/// 15.私のターン!!!

私は並木佳苗(なみきかなえ)。

この異世界へクラスメートと一緒に召喚された転移者とでも言うべき存在。


国の発展ために。そんな思いで召喚されたクラスメートたちは、一定期間の国の庇護の後、それぞれが適性のあるであろう職を紹介されていった。

召喚された初日、幼馴染の猛流(たける)くんは勇者ライディアン率いる勇者パーティ『遥かな頂き』へ引き抜かれた。

私も錬金術師としてパーティに参加しようとお願いしたけど断られてしまった。


小さいころは夢は猛流(たける)くんのお嫁さんと言っていたのに、年を重ねるごとに、なにか壁が作られ少しずつ疎遠になっていた。

でも私の思いは変わらなかった。たとえ猛流(たける)くんが私を避けるようになっていっても、思いは一緒だと確信しているから。

異世界転移なんて非常識なことが起こった。これは逆にチャンスなんだ!本来あるべき道に戻るためのチャンス!


だから勇気をだして、出発前の時間に久しぶりの猛流(たける)くんとの会話に胸を弾ませた。あまり長くは話せなかったけど、「大丈夫。必ず帰ってくるから・・」と言ってくれたことが嬉しかった。

でも次に戻ってきた時には、無能の烙印を押され周りの冷たい視線を浴び、時には暴力も振るわれている姿に悲しくなった。

絶対に間違っている!


何度も止めようと庇ってみたものの、結局止めることはできなかった。

なんで戦闘職じゃなかったんだろう。

剣士とか魔導士とか、戦える何かであったなら、猛流(たける)くんの敵は全て滅してやったのに・・・


結局、猛流(たける)くんは帰ってこなかった。

火竜に八つ裂き?嘘!

さぼって娼館?嘘ッ!!

お金の無心?嘘嘘嘘ッ!!!


猛流(たける)くんのことを何も知らないくせに好き勝手言ってる奴らに殺意が沸いた。

火竜討伐にお祭り騒ぎしている中、国の庇護期間も終わり私は錬金術ギルドに誘われた。でも実態は研究ばかりで貴族にしかその技術を使わない金儲け集団であることを知っている。

だから断った。

そうしたら今度は勇者から妾にならないかと誘いが来た。

召喚式の際に見かけて目を付けていたという。

冗談じゃない!


結局私は、英雄でもある勇者の誘いを無碍にしたバカな女ということで、周りからも待遇も一気に冷たくなっていった。

そんな時、さびれた孤児院で管理人を探しているという求人広告を見かけ、しがらみがない場所ならもうどこでもいいや。という思いもあってそれに応募してみた。

すぐに採用が決まり、次の日からはそこが私の住み家となった。


幸い、仲の良かった真理と悠衣子、康代も一緒に来てくれた。この子は猛流(たける)くんに冷たくしたり、噂を信じて陰口を言ったりはしなかったので信用していた。

同じお友達グループだった加奈は、占い師をやってみたいと言って、一緒にはこなかった。

でも、たまにやってきてはお土産をくれたり、面白いお客さんの話をしては笑わせてくれた。


ここの生活は楽ではなかった。他の三人は戦闘職なので冒険者としてダンジョンに入ってくれた。

その素材を売ったり、素材から錬金術でクスリなどを作って納品したりでお金を作っていた。


20人ほどいる子供達はとても素直で可愛い。毎日の家事も一人では大変だけど、子供たちは手伝いも一生懸命やってくれている。

他の三人には冒険者としての活動に集中してもらっている。


それなりの幸せを感じている。猛流(たける)くんのいない世界なんて・・・それなりでいい。そう思って毎日生活していた。

はずだったのに・・・


ある日、加奈がやってきた。たまに来ていたから不思議はないんだけど・・・なぜか私にはよそよそしく見えた。何か隠し事があるのかな?

そう思いながらも、頂いたお土産『稲妻落としクッキー』は美味しかった。


その何日かあと、ギルド経由で100万エルザの寄付が届いた。しかも毎週という・・・怪しい。100万エルザなんて今の孤児院の2~3ヵ月分の生活費。

それが毎週なんて・・・トップクラスの冒険者からと言っていたけど、毎月400万を簡単に寄付できるなんてそんなに稼げるものだろうか?


私は、何ともなしに臭覚強化の薬を調合してみた。私の【直感】スキルがそうした方が良いっていっている。本来は薬師のやることなのだろうけど、私にもできた。錬金術便利。

試しに使ってみると「うん。いい匂い」子供たちがいるから掃除には特に気を使っている。そして1週間たたずに加奈がまたやってきた。


「お土産ありがとう!お茶入れるね」


そういって私は台所まで来てお茶を入れる。子供たちの何人かが加奈にまとわりついて遊びだした。

そして私は嗅覚強化の薬を飲んだ。


「おまたせ!どうぞ」

「あ、ありがとね」


さりげなく加奈に近づいて・・・近づいて・・・えっ・・・


「佳苗(かなえ)?なんか近くない?」


気づけば私は加奈の首筋に鼻をこすり付けていた。


「あーママーエッチなことしてるー」

「いけないんだーエッチ―」


私を普段からママと呼ぶ子供たちが勘違いして騒いでいる。でも私にはそんなことはどうだっていい。この事実を突き詰めなければ・・・私は加奈の肩をつかんだ。ちょっと力が強く入っているかもしれない。


でもそれは仕方ないよね。


「加奈・・・加奈から猛流(たける)くんの匂いがするんだけど・・・なんでかな?不思議だね!教えてくれるよね?」

「え・・・佳苗(かなえ)・・・なんか怖いよ?」


加奈がそんなことを言うから私は口角に力を入れて笑顔を作った。頑張れ私、頑張れ私の口角。


「いや怖い怖い。目が笑ってないよ!」

「いいの。いいから言ってみて。怒らないから!ね?」


加奈の顔が引きつるとともに、子供たちも騒ぐのをやめたようだ。大事な話をしているからね。空気の読める良い子供たちだ。偉い偉い。


「ちょ・・・ちょっと前にね、そう、1週間ほど前にね、あったの。タケルくんに・・・」

「どこで!なんで!今はどこ?なんで私に教えてくれないの?裏切ったの?猛流(たける)くんの事こっそり好きなのは知ってたけどそれで?騙したの?事と次第によっては・・・許さないから!」

「いやごめんって、怖い怖いマジ怖いから!なんかちょっと漏れたし!タケルくんから口止めされてたの!バレたならもう言ってもいいだろうし、会える、会えるから!今一緒にいるから!だから離してーーー!」


思考が止まる。一緒にいる?口止めされてた?会える?会えるの?また愛を囁きあえるの?


「何処?」

「ふぅ・・・冒険者ギルドの近くにあるハイリトンってホテル知ってる?」

「そこにいるの?」

「う、うん。冒険者やってる」

「もっと・・・詳しく・・・」

「だから、怖いって!!!」


それから加奈から色々聞き出した。

凄く強くなっていること、やっぱり悪い噂が全て嘘だったこと、サフィって女がいる事、その女もとんでもなく強いって事、寄付はやっぱり猛流(たける)くんだったこと、そして・・・加奈も女になったこと・・・

そうだよね。猛流(たける)くんだって男の子なんだよね。

それからサフィって女を中心に、猛流(たける)くんは群れと称してハーレムを作るらしいというので、もう色々とどうでもよくなった。

私は、どんな形であれ猛流(たける)くんと愛を育めれば、他のことはどうでもよかった。


「つれてって・・・くれるんでしょ?」

「う、うん。まあそうなるよね・・・」


それから、私はハイリトンホテルに乗り込んだ。

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