見ながら、最後の一歩でとどまったようだ。

その様子を見てサフィさんは「また群れの拡張に失敗した」と残念がっていた。他の女性陣はどちらでも良さそうな様子でため息を吐いていた。

「いつでも誘ってくれ!」というカルドニーさんの言葉を最後にその部屋を出る。いずれはその「いつ」が来るのであろうが、まだその時ではない。そう思うタケルであったが、その考えはサフィさんに筒抜けの様でニヤニヤが止まらないといった様子であった。


カウンター付近で新たに雇われたローニャイドとマリニャージュという猫獣人の女性職員を紹介され、「万全のサポートを提供しますのでどんどん素材、お願いします!」と三人で頭を下げられた。

肉付きと毛並みの良い新人職員二人は、タケルを見つめる目が羨望のまなざしをしていたこともあり、サフィさんがまたもニヤニヤしていたが、タケルは見なかったことにしてギルドを後にする。今日はひさしぶりの全員集合でダンジョンに潜る予定だったので、そのまま121階層から潜っていった。



◆◇◆◇◆


ダンジョン121階層で、サフィさんは後衛の佳苗と加奈を守るように待機し、タケルは後ろで見守っていた。


佳苗が自前で錬成していた脚力アップの札を取り出し、前衛の三人に付与していく。【促進】効果で強化され機動力を上げた三人は魔物の群れに向かって行き、たまに告げられる加奈の【先読み】から得られる情報をもとにした指示が飛び、それぞれが攻撃を変化させていく。

加奈の【天罰】による攻撃や悠衣子の【雷】によるけん制によりパニックに陥る目の前の『ウィーターウルフ』という魔物の群れは、康代の【乱打】や悠衣子の【一閃】、そして真理の【弱点看破】からの一撃により、次々と狩り倒されていく。

まったく危なげのない連携に大丈夫と判断した一行は、次々と先へと進んでいった。


当初は危険な攻撃が迫ればサフィさんが【竜鱗の障壁】で障壁を張ることもできるし、即死以外であればタケルが回復することも可能だったが、全く心配のいらない状況であった。

昼前に出発した一行は、結局夕刻までに141階層まで到達し、ポータルから無事ギルドに戻っていった。その日は出番のなかったタケルとサフィさんは、夕食後の運動でともに汗を流すことになるだろう。

戻る前にちゃんと冒険者ギルドの倉庫に戦利品を吐き出して、ホクホクとその様子を見つめるカルドニーとエルフィンを見て、まったりとした冒険者生活がやっと送れそうだ。と安堵しているタケルは、その夜、予想通りかなりハッスルすることになる。


そして次の日の朝、スッキリとした面々を迎えていたのは、国からの一通の招待状に驚くことになる。


『勇者ライディアンと第二皇女、エルザード・ベリエットの婚約の儀』


ここからさらなるトラブルが舞い込むことになるのだが、ここにいる面々はうっすらと「またなんかあるんだろうなー」という思いに至るのは必然であった。


「これ、お断りしたらダメ?」

「いやダメでしょ・・・」


タケルの提案は真理の一言で断念となった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る