9話 悪意襲撃

 大きなその水の塊は止まることを知らず、形を常に変えながらリトヴィア魔導学園の上空を回っていた。まるで生きている生物のようにうねうねと動き、耐えきれなくなったのか、時折自身の体を雨のように地上へ落としている。


 呆然とした僕らに向かって、ゴルアム先生が咄嗟に指

示を出した。


「お前たち!さっさと退避しろ!!」

「ゴルアム先生!これは?」

「分からん!ただ、嫌な予感がする……」

「ルピカ!」

「うん、分かってる!ごめん先生。他連れて先逃げて!」

「おい!危ねぇんだぞ!」


 僕達が駆け出していくと、後ろから少々乱暴に怒鳴ったゴルアム先生の声が聞こえた。

でも、悠長に待っている時間もない。僕達は校内を走り、異変の原因を調べていた。


「ルピカは西棟を頼む!」


 僕はそう言って、東棟へ続く連絡通路を駆け抜ける。


 空はまだ変な生物が回遊している。撃ち落とせる距離にはいないし、撃ち落とせるかも分からない。もし撃ち落としたとても何が起きるかは分からない。触れられないのはわかってるけど、行かなきゃいけない予感がするのだ。


 渡り廊下の先の曲がり角を曲がった瞬間、目の前に巨大な青色の釘のようなものが、天井から貫通してきて床を貫通し刺さった。

 轟音と砂煙が蔓延し、思わず両腕で顔を隠す。


「やっぱり青の魔法色素使いが……!」


 僕は来た道を思いっきり引き返す。するとまた、新しい釘が一本刺さる。


「レ、レイさーん!」

「ヴェアルさん!?なんで!」

「し、心配に……」


 そう言いかけた彼女の奥から、何かが光って見えた。


「危ない!」

「きゃっ」


 思わず彼女の手を引き抱き抱え、後ろへと下がった。

 凄い速さですぐ横を何かが通った感じがした。すぐに相手を見返す。


「魔剣士……?」

「……」


 そこには、ローブを見に包んだ魔剣士のような人物と、魔法色素使いのような人物がいた。魔剣士は一言も口にすることなく、僕に剣の鋒を向けていた。

 冷え込むような空気が空いた窓からびゅうっと入り、僕の頬を撫でる。思考が一気にまとまる。こいつらが、きっと今回の主犯格の手下なのだろうと。


「ヴェアルさん、少し力を貸してください」

「は、はい!」


 僕はヴェアルさんから魔填筒を受け取ると、すぐに魔剣に装填する。


 大丈夫だ。落ち着け、僕ならやれる。彼女に力のコントロールを任せ、僕は剣技に集中するだけでいい。


 自分にそう言い聞かせ、僕は剣を振った。

 チロチロと、蛇の舌のように炎が僕の腕を舐める。ズキズキと火傷の痛みが響き、僕は意識を研ぎ澄ます。


「ヴェアルさん!火柱真正面!」


 僕は膝を抜き、体を傾かせ、走るのではなくそのまま倒れ込む。その予備動作で剣を振るい、投げ飛ばした炎を素体に彼女に火柱を産ませる。

 ローブの男は何とか体を動かしたが、火柱に肩を包まれ苦しそうにもがいている。


「何やってんだよ馬鹿」


 と言って、魔法色素使いらしきローブの男が魔法で魔剣士の男の炎を消した。というより、中和したと言った方が正しいだろう。その光景を見て、思わず僕の足は止まってしまった。

