第17話

 目を瞑れば、旦那さまの出してくれる食事が目裏に映り込む。


 ーーーじゅるり………、


 今日は里芋の入った麦味噌のお味噌が飲みたいなと考えていると、先ほどからわずかに酩酊していた意識がふっと遠くなるのを感じた。お腹の中で炎が暴れ回っているみたいに暑い、否、熱いし、身体がふるふると震えている。


(毒………?)


 感じた覚えのある感覚に、感触に、わたしは深く息を吐きます。

 これでも隔世かくりよの国の第1皇女として生を受けた人間。ある程度、いいえ、この世界にあるほとんどの毒への耐性は幼少からの訓練によってつけさせられています。このくらいの毒も、本来ならばただお腹を僅かに下すだけで済んだはずです。

 けれど………、


(角がないという足枷が、ここで顕著になるとは………………、)


 角は妖魔にとって命と言っても過言ではない大事なもの。

 それは見た目のものと思われがちですが、本当は違うのです。


 ーーー角は文字通り妖魔の命そのものなのです。


 角により、妖魔はその生命の血液である妖力を生成し、蓄えます。よって、角が大きく、妖力によって宝石に近い輝きを放つほど、妖魔は強い存在としての格を手に入れます。わたしも生来は幼魔の皇女として相応しい、並外れた量の妖力と妖力の蓄えに恵まれていました。けれど、今のわたしは忘れがちですが片角です。生成できる妖力も、蓄えも、今までの2分の1もありません。


(妖力の減りは命の減りとはよく言ったものですね)


 酷く浅くなった呼吸をどうにか整えながら、わたしは表情を取り繕い、顔を上げます。わたしの視線の先にはひどく冷たい顔をした朝比奈拓人さまのお顔がありました。

 鼻につく濃い血の香りにむせ返りそうになりながら、わたしは平然としたふりをしてにっこり笑ってやります。同胞の血の匂いにも、毒にも、わたしは惑わされない。


「どういうおつもりですか?」


 高い位置から冷たい眼光に射抜かれて、わたしはわずかに萎縮しそうになるのを感じます。


「これは国の総意です。妖魔などという穢れた血を国に置いておくなんて考えられない。あなたにはさっさと滅んでもらいます」

「そう、ですか」


 妖魔が人間を小馬鹿にしているように、人間は妖魔を蔑んでいるのでしょう。


(あぁ、やっぱり)

「ニンゲンは嫌いですね」





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