第13話

「それでは、わたしはお皿を片付けてきますね」

「あぁ、いってらっしゃい」

「はい」


 昔習った畳の歩き方を思い出しながら、わたしは旦那さまのお部屋から退出します。1畳を3~5歩かつ左足で越えれるように、しゃっしゃという擦れる音が鳴るように工夫して、そして何よりお皿を落とさないように、………うぅー、難しいです。


 やっとのことで旦那さまのお部屋を出たわたしは、台所へと戻ってきます。

 お皿や作った時に使った道具を片付けながら思い出すのは、もちろん先ほどの旦那さまの甘やかな表情と仕草。


「はうぅー、」


 水を出しっぱなしにしている流しに腕を置いたまま、わたしはしおしおと萎れるようにして座り込みました。多分ほっぺたとお耳、あとは首が真っ赤っかになっている気がします。


 旦那さまはあの一件以来、とっても甘くなりました。言いたいことを好きに言うように、言わせるようになりましたし、わたしのことを隠さず可愛がるようになりました。その中の1つに、ことあるごとに、わたしを餌付けするというのがあるのです。


 確かに!わたしと旦那さまでは見た目だけでいうと身長差から親子みたいに見えます。

 でも!しかし!!一応わたしの方が旦那さまよりも20歳近く年上なのですよ?情けなさすぎます。というか、恥ずかしすぎます。本当はわたしが転びかけて抱きしめられた時点でこうなりたかったものを必死に我慢したのですから、わたしはとっても偉いと思います。


「本当に、………旦那さまはカスドースよりも甘いお方です」


 ほうっと溜は息をついてしまったわたしの思考をベタベタと甘く彩るのは、この前旦那さまが用意してくださったとってもとっても甘いお菓子カスドース。

 カスドースは焼き上げたカステラを冷ました後茶色い焦げをより除き、溶いた卵黄にくぐらせ、鍋にて熱した糖蜜の中で揚げるようにして表面の卵黄を固め、ざらめをまぶしたお菓子です。ただでさ甘いカステラに黄卵と糖蜜、ざらめを溶かしたお菓子は甘い物好きのわたしですら緑茶を所望してしまうくらいに甘いお菓子でした。


 冷たいお水で手を冷やしていたわたしは、だいぶ脳内も冷えたのを実感しながら立ち上がり、お皿洗いの続きをしました。


 来週はお仕事の関係でお家を空けなければならないとおっしゃっていた旦那さまは、多分また出先でたくさんのお土産を購入して帰ってきてくださるでしょう。そのことが今からほんの少しだけ楽しみなわたしは、ふわふわとした夢見心地で使ったお皿を元通りに棚に戻すのでした………。

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