 頭から水をかぶった魔剣士は頭をぶるぶると振るわせる。


「水かけ過ぎだ馬鹿」

「子供だからって遊びすぎなんだよ馬鹿」


 男はクックックと気色悪い笑みを浮かべると、剣を構え直す。僕もそれにつられて魔剣を構え直す。

 魔剣士の強さは分からない。それより魔法色素使いの方がどのように出るかが大事だろう。あの程度の魔法で原色に近い火を消すとなると、かなり強いはずだ。


 すると、何かが壊れる音と同時に地面が少し揺れた。


「そういえば釘はどうなってるんだ?閣下の作ってるやつ」

「今七本目だ。ここの学生に抜かれるわけにもいかない。必要人材以外は殺してもいいとのお達しだ」

「そうかい。じゃあ、悪いがお前ら、死んでくれ」


 その言葉を最後に、魔剣士の男は僕らに向かって突撃してくる。直前で振り下ろされた剣は重く、両手で受け止めることで精一杯だった。

 体を捻り回転させ弾くと、僕は剣を平行に構えて前へ突き出した。男はこれを腕で受け止め、僕の魔剣を腕を振るう事で吹き飛ばす。

 体術の構えを取ろうとする僕に、男は容赦なく蹴りを僕の横腹にくらわせた。


「男の方はタフだなぁ……。まだ意識があんのかよ。じゃあ、先にこっちの可愛子ちゃんを……じっくりと」


 下卑た笑いを浮かべながら、男は太い腕をヴェアルさんの方へ向ける。


 壁に頭をぶつけた僕は、唐突な攻撃に受身を取ることも出来ずただそこに項垂れていた。それから、少し視点を動かしてみれば、ヴェアルさんは男に詰め寄られ、魔法を組む手が止まっていた。彼女は完全に腰が抜け、へたり込んでいる。


「や……めろ」


 やめろ。やめてくれ。その人は、その人は……。


 意識が遠のきそうになる瞬間、僕の中に黒い何かが渦巻く。それは、まるで獣のように僕の体内を這いずり畝り、体内を蝕むように廻っていく。

 ふらつく視界をどうにか落ち着かせ、僕は立ち上がり剣を握り直す。息を荒く吐き出し、呼吸を落ち着かせる。


「やめろ……。それは、俺の……」


 俺はその言葉を口した後、体がすぐに動き、剣を男の背に深く、ずぷりと差し込んでいた。傷口は赤く侵食され、煮詰めたジャムが吹きこぼれるかのように血がドロドロと流れ、腹の辺りで雫となって床へ落ちる。


 男は思わず苦痛に顔を歪め、僕の顔を見た。その顔はすぐに目を見開き、恐怖と懇願が混ざった、意味のわからない顔をしていた。一体何を伝えたいんだろう、こいつは。俺の顔を見て何を思ったんだろう。

 そのまま俺は、そいつの丸い脚を片方切り落としていた。すると男はもっと苦痛に歪んで、ひどい顔になった。


「わ、悪かったって!俺が何したっていうんだ!」

「……知らねえよ」


 俺は男の喉笛を掻っ切った。血が反射して、俺の頬を赤く濡らす。苦しそうに喉を押さえる男が、幾分滑稽に映って、僕は思わずクスリと笑ってしまった。


「俺のこと、殺すんだろ?なら、殺されても文句はねぇな?」


 血で赤く濡れた、美しい銀色の剣鋒を魔法色素使いの方に向けた。


「何が目的なんだ?お前らは、誰の差金だ?」


 魔法色素使いは黙る。黙秘権とかいうやつだろうか?

 俺は少しだけ首を後ろに向け、後ろにいるはずの彼女に向かって言った。


「ヴェアルさん、ここは僕に任せてください」

「……うん、わかった」


 彼女はそう言うと、俺の背中側の通路を抜けて行った。


「さて、これで一対一。ようやくお話ができるね?」


 俺は苦笑しながらそう言って、魔法色素使いに近づいていく。すると、先程と同じ釘がもう一本、目の前に差し込まれてきた。


 数瞬して、轟音を響かせながらその釘は破裂し、縦に大きな穴を開けた。その瞬間、思わず魔力を全身に行き渡らせる。渡り廊下は倒壊し、俺とその魔法色素使いはそのまま下の方へ流れ落ちていった。

 落ちてすぐに、外に出る。その時、普段よりも強く自身の力を感じた。


 学校の中でかなり大規模な爆発が起きていた。その爆発は釘を中心として、半径五メートルほどに伸びていて、地面は底が見えないほどに長く長く抉られ、亀裂が入っていた。


「……何だよこれ」


 僕たちの目の前を除き、他八箇所でも同様の轟音が響いた。辺りを見回すと、八本の光の塔のようなものが天へと伸びていた。いや、きっと地へも伸びているだろう。


 生徒の悲鳴が聞こえる。避難場所にまでその釘は差し込まれていたのだろう。クリシュ、ルミリスさん、コクリア、フィルエットさんは無事なのだろうか。

 ルピカやヴェアルの安否すら分からないまま、俺は変わり果てた学園の中を歩いた。辺り一面は瓦礫の海に侵食され、歩きづらいことこの上ない。

 さっきの魔法色素使いはいなくなっていた。きっと、瓦礫に潰れて死んだのか、僕みたいに上手く逃げきれたのだろう。

 すると、向こうからルピカ達が駆け寄ってくる姿が見えた。


「レイくん!」

「ルピカ!無事か!?」

「何とか!ルミリスちゃんとヴェアルちゃんは拾えたけど、他はまだ見てないの……」


 焦りが強くなっていく。他の3人は、無事なのか?答えが分からないまま、僕は指示を出す。


「ルピカはヴェアルさんとルミリスさんと行動をしていてください!何か非常事態になったら火の矢を上空に撃ってください!」


 彼女達は首を縦に振った後、ルミリスさんの腕を引いて崩れた校舎の中へと消えて行った。


 彼女達が行った直後、違う足音が響いた。後ろを振り返ると、青黒いスーツを着て、青黒いスラックスを身につけた男が立っていた。その男は2メートル近くあるのではないかと思うほどの背丈で、革靴をきちんと履き、ショートヘアに切り揃えた金髪の上から細長いメガネを抑えていた。その左に魔剣士が2人ずつ、右にあの日見た仮面が2人ずつ並んでいた。

 しかし、それよりも印象的なものがあった。その男が持っている魔剣だ。

 豪華な装飾の施されたその剣は、柄の近くに綺麗な青色の魔石が埋め込まれていて、ひとつの芸術品のようだ。それに対し、プラチナのような綺麗な剣身からは夥しい量の魔力が溢れていて、底冷えするような濃密な魔力の気配に思わず背筋が凍りつく。

 すぐに、あの男が今回の首謀犯であることが思い知らされた。


「……ふむ。一応聞いておくが、君がレイ=マーシャライトか?」

「……そうだって言ったらどうするんだ?アンタらは誰なんだ。目的は?何のために学園を破壊した!?」

「……そうか。君が」

「質問に答えろよ!」


 柄を握る手が震える。思考が怒りで満ちていく。どす黒い感情が僕の体内で満ちていく。


「時間だ。聞きたいことが聞けたので帰らしてもらおう」


 男は冷えた目を俺に向けた後、くるりと背を向けて歩き始めた。それに伴い、周りの者達も踵を返す。


「待てよ!」


 俺は思わず駆け寄って剣を振るい、攻撃しようとする。すると、横から先程の魔剣士の女が一人、顔を覗かせた。そしてそのままその女は魔法色素を巧みに扱い、俺の剣を水で包み込み、受け流した。

 すぐに俺はその女と対峙する。


「閣下はお帰りになられると申しているんです。邪魔だてはしないでくださいませ」

「知るかよ!こんなにメチャクチャな事やっといて、目的達成。はいさようなら?許されると思ってんのかよ!」

「閣下が帰ると言えば私たちは帰るんです。そこに貴方の意見が入る余地は1ミリもありません。そんなに遊びたいなら……機会をあげましょう。No.006!遊び相手になってあげなさい。初の実戦です。強くなって帰ってきなさい」

「はい!」


 ソイツはニコリと笑うと、僕の方を向く。その顔には、先ほどまでの笑みはなかった。


「俺ね、あの人から信頼得たいんだよ。どうやったら信頼得れるかな……って、四六時中、寝る間も惜しんで考えてたんだぁ……」


  ソイツはそう言うと、四足獣のような速度でこちらまで駆け寄り、僕の首に尖った歯を突きつける。僕は間一髪でそれを後ろに下がって避けると、ソイツはそのまま口をバチンと閉じた。


「あの人の言葉通り。強くなって帰ればいいんだよ。完全勝利ってやつ?お前とお仲間達全員の生首取って帰れば、完全勝利かな?」

「それが出来りゃいいけどな」


 僕は剣を振って炎を飛ばす。瓦礫に落ちたその炎は空気に揺れ、メラメラと燃えていた。


「あっぶねぇなぁ」

「口動かしてる暇あったらお前も剣を抜きやがれ!」

「わかってるよ……。あーあ、手加減してやろうと思ったのになぁ」


 目の前の男はそう言ってニヤリと不敵な笑みを浮かべ、また素早く僕の腰元へ体を捻じ込んで剣を抜いた。横一文字に降り抜かれたその剣を避けることは出来ず、俺は腹を切られる。

 咄嗟に燃え盛るその剣を傷口に当て、焼いて止血した。ここで内臓広げて死ぬくらいなら、こっちの方がまだいい。痛みでぐらつく視界を何とか抑え、僕は剣を握り直した。


 最初の方こそ猛攻を凌いで炎を飛ばしてを繰り返すのが精一杯だったが、何度も何度も剣のぶつかり合いを続けていく上で、僕は相手の剣筋を多少なりとも読み解くことに成功していた。


「段々追いついてきたな?」

「嫌でもこんなに長くやってりゃ追いつくっての!」


 僕は剣を突き出す。すると相手は切れるのを承知で身体をずらし、左肩で受け止めた。そしてニヤリと笑った。


「バイバイ」


 男は僕の首目掛けて右手で剣を振った。


 咄嗟に首を下に倒したので、髪の毛が何本かバッサリ切り落とされる程度で済んだ。僕は剣を引き抜き離れ、炎を飛ばそうとする。しかし、剣はいくら振ってもうんともすんとも言わない。魔法色素が切れていた。


 思わず集中力が途切れる。その隙間を縫うように、ルピカの声が脳にすんなりと入って聞こえた。


「レイくん!こっちきて!」


 ルピカの唐突な申し出に、僕は踵を返して走り出した。


「戦闘中に相手に背中向ける馬鹿がこの世にいるとはなぁ!?」


 相手の猛攻をルピカが水で弾き返すのを横目に、僕はルピカの元へと崩れた校舎を駆け上がる。

 ルピカと共に死角へ隠れると、息をつく間も無く彼女は話し始めた。


「話は一つだけ。レイくん、アタシと契約して」

「契約?」

「そう。アタシと契約すれば、貴方の魔剣はアタシの魔法色素をより幅広く効果的に活用できるようになる。アイツに今すぐ勝つことは出来なくても、追っ払うことくらいなら容易だと思う。貴方のための契約なの。まだ、レイくんには死なないでほしくない……」

「僕の……ため」


 彼女の目を見る。そのレモン色の目は、真摯に訴えていた。その瞳に、怒りが、どす黒い感情が吸われていく。


 俺、いや僕は……。


 その瞬間、僕の言葉は決まっていた。今の僕が言いたい言葉は、一つしかなかった。


「分かった。契約する」


 ただそれを口にした。この時、僕はいつもの調子に戻っていたと思う。

 彼女はホッとした表情を一瞬浮かべ、キリッとした表情を作った。

 僕たちは正面に立ち、互いの心臓に向かって右手を掲げる。


「レイくん。アタシは貴方と契約する」

「ルピカ。僕は君と契約する」


 お互いの言葉に呼応するかのように、僕の魔剣の刃渡りが淡く光り輝いた。それから、僕らの中指には白くねじれ、真ん中に赤い魔石のようなものが嵌め込まれた指輪が現れ、取り付けられた。


「契約のメリットは大きく分けて三つ。互いの位置の把握、剣のフェーズ解放、剣で魔法色素を使う時の自由度を魔剣士側にもある程度設けれる。ね、聞いてみれば強そうでしょ?」

「フェーズ解放ってのは?」

「魔填筒から読み取った色素に合わせた形に魔剣が変身するの。と言っても、これは契約者の魔填筒を読み取った時に限るけどね」

「なるほど……」


 多分これは、習うより慣れろと言うやつだ。

 僕はもう一度窓から外へ飛び降りると、さっきの男がそこにはいた。


「なんだよ。追っかけっこじゃねえのか」

「そんなに僕は暇じゃない」

「そうかよ。俺ァ楽しいぜ?お前も楽しめよ」

「悪いけど、今お前に構ってる暇はないんだ。早めの退場をお願いするよ!」


 僕はそう言って、ルピカの魔填筒を差し込んだ。

 剣が水の魔法色素を最大限活かせる形へと変化していく。剣先の角度はさらに鋭くなり、大粒の雫が集まるようになった。


「ルピカ、いくぞ!」


 僕は剣を振り、男めがけて水を飛ばした。

 すると、何故かその水は男に触れた瞬間に大きく弾けた。


「は?」

「えっ?」


 僕とルピカは同時に、素っ頓狂な声をあげる。

 僕たちは一切操作していなかったのだ。


「君の色素が変わったの?」

「そんなことは……ないはずなんだけど」


 僕達が答えを導き出せずにいると、衝撃で目の前の男はふらふらと立ち上がった。


「お前ら何を……ああそういうことかよ」


 男は僕たちの様子を見て、何か嫌なことでも分かったかのように苛立ちげに癇癪を起こすと剣を鞘に納めた。

 そして僕たちに向かって指を指す。


「お前らとの戦いはお預けだ。褒めて貰えないのは残念だけど、俺はもっと強くなってお前らに再挑戦するからよ、首ィ洗って待っとけよ」


 それを言い残し、男は走って去っていった。


「何だったんだろう」

「何だろうね」


 僕達は思わず顔を見合せた後、魔剣を見つめた。



             ***



 僕達はその後、退避できていない生徒が居ないかどうかの確認をしつつ、ヴェアルさん達の待つ避難エリアへ向かった。どうやらここでは、ゴルアム先生を主体に生徒を守っていたようだった。

 ヴェアルさん達を見つけると、彼女達は思わず立ち上がり駆け寄ってくる。


「ヴェアルさん、平気でしたか?」

「レイさん!フィルエットちゃんを見ませんでしたか!?」

「姫様も!姫様も見ませんでしたか!?」

「ふ、二人とも落ち着いて!どういうことですか?僕もルピカも、ここに来るまでの道で2人は見てないですよ……?」

「コクリアもだ」


 僕は思わず振り返ると、腕を組んだゴルアム先生が重々しく口を開いていた。


「え?」

「お前達が駆け出して行った後、避難所のここに着いてすぐコクリア、クリシュ、フィルエット、ルミリス、ヴェアルの五名が走り出して行った。しかし、コクリア、クリシュ、フィルエットが帰って来たとの報告はない。お前達が見てないと言うなら……」

「まさか、あの仮面の奴らが?」

「とりあえず、残りの対処は俺たち教員でやっておく。レイ、ルピカもここで待機だ。特にレイ、お前は治療優先だ。身勝手に突撃して行ったことは、多めに見て不問にしてやる」


 僕達は返事を返すと、ゴルアム先生はすぐに離れていった。

 僕はヘトヘトのまま、白魔法色素使いの治癒を受ける。傷の痛みが引いていき、体も思ったように動くが失った体力は戻らない。


「ありがとうございます」


 僕は白魔法色素使いの方にそう言って一礼した後、外で待つルピカの所へ向かった。


「ねぇ、ちょっといい」

「どうしたの」

「ゴルアム先生曰く、立て直し終わるまで休校になると思うだってさ。どうする?」

「……探しにいくよ。居なくなった友達を」

「わかった。アタシもついてく。でも、さっきの金髪の人たちにまた狙われたら危ないよね……」

「逃亡しながら、みんなを探せばいいだけさ。少し変な長旅になるだろうけどね」

「何それ。楽しそうだね」


 僕とルピカはお互いの顔を見合って少しだけ笑った。


 次の目標は、仲間を全て見つけ、取り戻すこと。

 やり方が合ってるかも分からない。もしかしたら既にいないのかもしれない。

 でも、何があっても、僕は皆を取り戻す。

 そのために、僕らは旅に出るんだ。



***



 同時刻。リトヴィア王都。


「やけに偉い騒ぎやなぁ。この上の方か?」


 そう言って王都のこじんまりとした喫茶店の中で、椅子に座って新聞を読みながら俺は言う。


「街の人が一目散に逃げとるわ。ぎょうさん大変なことなっとんやろなぁ」

「呑気に言ってる場合ですか?師匠」

「ええんよ。俺ァこうやって街の喫茶店でジュースをチューチュー吸ってのんびりしてんのが性に合ってんねんから。それよか、アグニこそ、ケーキ食べてのんびりしとるやんけ」


 俺がそう言うと、彼女は机の上に置いていたパイプが揺れるぐらい勢いよく手を下ろした。


「だってケーキが美味しいからであってっ」

「しっかしまぁなんか、懐かしい顔を見そうな予感がするな」

「師匠の予感はアテになりませんけどね」

「酷いなお前。何や、俺の予想が毎度毎度当たらんとでも思ってんのか?」

「はい」

「なんでや!」


 バッサリと切り捨てた彼女に、思わずツッコミを入れていた。

 でも、何だか今日は本当に、懐かしい気分だ。

 それこそ昔の弟子に出会った時のような。そんな気分なんだ。

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